パート13
今俺は非常に危機的な状況に陥っています。
あの大剣を振り回してるおかげで逃げ回ってるんだけど…動きパネェっす。
「貴様ぁ!早く捕まらんか!」
「いやいやいや!捕まるの以前に死ぬわ!あんた自分では殺さないんじゃねぇのかよ!」
「当たり前だ!これでお前を半殺しにして転移させんだよ!」
「その前に死ぬわ!」
「これぐらいで死ぬような輩じゃあ。見さげ違いというもんだ!」
一見コントのように見えるがハウルが大剣を振るっているのをいくら避けきれても、強い風が舞い起こるので、その度に吹き飛ばされてしまう。
いやそもそもさ、なんであんな重そうな剣をナイフみたいな感覚で振り回してんの⁈(筋肉)バカなの!アホなの?
もしかしてウソ○プハンマー的な感じで実は軽すぎました的なてキーナ?
避けながらハウルに対し心の中でツッコミを入れまくっていた零蒔はハウルの剣をスレスレで避けることに決め、すぐに行動に移したが次からはやめることを強く決意した。
軽いと思われた大剣が地面に突き刺さったかと思いきやそこに亀裂が走り明らかにめっちゃ重いものを叩きつけないと怒らない凹みが発生した。
どうするのこれ?え…時間稼ぎくらいしか出来なくね?!
何かいい案さえあれば剣で受けることはできなくはないがさすがに全部は受け流すことはできねぇし。
そういえば今更ながらあいつのステ見てなかったな
「今見てみるk…!」
「何を見るんだ?ステータスか?見せるわけないだろう」
失敗したぁ!何口に出してんだよ俺はぁ!なんか魔法があればあいつにはバレないような魔法が…ないよな。
ん?いやまてよ確か魔法創造で『再生』ってやつが作れるなら攻撃受けちまっても大丈夫のはずだ。だが、成功する確率が低い。何かタイミングさえあれば…。
零蒔はまだ魔力操作に長けてなく立ち止まってからでなくては魔法を使うことができなかったのだ。
考えても考えてもきっかけすら作れずに5分ほど経った零蒔はすでにスタミナが本当に無くなるほどまで走り避けていた。
クソ!もうあれからどんくらい経った?みんな上手く帰れたかな?
ははは!なんで今更、春や琴音が頭に思い浮かぶんだろう?覚悟して来たはずなのに……走馬灯かな?
「零蒔ィィイイイ!走れェェエエ!」
零蒔に攻撃が当たる直前に扉のところから聞き慣れた声がした。そこにいたのは逃げた筈の愁がいた。
どこにも走るほどの余力なんてなかった筈の零蒔は神経がきれても、筋肉が破裂したって構わないと思うほど全力で走った。
ハウルは戻って来た愁に驚いたがすぐに気を取り戻しこう呟いた。
「ヘタレとは思っていたが魔性のバカだな。だがその心意気は勇者足りうる行為だ。この俺様から労いのプレゼントをやろう。いずれ貴様が俺様にいや、陛下立ち塞がるのを今摘み取ろう」
ハウルは左手に持つ剣を地面に刺し、右手に持つ剣を投げた。
零蒔はそれが愁を狙うものだと気付き、右手に持つ鏡月を両手で構えた。
ちょうど大剣が真っ直ぐ飛んできたのを鏡月で受け止めると先程までの違和感の正体に気づいた。
(ふざけんなっ!こいつ魔力が付与されてんのか!だからあんな軽々と振り回してたのか!)
「今更だがその剣には加速と加重を付与している。生憎今の貴様では大剣の力に押し負けるだろう」
零蒔はそのまま地面を削りながら剣を受け止めていたが更に剣の勢いが増した。さっきの二倍ほどの負荷が零蒔に襲いかかった。
(今ここで俺が引けば愁には当たる。仮に愁が避けれても第二射は必ずある。なら俺が死ねばいい!)
「愁、しばらく会えないが勇者らしいことしろよ。春達にもよろしく言っといてやってくれ」
零蒔の体がフロアの扉近くまで押し出された瞬間、鏡月を下に振り抜くと同時に消滅させた。
鏡月によって軌道が少し上にズレたおかげで顔目掛けて飛んで来る大剣に対して急所を外すように少しジャンプした。
剣が当たる前に両手で体を守るようにガードした。
零蒔は剣に吹っ飛ばされ扉を越えることはなかった。そのまま扉の上つまりフロアの壁にぶつかった。そして剣はそのまま零蒔に深く刺さった。愁がこの意味を理解した時には遅かった。
剣は零蒔を貫通して扉の上の壁も貫通していたため、扉に亀裂が走り瓦礫となって扉を狭めた。
零蒔はフロアの扉を塞ぐことによって愁に対する攻撃をゼロにしようと考えていた。
見事に零蒔の目論見通り刺さった剣が力を無くしたように瓦礫とともに地面に雪崩落ち扉を簡単に塞ぎ込んでしまった。
30階層のフロアはほぼ完全に隔離された状態になった。瓦礫の山を越えれば帰れることはあるが零蒔はあえてそうはしなかった。
今から自分がどこか知らない土地に飛ばされることを知っていて、なりよりこれ以上愁にはこれから起きることを見せたくなかったためである。
剣が瓦礫によって体から抜けたため大量に血が噴き出し力が入らない体の零蒔だが、剣を回収しに来たハウルが鋭い眼光で睨みつけながらじわりじわりと魔力を高めていることに気づき冷や汗をかいた。
「まさかそのような形で利用されるとはな!だが貴様はここまでのようだな?」
剣を二本構えたハウルはニヤつきながら問い掛けた。
零蒔はここをどう切り抜けるか必死に探していたが結局、どの方法でも一方的にやられる肉弾戦しか思いつかなかった。
「シュウゥ!無事か?ん?なんだこの瓦礫は?一体何があったんだ!」
どうやら抜け出して来たのかわからなかったが本当に抜け出してくるとはな。やっぱ面白奴だな。
取り敢えずシンクさんが来てくれたから愁はなんとかなるだろうが…。
「シンクさん!いま瓦礫で扉を塞ぎました。これでハウルがそっちを追いかけるのに十分に稼げるはずです。勇者をクラスの奴等をどうか頼みます!」
「おい、待て!レイジ!お前は残るつもりなのか?」
「俺は…すぐ戻りますよ。というより戻らないと春と琴音、姫様に申し訳ないですから。それに…いやとにかく俺は大丈夫ですから!」
俺の見立てが正しければ、ハウルはこのフロアから出ることが出来ないはずだ。ハウルはこのフロアのボスとしているのであればこの部屋からは出られない。これが敵としてボスにいるなら俺が囮になる前にハウルの俊敏さで扉で待っていた勇者たちを狩りに行く筈だ。
勇者がこのフロアから出るのをただ眺めていただけで俺と愁の二人だけになるまで待っていたことにも説明ができる。
なら扉を塞ぐことで愁がフロアに入ってくるのを防げばいい。
「元よりお前は勇者を本気で殺す必要がなかった。もし殺すつもりなら殺せない俺より逃げている勇者を殺すのを優先するはず。なら愁が入ってくるのを阻止すればお前の役目は終わりになる」
こいつは勇者の情報を集めあわよくば殺すということで勇者を逃がしてしまえばこいつの役目はもう終わりになる。
「ほぉ?その扉を塞いだ理由は勇者がこのフロアに入ってくるのを阻止するためと?」
「あぁ、そうだよ。それにこうすれば早く転移してくれるんだろ?」
既に俺は死にかけ状態。意識はまだしっかりあるが血は止まらない。この状態なら奴の「半殺し」に値するのではないか?
ランダム転移出来るなら早めにして欲しい。こんなところで俺は死にたくない。
ただランダム転移など生きて帰れる確率はかなり低いからどっちみち死ぬか。
「貴様、名をなんという?貴様の勇気ある行動に賞賛を持って名を教えて欲しい。もし、生きていたのなら我々の部下に推薦しよう」
ハウルは勇者以上の勇気ある行動をした零蒔に賞賛を込めて褒め讃え名を聞いた。
この言葉の意味に【生きていろ】と含まれているように感じた零蒔は遂に飛ばされる決意をし口を開いた。
「俺の名はレイジ・ヤカギ、八鍵零蒔。神を殺す英雄だ」
「ふむ…レイジか。いい名だ、いずれ我々魔族の最大の敵になるだろう。敵ながら生きていて欲しいと言っておこう。だから死んでくれるなよ?」
この転移によって勇者と英雄が別れたことによってこの先に、人類史上最大の大戦が引き起こされることは神々ですら予想することはできなかっただろう。
零蒔がここで死ねばどう運命が変わるか、生きていたらどうなるのか?誰も知り得ることはないだろう。そして魔族がいずれ後悔する日も訪れるだろう。
「さぁ、行ってみようか?世界の果て、水中、魔獣の森、魔界領、暗黒地帯。この世界にはまだ解明することのできない場所や手負いの人間が簡単に困難から立ち直ることができない場所がごまんとある。故に、生きるも死ぬも所詮神頼みだ!貴様は誰に願う?」
ハウルは零時に何を信じるのか問う。
零蒔は生まれて来てこのかた、何を信じ、生きるのか考えて来て、異世界転移でさらに考えさせられた。時に友を、時に彼女を。しかし、自分が信じられるものは自分自身と関わって来た人達だと結論付けることもできたが、結局は自分だけだと分かった。
だからこの場では、穏やかな土地に転移すると信じる自分を信じてみようと思った。
「ふっ、そんなの決まってるよ!自分を信じてあげられるのは自分だけだとな」
零蒔は鏡月を再度召喚し一歩前に踏み込んだ。人類は臆してはいけないと。自由を求め欲を追い求める人種として、生きたいと言う欲を求めるように最後まで戦い続けようと誓った。
「よかろう!最後まで立ち塞がる敬意を示し今回は貴様のみ殺すとしよう」
ハウルは零時にそう言うと右手をかざし呪文を唱えた。
零蒔の刀が先か、ハウルの魔法は先かそれによって何か変わることはないだろう。だが魔族に臆せず立ち向かったと言う称号は得ることはできただろう。
「さぁ、存分に死地で楽しんでこい!リーラン・セイルブス!」
転移魔法を放ったハウルの方が零蒔より一歩速かった。零蒔は鏡月の剣先がハウルに当たる瞬間にその場から消え失せた。
「やはり貴様は部下にしてやりたいわ!」
ハウルは最後に言い残し、自分は転移先を固定し転移した。30階層のフロアは誰もいない虚無の空間を作り上げていた。
ハウルは転移する直前、フロアボスの権限を破棄し後ろに振り返ると不気味に笑みを零してその場から消え失せた。
ーーー
零蒔は眩い光が自分を包んだため目を瞑り光が収まるまで閉じていた。しばらくして目を開けるとそこに広がっていた景色を見て唖然とした。
零蒔はいかに危険な土地に落とされると思い警戒していたのだが、飛ばされた場所は息ができない海の中ではなく、魔物達が行き交う魔物の森でもなく、魔族達が支配する魔界領でもなかった。転移させられた場所は物凄く神秘的な場所で空気が美味しい場所であった。
零蒔は安心したのか、ハウルによって傷つけられた体とたくさんの切り傷がからの出血のせいか疲れからかわからないが近くにあった木に身を預けるように倒れこんでしまった。
おそらく両方だろうが今までにない疲れがどっと溢れてきたため意識をそこで落としていった。
零蒔は意識が無くなる直前、人影が近づいてくるのがわかった。その人が何を話しているのかわからなかったが悪い人ではないとはわかった。
そこで零蒔の意識は完全になくなった。




