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Mid space nine  作者: 繁都舞夢
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後始末


「事前に部下を潜らせておいたから、ブラウン少佐については心配いらねぇ。ちょっと艦に来てもらおうか」

 開口一番にそう言われて、断る術も無くルティシアと艦に同行する。

 部屋の前で待つように言われて食い下がったルティシアを宥めて、一人でゲオバルク大将の部屋に入った。

「ブラウン少佐を助けていただき、ありがとうございます。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。全て私の責任です」

 部屋に入るなり頭を下げて謝罪の意を表す。

 一緒に部屋に入ったゲオバルク大将は、そのまま歩みを進めて応接セットにどかりと腰を落とすと、無言のまま右手で前方の席を指し、カノアに座る様促した。

 黙って従い、とすっと小さな腰を下ろす。

 暫く沈黙が続き、何かを考える様に左手で自分の顎を撫で回していたゲオバルク大将が(おもむろ)にアイスブルーの瞳を上げてカノアと視線を交わした。

「あそこで嬢ちゃんが捕まってたとしよう」

 カノアの小さな肩が、びくっと揺れる。

「その責任は誰に行くんだ?」

「あっ…」

 一緒に来ていたルティシアか?

 カノアにだけ相談したブラウンか?

 基地で立てた計画に渋々承諾したディビットか?

 それとも、彼ら全てか?

 実質の責任はカノアの上司…軍の上層部にとなるだろうが、私よりも歳上の部下達もその責は免れないだろう。

 どちらにしても、その結果に対する責任は、誰にも負わせられない。

 今回はゲオバルク大将が来てくれたから事無きを得たが、そうで無ければ。

 下手をすれば3人共捕まっていた可能性もあった。

「嬢ちゃんはまだまだ経験不足で、その為に視野も狭い」

 前屈みに両膝に両肘を乗せ、ゲオバルクはがしがしと漆黒の髪の後頭部を乱暴に掻いた。

「公明正大に他所の星のヤツを助ける方法なんていくらでもあるんだ。若輩で経験が足りてないって自覚があるんなら、まず俺達を頼れ」

 真剣な顔でしっかりと正面から見据えられて、カノアは言葉を失った。

「わかったか?」

 返事を促されて、何とか頷く。

 その様子を見て、ゲオバルク大将がにこりと微笑んだ。

「いい子だ」

 頭にぽんっと大きくて肉厚な右手を乗せられて、最近よく頭をぽんぽんされるなと思う。

「今回の事は親父さんには黙っといてやるから。これからは絶対に勝手に基地から出るんじゃねぇぞ」

 忠告に、これも素直に頷く。

「あと、今回はアクアツィートルの奴らに不審がられない為に置いて来たんだろうが、基地から出る用事がある時は、必ずディノを連れて行け。どんな事情があってもだ」

 真剣な眼差しに、一瞬その真意を図りかねる。


 ゲオバルク大将は、そんなによくディノの事を知っているの?


 疑問に答えは無いが、取り敢えず頷いた。

 確かに、ディノが居ればカノアの身の安全はある程度は確保されるだろう。

 

「あと、ブラウン少佐の身柄はこっちで預かる。嬢ちゃん達はこのままMS9まで送って行ってやる。部下に部屋まで案内させるからもう休め」

 話を切り上げようとしているのに気が付いて、カノアが「失礼ながら」と口を挟む。

「こちらに来るまでにお世話になったアクアツィートル星の方に、心配を掛けているかも知れません。一言無事をお知らせしたいのですが」

 そうで無ければ、(はぐ)れた責任を感じて市場を探し回らせてしまうかも知れない。

「……市場を走り回っていたアクアツィートル人には、既に地球人の少女を我々が保護した事は伝えてある。随分と親しくなったみてぇだな」

 感情を探る様に見つめられて、カノアは思わず両手を膝の上で握り締めた。

「仲良くして頂きました。大変貴重な体験でした」

「暫くは控えて貰うがな」

 椅子から立ち上がり、もう一度、頭をぽんぽんされる。

「以上だ。美人の部下が乗り込んできそうだから、早く出て行ってやれ」

 言われて、確かに入室時のルティシアの様子では、余り長引くと部屋に乱入して来そうだと考える。

「本当に、ありがとうございました」

 深々と頭を下げる。

「この件はこっちで処理するから嬢ちゃんは今後一切他言無用だ。あと、約束は必ず守ってくれ。わかったな?」

 念を押され、敬礼する。

「わかりました。失礼します」

 



「引きこもりだったくせにおてんばだな」

 笑いの混じる声に、嘆息を吐く。

「行動力があると言ってください」

 カノアが出て行った後、隣の部屋から入って来たのはジェイムス・カルティア大将だ。

「私に黙っておくなんて、よく言いましたね」

 にっこりとした顔が、表情筋だけで笑っているようで少し怖い。

「今だって俺からは何もお前に言ってないさ。部下が隣室にお前を通してたなんて知らなかったしな」

 両掌を顔の横あたりに正面を向けて上げて、笑う。

「じゃあ、本当に私には知らせないつもりだったと?」

 若干、纏う空気が温度を下げたような気がする。

 だが、かえって可笑しそうに目の前の男は笑った。

「さあ?」

 私が今回の事で秘密裏にこの艦に来ている事をゲオバルクは知っていた。

 そんな中、カノアを自室に呼び出したと聞けば、私が起こす行動など言わずと知れたものだろう。

「食えない人ですね」

「褒め言葉ととっておこう」

 カツンとグラスを2つ応接セットの机に出して、キャビネットから琥珀色の酒の瓶を出そうとする。

「いりません。水を」

「付き合え」

「お断りします」

 基本的に、酒は嗜まないジェイムスは、がんとして受け付けない。

「お前、絶対俺の事先輩だと思ってないだろ」

「とんでもありません。ゲオバルク大将こそ、後輩に無理強いはやめてください」

 仕方無く、丸く透明度の高い氷を1つグラスに入れ、水を注いだ。

「ありがとうございます」

「ところで、嬢ちゃんの事だが」

 やっと本題に入れた。

「今回の事は最初っから観察に回っていたが、何か考えがあったんだろう?」

 相変わらずこの人は鋭いなと考えながら、ジェイムスは一口水を口に含んだ。

 なんなら、観察していた事すら彼には伝えていない。

「彼女の中の記憶を定着させる為にも、必要な経験になるかと思いまして」

 飲み下してから、応える。

「ほう」

「他の星の種族達との交流は、間違いなく彼女の益になる筈です。それが必要だと考えたから、敢えて手出しはしませんでした」

 ゲオバルク大将は、MS9の副司令官であるシェパード大佐から相談を受けてここに来たのだ。

 今日、今ここで会うまで、今回の事でジェイムスはゲオバルク大将に一言も相談していない。

 シェパード大佐は、以前ゲオバルク大将の部下だった事があったから、相談相手に選ばれたのだろう。

 私とは1度面識があるが、過ごした時間の差は歴然である。

「成る程」

「ブラウン少佐はどうするおつもりですか」

 質問に、ゲオバルク大将がにやりとする。

「気になるのか」

「多少は」

 頼るべき相手を間違えた感は否めないが、娘を頼ってくれた気持ちは親としては嬉しい。

「少しお灸は据えるが、悪い様にはしない」

 彼がそう言うなら、大丈夫だろう。

「宜しくお願いします」

「宜しくお願いされてやる」

 ふっと笑って、ゲオバルクが立ち上がる。

 しっかりと鍛え上げられた体躯は男でも惚れ惚れとする程だ。

 もともと筋肉の付きにくい身としては、羨ましくさえ感じる。

 顔つきも精悍で、数々の浮名を流したのも肯けなくもない。

 まあ、今は奥方一筋の様だが。

「お前の艦隊は、今NGC5236にいるんだろ? 嬢ちゃんを送るには反対方向だから出発までに自分の艦に帰れよ」

 ひらひらと手を振られて、苦笑する。

「言われなくても。今回はありがとうございました。娘を宜しくお願いします」


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