パート12
夢とは何か。
自身の意識が無い時に起こりうる事象といったら分かるだろう。
自分の欲を感情を本来あって欲しい願望であったりを無意識のうちに脳が知覚しそれを夢として見させる。夢というのは本来目が覚めてしまえば、どんな夢を見たかなんて断片的でしか思い出すことが出来ない。「夢」というのをハッキリと理解しどんな内容だったかを事細かく知っている者はいないと思う。
しかしある少年は違っていた。
少年が見た夢というのはあくまで仮想の「夢」ではなく、既に知っている夢であるが為にその少年は内容を全て知覚することが出来た、というのが正しい答え方だろう。
ーーー
僕は真っ暗な部屋の片隅にいた。
真っ暗という表現は些か誤解を生むだろう。正確には、ここが教室であることは見ただけで分かるのだが、自分が見ている光景には白と黒で統一された“教室”という空間であることに違いはなかった。そんな空間で自分は地面に体育座りの状態で数人に囲まれていた。
ここは…たしか中学校?それにこの感じはあの時だろうか?そう言えば、僕って今は明るく活発なキャラになっているけど昔はいじめられてたんだっけ?
ここがどこであるかはわかったが、なぜここにいるのか分からなかった。
世間一般的に中学のいじめというのは大半が、根暗であったり異性と仲良くしていたりする者に集中して被害を受けていただろう。自論だが。
僕の場合後者だった。自覚はなかった。虐めてくる男子の会話に僕がイケメンだからって調子乗るなという内容だった。無論僕は自分は普通の顔だと思っていたが、周りからすれば学校1のイケメンということだった。ただイケメンだからと虐める程理不尽という訳ではなかった。
僕には中学校に入学してから友達という友達ができなかった。小学校の時は男子ばかりだったが中学では男子0人、女子は数え切れないほど多くいた。
恐らく先輩や後輩のほぼ全員と友達という関係を築いていた。俺の噂をどこかで聞いたのか他校の人からもSNSの交換などで知り合い遊んでたりした。
発端は勘違いから始まった。
ある女子生徒の相談を乗ったことが原因だった。その女の子は彼氏持ちで、最近うまくいかないという内容で単なる独り言みたいで日頃の鬱憤を一方的に話されているだけだった。そこにちょうどその子の彼氏がこちらに気付き「浮気か?」といきなり怒鳴られた。
何の偶然か彼氏が気付いた時にちょうどその女子は「彼氏が嫉妬深いしちょっとガサツなのよ。愁くんは優しいしちゃんと人の話聞いてくれるから好きー」と愚痴を挟んでいたところだった。僕は流石に人生終わったなって思った。
僕も彼女も必死に否定したが受け入れてもらえることがなかった。結局は、彼女が寝取られたというデマを流され、そしてあらゆる所から根も葉もない情報が流れ出した。それゆえに僕は虐められた。それが一年程続き、ついには不登校にまで追い込まれていた。
2年の夏休み明け登校するのをためらったがなんとか行くことにし、登校したが学校でのクラス替えはなく、同じクラスメイトと三年間一緒だった。虐めはクラスだけに収まったが、さらに酷いいじめになっていた。
ある日のホームルームでは、転校生が三人来るという内容で転校生は女子3人に男子1人だった。
彼らの名は、八鍵零蒔、桐崎小春、四之宮琴音
片山里奈の4名であった。
クラスは湧き上がった、その4名はイケメンと可愛くて美人だったからだ。
男子はすぐに零蒔の元に向かい話しかけようとしていたがその3名の女子に塞がれ、瞬く間にクラスの女子の質問攻めにあっていた。それも獲物を捕食する目で…。
今度はあの人が標的かと思った。自分は安心した。それが杞憂に終わることに改めて絶望した。
零蒔はそんな女子を軽くあしらい嫉妬の目で睨みつける男子の元に行き「友達になってくれるか?」と声を出した。
全員が呆気とられた。
このクラスにはそれなりに可愛らしい女子が沢山いるのにそれに目もくれなかったからだ。
興味本位で彼らを知ろうとした学年の生徒達は女子とあまり喋りたがらない彼のことをホモと思っていたが、すでに彼女持ちで公認の二股をしていたことを知り女子は安堵し男子は嫉妬した。お相手は一緒に転校して来た小春と琴音の2人ということで女子は敵わないと諦めていた。
転校して来て一週間はその転校生達と仲良くしていた男子達は虐めをして来なかったが、何日か経ってから転校生には分からないように虐めを再開した。なんで標的が転校生ではないかと零蒔を憎んだ。
それがきっかけで僕はクラスが教室が真っ暗に見えた。人からの憎しみと嫉妬、零蒔への憧れと嫉妬によって黒く染まった景色。
醜い感情によって閉ざされた四角い箱。
真っ暗な日々が続いたある日、その真っ黒な箱に数粒の光が差し込んだ。生きる意味を見失った僕は虚ろな目でその光の先を見つめるとそこには、息を切らした転校生の4人がいた。虐めの光景を見て顔を悪くした3人の女子に対して零蒔はニヤニヤしていた。
助けに来たのかと勘違いした。あぁ、この人も同じだと思った。
「面白いことやってんじゃん」と静かにいじめグループに言うとニヤニヤしながら歩いて入って来た。
零蒔に見られてしまいやばいと思ったのか、バツが悪そうな顔をし後退りする男子達。
彼が次に行った行為に教室にいる生徒の目が点になった。
彼は地面に置いてある水入りバケツを手に取り自分にぶっかけ、自分の机や椅子、ロッカーにマッキーペンで落書きをし写真を撮っていた。
そして「全然面白くないな」とつまらそうな顔をして教室の外で待っていた女子の元に戻っていった。
その時何か言っていた気がするが、あんまり覚えていなかった。
その日を境に虐めは消滅し、零蒔ら転校生の人達と一緒に行動するようになった。
ここで夢が終わったかのように思えたが違う場所に移った。
白い細長い橋が架けてあり、零蒔が目の前にいる所だった。
“なぁ、愁。俺らって本当にいいダチだと思うか?”
零蒔はいきなり意味のわからないことを言った。
“何言ってんだよ!当たり前だ。里奈とのきっかけを作ってくれたのは零蒔のおかげだよ。でも……”
“でも?”
“今の僕があるのは全て零蒔のおかげだと思う。零蒔が僕を今の僕を作り上げてくれたんだよ。なのに僕は何1つ君の支えになってやれることはできなかった。結局僕は守るべき同級生を守れなかった。遼くんに何が起こっていたのか把握しきれていなかった”
クラスのリーダーに有るまじき失態だ。クラスを牽引していくのにクラスメイトの情報もラビアの情報も分からず1人で突っ走っていただけだ。
“愁…あのさこのまま帝都に帰ったらさまずさ、図書館に行って見てくれ司書さんが色々と教えてくれるから”
“それと…お前にはこれからもクラスのリーダーとして頑張ってもらわないとな!”
“ま、待ってくれ。それじゃあ君が…”
“それから剣の腕あげろよ。一応だが、悠木には、護身術として少しばかり教えてやったから”
“あ、あとは春と琴音のこと頼んだぜ。絶対に死なすなよ。取り敢えず俺がいない間頼んだぜ?
…んじゃあな”
“待ってくれ!お願いだ頼む行かないでくれ!」
そこで夢は終わっていた。今のは直接零蒔が働きかけてきたものであるかはわからない。だけど、夢に出てきたあの零蒔は僕の願望を象って出てきたものであることに変わりはない。
ーーー
「はっ!ここは⁈痛ッ〜!」
勢いよく起きるとそこに見えたのはもう慣れてしまった王城の天井ではなく、岩肌がゴツゴツしている迷宮の天井だった。
愁は起きてすぐに頭痛が起こったがなんとか周囲を確認しようとすると自分がものすごい汗を流していることに気づいた。
いつもなら気にして汗を拭こうとするが現在の状況がいち早く知りたくて誰か探していると後ろから声がかかった。
「愁!起きてるけど大丈夫⁈痛くない?汗塗れじゃないじゃない!今拭くから待っててね」
声をかけて来たのは里奈だった。
里奈に説明してもらおうと思ったが省くことがありそうだったのでシンクさんを探していると、まだ生徒たちが気絶しているのか寝かされていて介抱していた騎士の人達がいた。そして僕らを守るようにシンクさんとその部下達が布陣し、魔物から守っていた。
愁は重い体持ち上げ、シンクさんのところに足を進めた。
「シンクさん!今はどういう状況なんでしょうか?」
「シュウか…体とかは大丈夫なのか?無理しなくていいんだぞ?」
シンクは愁に無理するなと諭すがそんなことは今はいいですと少し怒り気味で言い返し、本題に移った。
「はぁ、今は30層から29層に降りる階段の中間ら辺だな。外敵から守るには適しているしな」
シンクは少し戯けるように答えた。
「僕が聞きたいのはそういうことではなくて零蒔が残ってからどのくらい経つか聞いているのです」
シンクの態度に少しイラついたのかいつもの丁寧口調が抜けている喋り方になってしまった。
「まぁ、怒るなって。まだ5分程度だが…っておい!」
シンクが5分というと血相を変えて階段を登り始めた。
シンクや周りの騎士達は今まで寝ていた人間では考えられないようなスピードで飛び出した愁に驚き過ぎて対応しきれなかった。
固まってしまった彼らが動き始めたのは愁がすでに通り過ぎた後でシンクはすぐさま数名の騎士を連れ追い掛けていった。
それを後ろの方から見ていた里奈は寂しそうに階段を全速力で登る愁を心配していた。




