プロローグ
「ここなら、誰にも邪魔なんかされないよね」
さすが大晦日というところで、夜の街はたくさんの人で賑わっていた。地上四百八十五メートルの地点にあるビルの屋上からでも、街の騒々しさが伝わってくる。
酒に酔った集団。
いちゃいちゃなカップル。
……なかには、私と同じような新年を迎える人もいるようだ。
ふうっと息をつき、改めて美しい夜景を目に焼き付けた。
「なんで、こんなに苦しいのかな」
ぎゅっと心臓のあたりを握った。
それもそのはずである。
病院での治療生活がいやになり、こう、飛び出してきたのだ。毎月、使いもしないのにたまっていくお小遣いをすべて持ち出して、病服のまま目的もなく出てきた。髪もボサボサのまま。
本の世界にあった、転生、とやらが出来るのであれば、私は変わることができる。
もう、治療には耐えられない。
どうせ、ドナーなんて来やしない。
確信のない治療なんか受けたくない。
ただ、つらい思いだけして、死を迎えることなんて出来ない。
なら、どうする?
私が変わる。
特に希望があったわけでもなんでもない。でも、待ち続けるよりかは自分で動きたい。
所持金を屋上からすべて撒いた。
使わないのなら、いらないから。
フェンスに手をかけて、縁に立つ。
三、二、一……。
「ハッピーニューイヤー!さようなら、母さん、父さん、姉さん!」
足に力を入れて、一気に落ちる。
だんだんと遠のいていく意識の中で、金切り声に近い悲鳴が聞こえた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あれ?本当に転生した系ピーポー?」
むくり、と起き上がる。すると、腕に痛みを感じた。
「ほへ?」
腕には見覚えのある傷があった。
どこで見たのだろうか。
「お、起きた!」
そりゃ人間、普通だったら起きるのが、当たり前だろう。
そうか、私、一回死んだのか。なるほど。うん、普通ではないかもしれない。
「まあ!まあまあ、ソフィちゃん、生き返ったの?嬉しいわ」
少々化粧は濃いが、綺麗なお姉さんに抱きつかれた。
女の私でも、悪い気はしない。
ふむ、どうやらこのお姉さんは見た目より膨らみが成長しているようだ。
銀髪、ポニーテール、涙ボクロ、スタイル抜群……あれ?これってもしや。
「ソフィ、お父様は嬉しいぞ。まさか、あの状態から生き返るなんてな」
うん、確定だ。
ここは異世界である。
まず、見た目からおかしい。お姉さんの髪は、綺麗な銀色。これはかつらでも、地毛でも、地球人にはない色。
そして、決めては父親の淡い青色の髪である。ここまで綺麗な色にはならない。正真正銘の地毛だ。
そして、私は……。
「ええ、マジか」
私の髪は、前世(ここでは、前の世界のことを前世と言っておく)と同じ、真っ黒だった。
おっ、瞳の色は違うぞ。
瞳の色は、いわゆるオッドアイであった。左が透き通った群青色、右が血のような深紅だ。
「あれ、お前、本当にソフィか?」
ええ、違うの?いやでも、私の現世(前世に対してこちらの世界のことを現世と言っておく)記憶のソフィちゃんが私はソフィって言ってるのだが。
「いや、私はソフィだよ。何言ってるのお父様。お父様こそ、頭おかしくなっちゃったの?大丈夫?」
「あ、ああ。うん、ソフィだな。お父様の頭は決しておかしくなってないぞ」
「本当かしらね。まあ、ソフィ。あなたが死ななくて良かった。嬉しいわ。本当よ」
ナイスフォローをありがとうございます。
どうやらこのお姉さんは、私のお母さんらしい。まあ、違和感はないな。
さて、ここが異世界とわかったところで、何をしようか。
前世での私は決して多趣味ではなく、むしろ、その反対だった。
「ううん。あっちは制限ばっかりされてたからな。仕方ないっちゃ仕方ないか」
もともと、あちらの私は心臓が悪く、病院で生活していた。だからか、制限ばかりされて、許されていることがかなり少なかった。
本を読むこと、編み物と、寝ることと、絵を描くことと、勉強……くらいだったか。
逆にだめだったものは……。
小児科病棟にいたときは、廊下で滑って遊んでいたら怒られて。
男の子とレンジャーものの戦いごっこをしていると怒られて。
置いてあった箒でチャンバラごっこをしていると怒られて。
たまっていく使い終わったノートをぐちゃぐちゃにして、野球ごっこをしていると怒られて。
うん、看護師さん、ごめんなさい。私が悪かった。誘ってきたやつらもだけども、こっちもすみませんでした。
お転婆だったね、うん。サーセン。
「よし、今日はなんの日か覚えてるか?今日は、ソフィの誕生日だ」
そういえば、そうだった!
ソフィちゃん、おめでとう!って自分の誕生日ではないか。
「おめでとう、ソフィ。今日、目が覚めたって聞いたけど、体調は大丈夫かい?無理せずに、気分が悪くなったら言っておくれ」
「まあ、抜け駆けはダメよ、ローレン。ソフィ、おめでとう。あと、あんなお馬鹿に構わず、私でもいいのよ」
食卓につくと、すでに準備が終わっていた。
どうやら、ソフィは優しい兄と優しい姉をもっているらしい。前世では、理不尽な姉しかいなかったからな。
こうやって兄弟に優しくされるのは新鮮だ。
「ふへへ。ありがとう、お姉様、お兄様。体調は大丈夫、気にしなくてもいいよ」
安心させるように、へにゃっと笑う。前世だったらかなりやつれていたし、このような表情をつくることは出来なかっただろう。
「おや、ソフィ。瞳の色はどうしたんだい?片方ずつ違うぞ」
「あら、本当ね。どうしたのかしら。まあ、病気でなければいいのだけれど……」
もしや、ソフィちゃんはもとからオッドアイではなかったのか。地球でも、人間にオッドアイが出るのはごく少数であったが、こちらでもなのか。
ふむ……しかし、目の色以外には特に異常は見つからない。群青色の方の耳に異常もなかった。
いや、でも症状が何かしらあるはずだ。そうでないとおかしい。
どうしたものか。
ここは、日本より時代が遅れていたように感じる。診察するにも機械がないとだめだからな。仮に診察できたとしても、治療が出来ないとな。
全く、手の出しようがないな。
「まあ、今のところ元気そうだし、いいんじゃないか?とりあえず、全員集合したな。よし、それでは」
皆が手を合わせたので、少し遅れて真似をする。
「食の神に祈り、今日も食にありつけることを感謝する」
なるほど、いただきます的なお祈りか。
また真似をしてお辞儀をすると、いきなり、ブオンという音と共に魔方陣のようなものが出現した。
(慣れているのか?いやいや、魔法があるわけでもないだろうし……)
そろり、と目線をあげる。すると、驚いたような顔をした家族がいた。
「ソフィ、お前何かしたか?」
「?何もしてなんかいないよ?」
父さんの顔から血の気が引いた。
「どうかしたの?みんなしてさ、顔が真っ青だよ」
「どうかしてるのはお前だよ。ソフィ、心配事でもあるなら、お兄様が聞いてやるから、とりあえず納めてくれないか?な、な……?」
「うん、でもね、仕舞い方がわかんない。どうすればいい?」
とりあえず、イメージでもしてみるか。
納める感じで……。
「おっ、できた!」
ようやく、父さんは母さんに起こされて椅子に戻った。
「ふう。お前、今、何をしたかわかっているか?」
「さあ?わかんない」
ひゅっと息が乱れたのが離れていてもわかる。何をそんなに焦っているのだろう。
「お前はな、一生で使いきれないほどの魔力を一気に消費したんだ。もう、お前は魔法を使えないかもしれない。この事が理解できるか?」
「まあ、そりゃね。うん。でも、私、魔法を使えなくったって生きていけるよ」
真っ青になった父さんの顔が面白かった。
「おい、あれを持ってきてくれ」
「ほいよ」
「ありがとう。ソフィ、これを握ってみてくれ」
なんだろう、ただの硝子の装飾品に見える。いや、見ようによっては杖かもしれない。
よくわからないまま、握ってみる。
すると、杖と思わしき棒は虹色に光だした。
プリ〇ュアの玩具みたいである。
「な、なんじゃこりゃ。見たことがないぞ。」
「私もです、お父様」
大人が扱うということは、玩具ではないのだろう。話から読み取るに、魔法関係といったところか。
「よく聞いてくれ。お前はとんでもないほどの魔力を持っている。これは将来に関係する話だ」
「ソフィ、お前は魔法を学びたいか?それとも、戦術を学びたいか?」
こんにちは!夜鈴と申します。
下手な文しか書けない未熟者ですが、どうぞよろしくお願いいたします!この作品と共に!!