神すら予期できなかった事件
僕がガイトル迷宮から帰還して王城にて零蒔と金井君が犠牲になったことを改めて痛感して1ヶ月は経っただろうか。
迷宮から帰還したあとのみんなはそれぞれのやることを明確にしていた。
最初の五日間は零蒔が言っていたように図書館に籠り、この世界の情報をできる限り集め、狂剣ハウルの時のような事がもう起こらないように情報を集めた。それからは積極的に武術を磨き、チームでの連携も何度も確かめた。
そしてある時を境に僕達の運命は急に早くなった。
丁度一週間くらい前になってシンクさんとダンさんが広間に集まってくれと指示を受け待っているとそこへ2人と一緒に数人の大人を連れて入ってきた。ローブを来た若い女性、背中に大槌を携えた40代くらいの男性、教祖のような格好をした老婆、見た目からして殺し屋だとわかる若いお兄さん?が入ってきた。
「みんな待たせたな!これから2、3週間ほどこちらの方たちがシュウ達に知識を叩き込んでくれる。では自己紹介をしてくれ」
ダンさん場の進行をしていたが未だに僕達は状況をいまいち理解出来ていなかった。
「では私から」と言いながら一歩前に出たのは一番左にいたローブを着た女性だった。
「私はソマリア・エイパス。私は魔法使いで周りには大賢者と呼ばれているわ。勇者の中にいる魔法に長けている方に魔法の神秘を教えるために来ました。よろしくね」
ソマリアさんはあとから聞いた話だと人族の中でも一桁に入るほどの魔法の実力者で、勇者という特別な力なしで初めて人間で称号に魔女と付いた偉大な方と知った。
次に自己紹介したのは大槌を携えたおっさんだった。
「あー、俺はボルヤカ・オーニマ。見ての通り鍛治職人且つ冒険者をやっている。冒険者としてはランクAといったところだが鍛治職人では世界一を誇る実力だと自負している!武器で欲しいものや実戦について困ったら俺を頼ってくれ!」
オーニマさんは本当に鍛治職人として世界に誇れるほどの腕を持っていて、冒険者としても強いと聞いた。
オーニマさんは冒険者として動く時は大槌は使わないそうで大槌はあくまで鍛治職人としてのポリシーと言っていた。
次は教祖のような格好をした老婆だった
「私はラクリィル教会の教祖を務めています。ファシル・エイ・ラクフィと申します。名前にラクフィ様の名前があるのは教祖になることで神を直接おろすという意図し、信じる神様の名前を入れるというのが決まりとなっています。私は主に聖女として勇者の方達を癒すためにおりますので、辛いことがあれば無理をせず申し付けください」
ファシルさんは人間族で一番でかい教の教祖をまとめる聖母として働いている。聖魔法において教徒一を誇る腕の持ち主。
最後に殺し屋のような雰囲気が物凄くする人
「俺の名はトニメラ・バルモーラス。主に暗殺と言った殺し屋兼情報屋を生業としている。敵の簡単な倒し方、情報、 など戦いの基礎を教えるためにここに来た。よろしく頼む」
トニメラさん僕達の基礎的戦闘能力を高めるために、敵を前にした時の行動の仕方、隠密行動のやり方を教えてくれるそうだ。後、トニメラさんは効率的且つ合理的な戦法を考えるのが上手く、作戦を立てる時に重要になってくる人なのだそうだ。
トニメラさんの自己紹介が終わったところでシンクさんがこれからの修行の予定を話して少なくとも後3週間でどこかに行こうと考えていると話してくれた。
新しい修行が始まって1週間は経った時、広間に勇者である僕達全員がまた呼び出された。
広間につくとガウル陛下、第1から第2皇女、シンクさん、ダンさんも含め国の大臣などが集まっていて、かつての勇者召喚時を思い出させるような光景に見えた。
僕達が広間に入り真ん中の方へ来たあたりで、場の空気に戸惑っているとガウル陛下が口を開いた。
「勇者の皆さん、本当に申し訳ない!今までそなたたちを騙していたことをどうか許してくれ!」
と第一声がこれだった。僕達はいきなりの事で頭が回っておらず、また何について騙されていたのか分からなかった。だからなのか陛下はいっそう僕達に謝ってきた。
「ガウル陛下。いったいどういう事ですか?僕達を騙していたとは一体どういう事なのでしょうか?」
ガウルは愁達に勇者として召喚させた本当の理由を喋った。これはガウル自身がケジメをつけたからなのだ。
勇者という強大な力を持つ人間が他世界から連れてきたという身勝手な理由で、平和な世界から来た人間に今まで封印することすらギリギリだった魔神族をほんとに倒してくれるのか?怖くなって願いを聞き入れてくれないのではないか?と考えるとガウルは「魔神族から我らを救ってくれないか?」と言えるだろうか。だからそれが怖くて愁達に本当のことを話せなかった。
「勇者よ…ほんとに申し訳ないことをした!私はそなたたちに嘘をついていた。私達はシュウ達にどのように言ったか覚えておるか?」
「え、と確か魔族の脅威から私たち人間を救ってくれないか?と僕は聞いてますが」
愁の言葉に後ろにいたクラスメイトも頷いていた
「そう、それの事なんだが…私は確かに魔族の脅威から救ってくれと言った。しかし、これは嘘であって本当のことなのだ」
嘘であって本当のこと?何を言っているのだ、ガウル陛下は。
「確かに魔族の脅威があることはある。しかしそれ以上に魔族を倒したところでそなたたちを送還させることは出来ない。何故ならば、魔族の更に上位種族である魔神族と呼ばれる者達がいる。彼らは圧倒的な戦闘能力を兼ね備えていて、ある予言ではあと一年でかつて何億年も前に1度だけ起きたとされるラグナロク大戦が起こると言われている。だから人間族は各国で勇者を集い、この戦いに備え勝利しようと考えたのだ。だが、これを話せばそなたたちが私たちの願いを断るのではないかと思ってしまったのだ。だけど彼の言っていた通り、勇者様たちの目からは正義に満ち溢れたオーラが感じる。だから、今私は本当のことを話した。今まで君たちを騙していたことをどうか許してくれないか!」
愁達は素直に驚いていた。帝王たるガウルが勇者ではあるが単なる一般市民に頭を深く下げていることに。そして自分たちがこの世界に呼ばれた本当の理由が壮大で本当に自分たちに成し遂げられるのかという不安。
彼らに重く伸し掛る期待と使命感は戦士であるからこそわかるシンクやダンシーク、またガウルに遣える兵士たち、この国の民たちを守るというガウル、かつての死闘をくぐり抜け各種の英雄として讃えられたソマリア達ならばシュウ達のあまりに酷い重圧がかかっていることに理解がすることが出来た。いや、だからこそシュウ達に責任感を背負わせることがガウルの目的だったのかもしれない。ガウルは必ずシュウ達が引き受けてくれると信じていたから
ーーーーー
ーーーーーーーーそれから2週間が経った
その日は昨日ソマリアさん達の修行が終わる日だった。修行を終えた僕達は帝国の先鋭部隊を連れて遠征に出かけることになった。ラグナロク大戦が始まるとされるまで時間の猶予はあまり無かったが、勇者として『ラビア』に来てからしっかりとした休暇を取れていなかったためか遠征先を憩いの国でもあるシッカ王国にすることにした。
僕達はガウル陛下とシンクさん、ダンさん、ソマリアさん達と共に広間にて遠征について考えていると「バァン!」という扉が勢いよく開く音がした。
広間にいた全員がその扉を見た。そこに居たのはマラソンを終えたあとの選手のように息を切らしていた兵士がいた。
兵士が息を整え口を開いた
「陛下!大変です!シッカ王国にて『焔龍』が出現し、王都及びその周辺を破壊していると情報が入りました!バルバトス国王が応援を頼みたいという伝言を貰いました!」
兵士の言葉を聞いたガウルは血相を変えて物凄い切羽詰まった表情になった
「シンク、ダンシーク!シュウ達を連れてシッカ王国に急いで向かってくれ!出発は明日の早朝!必ず市民及びその周辺の森を探索してくれ」
シュウ達は前文は頷けていたがそのあとの森の探索に疑問を持った
「ガウルさん、森の探索とは一体どういうことでしょうか?」
シュウたちの疑問にシンクが答えた
「あ、あぁ言っていなかったな。シュウ、そして他のみんなも聞いてくれ、必ず栄えている街の外れには多くの大きな森があるんだが、その中に見ただけでわかるほど美しい森がある。その森の中にはエルフの村があるとされている。確証がないのは国の調査を行って辿りは付いたがそこにエルフがいるかどうかなどは口を固く閉ざしているからなんだ。まぁ逆にエルフたちは街に冒険者として出たりするからエルフの村があると言われているのだよ」
クラスのみんなはエルフがこの世界にいるということに喜んでいた。もちろん僕も驚いたと同時にワクワクした気持ちにもなった。僕は零蒔からラノベの話をよくされていたから「異世界にはいろんな種族がいてその中に〜」って感じで話していたことをつい思い出してしまった。
シンク一息ついてから重たい口調で続けた
「更に、シッカ王国は何よりもエルフの存在を重要視していてな。エルフとの和平を結んでいてどちらかがもしくは両者が危機的状況に陥っているのであれば、共に助け合うという条約を結んでいる。だからシッカを助けて、エルフの村も助けるという事だ」
「まぁとにかく、早く準備を済ましてくれ!シッカの状況は現段階で不確定要素が多すぎる。だから今俺たちはいち早くシッカに向かうことを考えていればいい。ここから王都までざっと1週間と言ったところだろう。恐らく明日の早朝にここを出たところでシッカに着くのは焔龍が出現し、王都及びその周辺を壊滅状態にしたあとになる。だから俺たちは焔龍の討伐を任されたわけじゃないんだ!そう難しい顔すんな!」
そうだ。確かに言い方は悪いけど、焔龍は幾ら何でも2週間で王都なんかに残ってることなんてありえないんだ。
それにしても焔龍って確か…火龍、水龍、土龍、風龍、雷龍の上位種の焔龍、瑞龍、界龍、嵐龍、磁龍という神獣指定されている危険な魔物だったよね。そのうちの焔龍ということは王都が今ほんとに崩壊していると捉えることができる。
ラビアには龍の種がそれぞれ存在する。その中でも人族【人間族、魔族、獣人族など】にとっても懐く比較的温厚な龍から人族からも敵対視される世界の災害指定されている龍までがいる。
地龍:主人や荷物を運んでくれる馬に変わって出てきた魔物。基本的に人族には危害を加えないが同種以外を毛嫌いしている。また、馬よりも速く強い。さらに繁殖が盛んなので下流階層の市民でも買うことが出来る。中には飛べる龍もいる。
火龍→焔龍、水龍→瑞龍、土龍→界龍、風龍→嵐龍、雷龍→磁龍、光龍→星龍、黒龍→闇龍、王龍→神龍、華龍→桜龍が存在している。帝級→神化とその強さを世界に知らしめている。それほど強力な魔物に襲われれば一溜りも無いだろう
「ではシンク!明日の早朝、勇者を連れてシッカ王国王都の状況を確かめると共に一般市民の救援の命を出す!」
ガウルの命令にその場の全員は了解した。
それからの行動は早かった。兵士たちはこれが日常だからだろうか。すぐに支度を終え、いつでも出れるようにしていた。愁達は多少は慌てていたが、しっかりと準備を終え早朝万全の状態で出れるように早めに寝た。
ガウルも同じように寝ようと自室のベッドに行こうと思ったが自分の部屋の扉をノックする音がして、寝るのはもうちょっと後かなと、溜息をつき訪問者を中に招き入れた。
訪問者の顔を見て、ガウルは驚いた顔をしたが何かを察したのか王としてではなくもう一つの顔で訪問者と話しを始めた。訪問者はガウルの実の娘、第一皇女のフィルメニア・フォン・レイスボルトだった
「俺としてはお前がここを離れるのは納得出来ないことなんだが?」
「それでも愛しの方がこの世界のどこかにいるとするならば、シュウ様達と旅をすればいつか何かしらの情報が入ってくると信じています。それに自分から探しに行ったほうが妻として当たり前の事だと…」
ガウルはフィルメニアの話が暴走してきたので話を辞めさせた
「だがなフィル、シンク達について行くということは自分の身は自分で護らなければいけないことを忘れてはあるまい」
「分かってます。既に戦闘できるように訓練を終えてます!」
お淑やかな皇女が戦う姫になるとは…いや元々フィアには戦闘のセンスが確かにあった。だが、彼が現れる前までフィアは戦闘を嫌っていた。フィアは基本的に1度決めたことを変えようとはしない頑固さがあるがそれも最近は無くなってきている。これも彼の、レイジ君のお陰なのだろうか?それにしてもフィアのこの目は廃れてはないな。あんなにもどす黒かった目が今では透き通った色になっている。
「はぁ、分かった。フィア、ついて行ってもいい。だが、自分の命を一番大切にしろ!これだけは守ってくれ」
翌日早朝、まだ陽が昇り始めた時間帯、空は雲が無く、オレンジに染まり、地平線から顔を出す太陽からの光は出発に相応しい色をしている。無知のままでいたあの最悪の日とは違い、修行を終わらせた勇者たち、国の先鋭である帝国の兵士、零蒔を探すために城から出た皇女はそれぞれ違った思いを込めてシッカに向かって進むために動き出す。地龍に跨った彼らは進み出した
「我々はこれから約1年はこの帝都に戻れないと思え!シッカで休養を得てからそのまま本来の目的のために動き出す!我々兵士は命を懸けて皇女様と勇者を護れ!勇者は自分の能力に不安を持つ必要は無い、君たちのその力は誰よりも強い!存分に発揮してくれ!全速力で王都に向かう!全員着いてこい!!!」




