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最強魔術師が魔法世界で無双する?!  作者: 金糸雀
二章 シッカ王国からの旅立ち
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彼方からの記憶 Part1

「はぁ…はぁ…。ここがラントの森であってるんだ…よな?」


俺が来た時は美しい森だったはずだ。

それが今は木々の殆どが燃えて、ある場所では生命の1つが炎によって焼身され、あるところでは生命が二酸化炭素の塊によって窒息し、またある場所では炭となって1つの長い寿命を終わらせた可哀想な樹の残骸が残っていた。

美しかった面影なんて無く絶望の炎によって包まれた森だけが残されていた。


「頼むからみんな無事でいてくれよ!」


やっぱりここに来ていたのは焔龍本体とシウバ。王都での焔龍は本物に極限まで近づけた実像がある虚像。ベルク・スペアがぶつかった時、手応えがあったがそれだけであって焔龍が「息絶えた」という事実が甚だ疑問に感じた。それがあの時の違和感だった。たった1発の魔法で息絶えることがあるのだろうか、と。


エルフの村に着くとそこは単なる地獄絵図だった。周りの木々よりもここは灼熱の炎に囲まれていた。地面はその熱によってドロドロに溶け家々は燃えて崩れていた。

エルフは全員火傷を負っていたが、持ち前の魔力の膨大さのおかげで壁が厚かったのか、何とか息があるものが多かった。


「タウラント!タウラント!タウラント!」


これほどの燃焼速度で燃えている炎を消し飛ばずには津波並みの水が必要だった。


タウラント―指定された座標に高密度に圧縮した水を生成し破裂させることでその座標周辺に多量な水を生み出すことが出来る。


これは魔力量を抑えることもできるため連発してもそうそう魔力切れになることは無い。

小さい水の波が収まった後、零蒔は見えたエルフを片っ端からエルフ村にある中央の噴水広場に集め横たわらせた。見えないところに生存者がいないか魔力探知で探していると瓦礫に生き埋めにされている個体を感知した。


「っ!この魔力の感じ…ダインのおっさんか!魔力が少しずつだが消えていっている。それに拍動も少しずつ弱まってるな。ここで一番の重症っぽいな」


零蒔はダインを助けるために瓦礫の山を風魔法で退かした。ダインは息苦しそうにしていたが、上に乗っかっていた瓦礫がなくなると苦しむ素振りはなくなった。

だが、ダインの身体へのダメージはとても多く、肋骨を6本、左足は完全に押しつぶされている。それ以外にも内蔵破裂を起こしている。このままではダインは死ぬだろう。

ー否、それはここに単なる回復術士がいた時や治療を行える者が1人もいない時である。

だが、ここには零蒔がいる。

零蒔のギフトは『創造魔法』であって想像魔法ではない。彼の実力は魔法を初めてこの世界で体験した勇者やこの世界の賢者を遥かに超える。


「」


零蒔はこの世界の言語でもなければあの世界で一般に用いられている言語でもない。

別のなにかの、いやもっと高次元の言語で何かを唱えるとダインの身体は突然白く発光し、その光はダインの身体から不純なものを除くように余分な血液や骨の破片などを抽出し、そして治療を始めた。

初めに内蔵破裂。

潰れて再起不能になってしまった細胞に、潰れる前の活発に活動していた時の細胞をコピーし貼り付け「潰れてしまった」という事実を捻じ曲げた。

そして完全にコピーされた細胞をその内臓の形に型取り、元の内蔵に復元する。そうすることによってその内臓は「潰れてしまった」という時間軸を本来の軸から取り除くことで、本来潰されるはずの内臓を潰されなかった内臓へと変換した。そしてこういった切り離された事実はメモリーと化し、その者の記憶と零蒔の記憶に刻まれることによって潰された感覚として残る。

厳密には、潰されたが潰されなかったという矛盾が生まれる。

この矛盾とは到底生物が許容できる処理能力を逸脱しているものとなる。故に、この矛盾を置き換える必要がある。でなければ、その生物の脳は精神的に死を迎え自我を保つことは不可能になる。

「潰されたが潰されなかった」という事実の矛盾を「潰されたが修復された」と置換することによってこの矛盾を改善し許容できるようにした。これを零蒔の中でいう「回復」または「治癒」と位置づけた。但し、この行き場がなくなった矛盾は零蒔の元へと向かい零蒔はこの矛盾を真正面から受ける。謂わば、零蒔がその『本来の時間軸』という呪いを受けるということになる。

この治癒を内臓に施すことでダインが受けるはずのその圧縮をなかったことにした。

内臓を修復した後、次は肋骨の修復。これも内臓と同様にバキバキに折れる前の骨を今の骨にトレースし折れてしまったという部分だけ切り取った。

この零蒔の「治癒」を使い次々とダインの身体を治していった。ダインへの応急処置(完璧な手術)は全て終わり、自然治癒結界をダイン含めほかのエルフを囲うように張りその場をあとにした。

零蒔にはエルフの治療の他にもっとやるべき事があった。レナがこの場にいないことにいち早く気づいていた零蒔は恐らく長老と一緒にいるのだろうと考えた。レナは次期村長になると聞いていた。陰樹の保護は今まで次期村長に一任されて来たことも知っていた零蒔は「レナは長老と一緒に陰樹を守っている」と考えられた。無論、これを証拠づけるように巨大な2つの火の魔力と闇の魔力に交戦している2つの魔力がさっきの魔力探知で見つけられた。そしてその場所がちょうど陰樹の場所であることも。


さっきから長老の魔力がダインさんみたいに消えかけている。とりあえずあそこにいる3人と1匹の他にモヤモヤしてるマナがあるがそれは陰樹で間違えないだろう。だけど、このモヤモヤってやつ明らかにあの時とは違う。あの時はまだ神聖なオーラが出ていたはずだ。なのに今だと黒く邪悪なオーラみたいだし。

この感じから察するに…手遅れかな。

でも、2人を生きてラントに帰る。これは変わらない。


ーーー数十分後


「はぁ…はぁ…おじい…ちゃん。ごめん..なさい」


1人の死にそうな少女が1人の死にそうな老人に謝っているこの光景を見たほとんどの人間がこう口にするだろう。「あぁ、なんて悲しいのだろう」と。

だが、この光景を見ても何も思わない者がいる。

無情で非情な人間であればこの光景を見ても「だから?」と思ってしまう。なぜなら、この光景に何一つ自分に得する部分などないのだから。

ー否、得する部分を1つ答えろと言われたならば、サイコパスはこう答える。「殺すのに手間がかからない」と。

故に、今彼女らは守るべきものを失われ、彼女が愛する老人も助けられず、そして自分が殺されてしまうことにすら気づかない。こんな絶好の機会を殺人鬼は見逃すことは無い。

情があるのであればこの光景を見て見逃す可能性はあったのだろう。

しかし、ここには情が深い地球の人間のような者はいない。

ただここにいるのは、喰う喰われるの関係。殺すか殺されるかの世界で生きてきた人間にはそんな安く脆く、そして憐れな情などとうの昔に捨ててきた。


「ふふふふあはははっ!憐れで哀れで救いようのない!これが人間!……まだ虐殺たたかいは終わってないんですがねぇ」


しかし、狂人がそう言葉を発したと同時にどこからかとてつもない殺気が解き放たれた。

この殺人鬼は本能で察した。

何かを感じた殺人鬼は周りを見渡した。

この場に自分に向ける殺意は無い。では一体どこから?

殺人鬼は本能に従い逃げるようにその場から離れようとした。しかし、殺人鬼の感じた気配はまるで食欲に飢えた凶暴で狂暴な猛獣のような気配。それ故に、殺人鬼が取ったこの『逃げる』という本能はまさに悪手だった。


「…おい。どこへ行こうとしてんだ?」


その声音は狂人を喰らった。

正確には狂人の逃げるという本能を喰らった。

悪手であるはずの逃げを封じられてしまった狂人を焦りで染まった考えが、一気に冷やされ冷静に次の行動へと移れるように考えさせた。

狂人は感謝した『死』というものから解放され冷静になれた。冷静になれたおかげで猛獣を本当の意味で目覚めさせることが出来た、と。


「感謝致しますよ。あなたのおかげで冷静になれましたよ。ふふふふはははは!さっきぶりですねぇ?冥王様?」


狂人の目線の先には1人の黒髪の少年が立っていた。その少年からは怒りに満ちた感情が体現したかのように目から涙を流しながら狂人を睨みつけていた。

狂人はその姿を見ると嬉しそうに両手を広げその少年に感謝した。

狂人はあの時一瞬の迷いで逃げを選択してしまったあと感じた悪気によって理解した。

「あぁ、この少年はいつか王を統べる神となる」と敬意を示した。

だが、「私の前では不完全なあなたは単なる塵に等しい」と蔑みを彼に向けた。

少年の出す殺気が狂人を冷静にしてしまった。ここから憐れで虚しい蹂躙が襲えると狂人が感じた。

そして、その少年もそれを分かっていた。だから


「よぉシウバ、さっきぶりだな?」


少年は至って冷静を装い、相手が冷静になっているなら自分も冷静になれと念じた。


「あはははっ!そうですねぇ。それでここに何しにきたのですか?」


零蒔はそう言われるとシウバのそばに横たわっている1人の老人の死体と1人の少女に目を向け口を開いた。


ドゴォーーーン!!!

「この2人を連れて帰るために来た」


それは一瞬の事だった。零蒔が口を開くと同時にシウバは2人を魔力の塊で粉砕しようとしていた。だが、零蒔はそれをさせなかった。

正確には、2人に魔力の塊をぶつけることをさせなかった。零蒔は2人を抱えるようにシウバの後ろに立っていた。


「ガァァァァ!」


シウバの後に待機していたのは、まだまだ熱を出し切れていない焔龍だった。焔龍は、零蒔に火のブレスをしてきたが零蒔の魔力の前では無意味だった。

零蒔は高速で魔力回路に自分を含む1メートル以内に水の障壁を張るように指定し行使した。

火のブレスがその障壁にぶつかると瞬く間に蒸発した。ブレスの火力を抑え込むようにその障壁が彼らを守った。


「おい蜥蜴野郎!誰がテメーの臭い息を俺にかけていいって言った?あんまり出しゃばるじゃねぇぞ!」


零蒔は威圧をするようにドスの効いた声で焔龍に放つと焔龍は恐怖を味わったのか戦闘の意欲を示した。

焔龍など神獣指定されている魔獣は自分より遥かに劣っている他種族を嫌悪し見下すと言われている。無論、遥かに劣る人族などのことで、理由は何をしても1人で挑もうとはしない愚かで弱く醜い生物だからで、焔龍は特にそれを嫌う。

故に、焔龍は目の前にいる一人の人族がたった1人でここに来て自身に敵意を示し、尚且つ、自身を恐怖させるほどの威圧を持つ人間にプライドが傷付けられた。

神獣などいわば王だ。焔龍が王であれば零蒔など気に止める必要のない平民。

これにプライドが傷つけられないということはありえない。今まで自分が周りに恐怖を与えてきたのに自分が恐怖してしまったことに。

自身に謀反を犯す目の前の勇者に牙を向けた。

焔龍は「この人間はいずれ我々神獣を脅かす存在である」と悟り、そして「この人間を殺さなければ自分が殺される」と感じた。

ー否、零蒔の前では焔龍の意思など関係はなかった。零蒔はそもそも焔龍に敵意など向けてなかった。焔龍など眼中に無かった。故に焔龍がここでどう思おうが全てが無意味だった。


「滑稽だな。今まで散々人間のことを見下してきた王者が今では俺の前で立ち竦んでいるとはな?」


そう、焔龍の意思はここでは関係なかった。焔龍がどう捉えようが既に零蒔に抗うことは出来なかった。焔龍がいくら戦う意志を持ったとしても身体が前に動けなかった。零蒔に火のブレスを放とうと思っても力が出ない。


零蒔は焔龍に手を翳すと何かを唱え始めた。


「な、なんですか?この呪文は?この世界では存在しない言語?!」


シウバは目の前で起きているのが不思議で不可解だった。焔龍は零蒔にいくら待っても攻撃を仕掛けなければ零蒔はこの世界の言語ではなく知らない言語で呪文を唱え始めた。誰もが見ても異様な光景だ。

零蒔は唱え終わったのか口を開いた。


「お前らは何故か俺らが召喚されたことを知っていた。それをとやかく聞くことはしないが、お前らは1つ間違った情報を得ていたおかげで良かったよ。それは俺らの世界で魔法が存在しないということだよ」


「一体どういうことです?彼ら勇者たちの世界では魔法など存在しないはずです!」


「お前らは愁やほかの勇者たちがあそこにいた奴らに話したことをお前らの間者が流した情報に過ぎない。お前らはそれを信じた。それだけだ」


「ま、まさか!そんなはずがない!ならばどうしてあなたは魔法を初めて知ったような様子だったのですか!ハッタリならやめてください!」


「やっぱりな。お前らみたいな用心深い奴らが間者だけの情報を鵜呑みにすることはまずないからな。自分たちでその勇者を確かめに来たんだろう?そこで俺の名を知った。そうじゃなきゃ火山で俺の名前を呼ぶことなんてないんだからな」


事実、あの時まで俺は魔法を知らなかった。いや、地球に魔法があるとは分かっていたけど、分からなかった。魔法というものを記憶から消されていた。


ーーーここに到着する前

零蒔は燃やされ切り倒された陰樹の前に立って誰かと会話していた。会話というより一方的に零蒔が喋っているようにしか見えない。しかし、確かに会話が成立しているように思えた。

零蒔の精神に問いかけるものがある王だとは誰も思わない。


「俺はやっぱり魔法というものを忘れているってことか?」


ーーあなたは日本での記憶をある部分だけ忘れています。あなたはそれを思い出す権利があります。


「権利?忘れ?そんなの一体?いやいやそんなことよりも早くレナ達を!」


ーー『誓約』…これであなたは私との会話が途切れたあと全てを思い出します。


「いやだから俺は何もーーー」


ーーそれが彼女との契約ですから。


「え?いや、は?」


あれ?やばい…なんか目の前が真っ白に…。

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