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Mid space nine  作者: 繁都舞夢
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中央基地就任

 プロローグ


「へ? あっ? あーーー⁈」

 突然背後から声を掛けられて力一杯スポイトを握り締めた所為で、本来なら10本分の試験管に分けて入れる筈だった高タンパクの薬液を試験管1本に全て絞り出すように入れてしまった。

 3ヶ月掛けて育ててきた人工細胞のうちの1つが、小さな試験管の中で(もし聞こえるならば)耳をつん裂くような悲鳴を上げて、その命を終えていく。

恨めしげな目を向けてカノアは大きな嘆息をついた。

「何か?」

 状況が見えているだろうに。

 何処かその状況すら愉しむかの様にアイスブルーの瞳を細めて尋ねる20代央に見える(テラ)基地司令官リューク・ゴセットに、カノアはわざとらしく大きくその小さな肩を落として、スポイトを作業台の上に丁寧に置いた。

「家の者が、応接室で待つようにお伝えしている筈ですが。実験室(ここ)は、いろいろと危ないですので」

 快晴の空を思わせるクリアなブルーの瞳が、随分と高い位置にあるテラ基地司令官の整った顔を睨め付ける。

「…あなたに初めて通信にてアポイントを取ったのは6ヶ月前の7月4日。あなたの仰る『家の者』に、今は忙しいから後日にと断られ、その後何度もこちらへ直接伺ったにもかかわらず、全て門前払い。やっと先週家の中に通して頂いたと思ったら、今度は応接室にとどめ置かれたまま放置。今日も伺ったのは朝方だったというのに今はとっぷりと日も暮れて…」

「こっここはテラなんだから、日なんか暮れてないでしょ⁈」

 ここ最近、何故かテラ基地司令官からアポが頻繁に来るなぁと思っていたが、どうせ父親関係だろうし、暫く無視したら諦めるだろうと放置していた。

 6ヶ月も放置していたとは思っていなかったが。

「カルティア提督からの言付けだったら聞かないわよ」

「用件については、かなり前にメールにて送っている筈ですが」

「…山ほどくるから、ほとんど目を通してないのよ。ディノ」

 声をかけると、白髪の短髪に赤い瞳のすらりとした青年が歩み寄ってきた。

「探してくれる? リューク氏からのメールが来てる筈だから」

この家のマザーコンピュータに接続されているサングラスを渡し、それを受け取るディノと呼ばれる青年に、テラ基地司令官は軽く右手を上げた。

「私は存じていますので、直接捜されても大丈夫ですよ」

 その言葉に、カノアはぴくりと左の眉を上げた。

「…だって。ディノ、プリントしてきて」

「わかりました」

 即座に、ジーっとプリンタが動く音がして3枚の用紙が吐き出された。

士官学校(アカデミー)での卒業に関する免除規定の改正?」

「あなたはアカデミーを卒業された際若干12歳だったために体育・実技等を体格、体力の面を考慮して免除され、卒業後の兵役についても、6年先送りというかたちで免除されていましたね」

 確かめるように言われて、カノアは訝しげに頷く。

「その、とおりだけど」

「その卒業後の兵役について、やはり2年までしか先送りは出来ない事になり、その旨について書面で送付したにもかかわらず、応答が無く、月日が流れたので、ペナルティを知らせて来るようにアカデミーから言われまして」

 食い入る様に先程プリントアウトした用紙を見つめていた少女は、胡散臭気に向かいに立つテラ基地司令官を睨み上げた。

 カノアは12歳でアカデミーを史上最年少で卒業し、今現在15歳。

 つまり、卒業してから2年はとうに過ぎている。

「それっていつ決まったの?」

「つい6ヶ月程前ですよ」

 にこりと笑って応じる。

「日付を見る限り、貴方が私に初めてアポイントをとるより3日前くらいみたいなんだけど」

「その様ですね。書面ではそれより前には投函されている筈ですが」

 封書が地球(テオ)から(テラ)まで何ヶ月掛かるか知っている筈だ。

 しゃあしゃあと言って除けるこの司令官は、綺麗な顔に反してなかなか曲者の匂いがしてきた。

 ちなみに、カノアは郵便ポストのチェックもしない。メールの整理もしなければ、家の家事もしない。

全てはカノアの製作した『家の者』の仕事だ。

 必要に迫られなければそれらの整理を言いつける事も無いが。

 そして、カノアのそれらの行動を、テオに住むカノアの家族は熟知している。

 その上、ディノ(家の者)のことも知っているときたら。

 間違いなく父親の息が掛かっている事を確信しながら、カノアは本題に切り込む。

「で、カルティア提督は…お父様は私に何をさせたいの?」

 質問に、リュークは口の端を少し上げて今までで1番人の悪そうな笑みを浮かべた。

「最新の中央司令塔の役割を持つ基地の司令官を」


どきどき。

うきうき。

そわそわそわそわそわそわ。。

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