その4
分類学。それは分類するというただそれだけのことに全身全霊を擦り減らす学問だ。
たかが分類されど分類。本の分類一つとってみても、内容、出版年、著者、題名、対象、ページ数、などなど、その方法は様々だ。それぞれに利点欠点があり、また主観で変わってしまうものも多い。
しかしまあ、この図書館では内容と著者で分類している。
だからどうした。そう聞かれるかもしれないがまあ聞いてほしい。ここからが本題だ。
私は日々観察をしている。幼女からロリ婆まで、図書館に訪れる様々な者たちを、だ。
「おねーさん、ご本のかしだし、おねがいします」
「はいはい、ちょっとまってね」
幼女である。紛れもない幼女である。せっかくなので皆さんご一緒に。さん、はい、幼女である。くどい。
身長100cm体重16kg。ピンク色のワンピースで、その手に持つは『確率と統計』。がっつり数学である。大学レベルだ。
「こらっ、勝手に難しい本を借りようとしちゃ駄目でしょ」
天才幼女。もしかしたら転生者かもしれない。トラック型か、トイレ型か、神のミス型か、ゲーム内型か、巻き込まれ型か、召喚型か。
「こういう本は、頭の偉い人が読むの」
いや、普通に寿命を全うして普通に記憶が残ったまま転生した可能性も捨てきれない。
「ほら、元の場所に戻してきなさい」
きっとこれから彼女(だが中身は青年)は、政治経済数学科学文学芸術何でもかんでもに影響を与えるのだろう。
「はーい」
話がそれたが、まあ利用者を見て分類しているのだ。
経験的に、大きく次の五つに分けられることが分かった。何もしない人、本を借りにくる人、読書をしにくる人、勉強をしにくる人、そして私を見にくる人だ。
「あながち間違っていないところがいやらしいわ」
「プラシーボ効果とカリギュラ効果とサブリミナル効果とドップラー効果と耳鼻咽啌科の五ヵ条効果の賜だ」
あそこに毎日のように座っている彼は、いつもチラチラとこちらを見ている。私が視線を向けると、慌てたように手元の1ページも捲られることのない本に顔を向ける。貸し出し手続き中は今が好機とばかりにじっと見つめてくる。
だが悲しいかな、彼は私の好きな男性像ではないのだ。
私が好きなのは、年下の男の娘。赤い林檎に唇寄せて、赤い手拭いマフラーにした、あなたの優しさ染みてくる、あいつは可愛い年下の男の娘。
風呂屋で私を待たせるくせに、娘の門出に涙を流す。意地っ張りでも涙脆くて、そんな男の娘がほしい。
「どんなだよ」
知らん。