覆水盆に返らず
世はファンタジーの世界。勇者マモルは魔王との戦闘中にあった。
「ハァハァ、やるな、魔王よ!」
勇者は見る限りボロボロであり、残された力はもうほとんどないだろう。あと、一撃でも攻撃をくらえば間違いなく死ぬに違いない。
「ちっ、ここは一時撤退だ!」
「・・・誰に言っているのだ?」
勇者の周りには誰もいない。いや、最初から誰もいなかった。というか、その装備はなんだ!木の棒って・・仲間はどうしたのだ、コイツ!しかも、威嚇しただけで、なぜそんなにボロボロになれる。
「お主、勇者なのか?」
「ああ、今日が初出陣だが」
「そうなのか・・・ん?」
「いや、どのみち最後には倒さないといけないし、どのぐらい強いか確かめたほうがいいのかなって」
「えっ、死んだらどうするのだ?」
「教会に行けば復活できるって説明受けたけど」
確かに教会に行けば、死んでも復活は可能である。ファンタジーな世界では当たり前だ。
「誰がお主を教会に連れて行くのだ」
「えっ、勝手にワープするシステムとかじゃないの?」
「そんなわけないだろ、あれは生きている仲間などが必死に逃げて連れて帰るのだよ」
「じゃあ、ここで死んだらどうなるの、俺?」
「復活させないように、ここに置いておくのに決まっているだろ。仮にもワシを倒すのかもしれない勇者だろ?」
「・・・逃げたちゃだめ?」
「だめに決まっている。まさに“覆水盆に返らず”だな」
「えっ、どういう意」
そうして、マモルは死んだ。
「覆水盆に返らず」
【意味】
いったん離縁した夫婦の仲は元に戻らないことのたとえ。転じて、一度してしまった失敗は取り返しがつかないということのたとえ。