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その1

 物語はいつ始めるのが一番いいのだろうか。中々に難しい問題ではあるが、しかし決まりきった答えのあるものもある。

 たとえば個人の人生を記した自叙伝といったものならば、その人物が生まれた瞬間が物語の始めだろうし、たとえば私が語り始めるとしたら、つまりこの小説ならば、今この瞬間だろう。

 見た目は中学生か、小学校の高学年か。それくらいの少年がカウンターから少し離れた所で慌てたように走ってきた小さな女の子とぶつかったのだ。この出会いが彼の運命を大きく狂わせることになろうとは、いったい誰が予想しただろうか。

 もちろん図書館では走らないで下さい。

 この物語は、そんな少年と小さな女の子の、愛と友情、夢と希望の日常系恋愛スペクタクルファンタジーである。


「あのー、貸し出し手続きをお願いしたいんですけど」

「あ、はいはい。お待たせしました」


 そしてこの小説は、図書館のカウンターに座る一人の妄想少女と、彼女に関わる人々のお話である。



 本を借りる人は多種多様だ。幼女からロリ婆まで取り揃っている。

 老若男女、人間精霊悪魔天使と種族も問わず、職業も学生や冒険者、パフォーマーと様々だ。

 反対に、本を貸す側はオスフェジロという小柄な種族で占められていた。どの種族とも友好的で、そして記憶力がよく、さらに几帳面というオスフェジロは、こうした職場では引っ張りだこなのだ。

 しかしそんなオスフェジロの中にも変わり者はいる。その一人、アンリスは、カウンターに両肘を突き、行儀悪く前をじっと見つめながらにやついていた。

 小さな女の子は服もいいもの着ており、どこかの国のお姫様だろうか。お転婆で、侍女の制止を振り切ってきてここにいるのだ。少年は……冴えない。眠そうで、そういえば昨日の夜から一歩も外に出てないようだ。あれは国立研究所の若き天才博士に違いない。

 やっぱり運命の出会いだ。

 いったいぜんたいどこがどうしてそうなるのか。一風変わった彼女アンリスの妄想は日々進化している。

 恐らくこの後、二人はこの国を出奔することになるのだ。予想の何倍も斜め上をいく少年の発明によって騎士達はことごとく蹴散らされ、魔物は一瞬で塵となる。手を繋ぎ、引き引かれながら、どこか遠くの静かな森の中にログハウスを建てて。

 もうすでに少年と女の子は別れ去った後だったが、幸いにもカウンターに並ぶ人はいないためアンリスの暴走は止まる気配もない。

 子どもは5人。男の子が3人に女の子が2人。森の動物たちと楽しく暮らしていたのだが、ある日、遂に騎士に見付かってしまう。王城に連れ戻された姫は塔に引き込もってしまい、食事もろくに摂らず、ただ衰弱していくばかり。王様も家臣の手前、簡単に許すわけにもいかない。そんなとき、五人の子どもが姫に会いに来た。流石に可哀想だからと姫のもとに連れていくと、子ども達は姫とともに忽然と姿を消してしまった。

 その後、彼女たちの姿を見たものはいなかったそうな。


「すみませーん。貸し出しお願いしまーす」

「はいはい、どうぞ」


 物語はここで終わる。

 さて、ここでまた問題だ。この小説はどこで終わるのだろうか。

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