表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

#5 永遠の愛

「お〜よく戻ってきたな!恵よ!大きくなって!」

 おいおい。身長は変わってませんて、お父上様……立派になっての間違いでは?

 あの日以来、私は恵様に対してちょっとした悪戯心が芽生えてきたみたいだ。何だか、お笑いの上での突っ込み役?みたいなものである。こう言うのも悪くない気分だ。

 そして、私に宛てた、母からの手紙という物を読んだ。

「これがそうよ?」

 帰った早々、恵様から手渡された。

 私は、ペーパーナイフで、真っ白な封書の先にナイフを入れる。それにはこんな事が書かれていた。


(あい)へ―

 これを読んでいると言う事は、全て恵さんから事の次第を聴いた後だと思 います。私は、貴女を捨てた、悪い母親。それなのに、こんな手紙を残し てしまうなんて、情けないことだと思うわ。でも、どうしても、私の言葉 で伝えておきたかったことが有るの。それは、私が、愛した貴女のお父さ んの事。本当に心から愛していたわ。優しくて、気品があって、そして、 ちょっと粗忽者だったけど。(お墓は、この場所にあります。もし地球に 行くことが有るならば、行ってみて下さい。その方が、貴女の本当のお父 さんの眠っている場所です)亡くなって、私一人で貴女を育てれば良かっ たとも思った。でも、私には経済力というものが無かった。そう、だか  ら、アカンシャスに戻った。階級を剥奪され、それでも、次に出逢った方 と結ばれた。私はいつでも本気に人を愛しているわ。それは本当。貴女に は、こんな苦労はさせたくは無いけれど、でも、愛の本当の意味は忘れな いで欲しいの。こんな馬鹿な女に言われたく無いかも知れないけれど、人 を大切に、そして、愛せる子になって欲しい。だから、私は、貴女に、愛 という名前を付けた。今は、もう違う名前を名乗ってることでしょう。で も、忘れないで欲しい、こんな私が居たことを……

 (追伸)私を捜すことだけは決してしないで下さいね。私は、このアカン シャスの何処かで、貴女の幸福を祈っています』

 最後の方は、涙で幽かに濡れた跡で、文字が滲んでいた。それでも、私には解読できた。

「お母さん……」

 私は心の底からこの時、母の事を想い、泣くことが出来た。愛されていたのは本当だったのだと。


 それからと言うもの、忙しい毎日を送っている。それは、恵様がアカンシャスでプリンセスとしてのまた一段階上の修行が始まったからだった。

 今は、各ノウブルの方々を交えた交流会が主。その際、いつも恵様は杉浦の姿を追い掛けてはいつものように朗らかに笑っていらっしゃる。

 もう、この二人の仲は揺るぎの無いもののようであって、沢山のノウブルの者達の間で噂になっている。

 杉浦はというと、今になって貫禄あるくらい背が伸びていた。あの頃は私よりもちびっ子だったくせに!時々私は、

「いつ結婚するの?」

 何て意地の悪い事を問いかけてしまう。それなのに、杉浦ってば、

「うん。恵ちゃんが、結婚できる歳になったらね?」

 って、恵ちゃん呼ばわりで……もう、殆ど新婚カップル誕生のようだ。だから私は、こう言ってみる。

「貴方が、ちゃんとしたプリンスになったら。の間違いじゃなくて?」

 すると杉浦は、大笑いしてこう言った。

「俺は、直ぐにでもプリンスになるよ!その目で見ててくれよな!俺、嘘つきは嫌いだから、ちゃんと有言実行してやるさ!」

 ふんぞり返ってそう言った。

「所で、北山さんは?霧人とはどうなの?」

 ああ、また出たよ……この台詞。

 ここのところ、杉浦はやけに前園の事をほのめかしてくる。従兄弟同士でも、この世界ではなんら問題は無い。けど、どうなのだろう?まだ私の心は傾く気配は無い。でも、杉浦の質問に否定の言葉も出ない。実際自分でどうありたいのか?が判ってないのだと思う。

 杉浦の側近のはずなのに、前園の姿が無いのも、ちょっとは気になっていたりするけれど、だからと言って、何故?何て訊けないし……

「あ、霧人なら、地球にいるよ?」

 あ、また心を読むような事をして……実際何を考えているかなんて判るはずも無いのは判っているけれど、杉浦は、勘が鋭いから判ってしまうらしい。

「お兄さんの手伝いだよ。霧人は秘密特別捜査隊志望だから。あっちも大変みたいだな〜手伝いに行ったら?」

 う……そんなこと出来る訳無いだろう!ムッとしていると、

「じゃ、俺、恵ちゃんのところに行くね〜」

 何て調子が良いやつ!

「でも、憎めないんだよね〜」

 私はボソリと呟いた。


 前園の事も考えながら過ごした一週間後の社交界。私は恵様の側近として招かれ、いつもの様に各人と会話を交わしていた。すると、そこに杉浦がバタバタとやって来た。余りにも言葉に出来ないような形相だったので、私は何事が起きたのかと、恵様のところに駆け寄り、そして、一部始終を聞いた。

「霧人が、危篤らしい!無意識界の時空間で、悪夢にやられた!」

 私は、え?という表情を作る間もなく、

「何ですって!今は何処に!」

 問いかけてしまっていた。言った後に、心臓がバクバク言って鳴り止まない。こんな事態になっているなんて知らずに、私は此処で何をしているのだろう?前園の顔が頭の中に浮かんだ。

「気になる?」

 って、杉浦が言った。お前は、こんな非常事態に何を訊いているのだ?しかもお前冷静だぞ、その顔!

「気にならないわけ無いでしょ!あんたの側近なのでしょ?それなのに、その落ち着いた表情止めなさいよ!」

 私は非難した。すると、

「俺は、霧人の主人だけど、あいつは今の仕事に従事してるわけで、どうなろうと、それは霧人の天命。だから……」

 言い終わる前に、私は杉浦の右頬にパンチ一つ繰り出していた。杉浦は、思いっきり後ろに吹き飛んでいた。

「何処なの!言いなさいよ!これ以上話したく無いわ!あんたの顔も見たくない!」

 私は、杉浦を見下ろす形をとってハアハア肩で息を付いていた。

「……地球の、あの学校の、保健室」

「判ったわ!じゃ!」

 私は踵を返すと、すぐさま地球へ降り立つための時空間の港へと向かった。杉浦が、頬に手を当てて恵様に抱き起こされながら、舌を出して笑っている事にも気が付きもせずに。


「前園くん!」

 時空間を超え、私は再びこの場所に来た。頭で何も考えられない。こんな気分初めて味わっている気がする。

 保健室の、奥のベッドのカーテンが閉じていた。私は、そこに前園がいるのだと確信し、ソッと開いた。

 前園らしき人が横たわっていた。

「前園!聴こえる?生きてる?」

 頭まで深く体を潜り込ませているため、表情が判らない。私は、布団からはみ出していた手を握り締め、もう一度呼びかけた。だけど返事が無い。

「嘘!ちょっと、冗談じゃ無いわよ!私を置いてさっさとくたばらないでよ!私はあんたが好きなんだから〜!」

 言った後、ハッと気が付いた。私、前園こと好きなんだ……と。すると、後方から、ドアが開く音がした。

「ふ〜ん。北山さんは、兄さんが好きなんだ?」

 一瞬ビクッと体が引きつった。その声は、前園?じゃあ、ここに寝ているのは……?

「う〜〜〜ん。眠いんですが。何でしょうか?」

 私がしっかり手を握り締めているのは、前園兄だった。布団から這い出てきて、私の顔を眠たそうな目で見ている。

 私の顔から火が出た。文章にならない言葉が炸裂。

「前園兄?え?私、前園が危篤だって、杉浦が……」

 何言ってるんだ?もう、どうしよう〜!こんがらがった。視界がクルクル回っている。

「ごめん、ごめん。厚史がまた何か言ったんだろう?でも、まさか、北山さんに告白されるとは思ってなかったな?」

 前園は、ちょっと赤くなって私の横にあるパイプ椅子に腰を掛けた。

「え?告白とかそう言う類じゃなくて……その、今日は天気良いね?」

 何を誤魔化しているんだろう?口からでまかせじゃ無いのは判っている。私は、心のどこかで、前園の事を好きなのだと自覚して、そして、気恥ずかしさに戸惑っている訳であって……

「今日は、良い風が入ってくるよ?」

「……そうだね……」

 話を合わせてくれたらしい。二人して、並んでパイプ椅子に座った。保健室の窓から入ってくる風が心地良かった。でも次の前園の台詞で、私はまた現実に戻された。

「でも、僕から告白しようって思ってたのにな?全く、厚史の馬鹿が!」

「……え?」

 お互い目を合わせて見詰め合ってしまった。

「相手から告白されるより、僕は自分から告白したいんだ。今の聴かなかったことにしても良いかな?」

 目を伏せて、いつもの前園らしくない表情で……私は、思わず、

「あはは、良いわ。言わなかったことにするから!ごめん!」

 思わず謝ってしまった。私も前園に吊られて視線を落とした。

 少し沈黙の時間。それは空気の流れが聴こえるだけのまったりした時間だった。

「あの!」

 二人して同時に言葉を発した。

「あ、何?」

「え、前園くんから……」

 お互い譲りながら、結局、前園が切り出した。

「僕が、一人前の秘密特別捜査隊になったら、北山さんにプロポーズするから、それまで待ってて貰えるかな?待てないとかだったら、仕方ないけど……」

「……え?」

 私は、心の中で同じ言葉が羅列した。それを言葉で編んだ。

「大丈夫。待ってるわ」

 私は、しっかり前園の目を見て言った。

「あ、それと、手。他の誰にも握らせないでくれないかな?厚史との時も感じてたんだけど……?僕はまだ握ったこと無いんだから」

 前園は、端正な顔を綺麗に微笑んだ。

 空気は二人の世界。それに割り込んできた声。

「ところで君達……わたくしの存在忘れてないだろうか?」

 頬杖を付いて横向きに私と前園を見ている前園兄。

「あ、悪い!」

 前園は、居たの?って表情で見ていたけれど、私は驚いて、思わずパイプ椅子からずり落ちそうになった。

「じゃ、未来の妹に何かして貰おうかな〜?

何て思ったりして?」

 同じ顔が、微笑んでくれたので、私は引き吊りそうな顔を戻して、

「違法じゃ無いことなら何でもおっしゃって下さいな?お兄様?」

 三人揃って、爆笑した。


 それから、半年経った。

 私は、恵様の元で側近として働く合間に、無意識界の勉強を行った。あの時言った前園の言葉を信じていつか、前園と共に秘密特別捜査隊の仕事の手伝いが出来ればなと思っていたりする。

 恵様は、相変わらず笑いを絶やさない素敵なプリンセスの道を歩み始めていた。それは、杉浦が、もう、プリンスとしての実力を発揮し始めていたからである。

 あ、あの後、杉浦にはきちんと謝罪しました。杉浦は、通信機器で前園にこっぴどく叱られたようだけど、でも、自分はあれで良かったと思っているらしい。で、時々私を見ると、右頬を押さえる仕草をしてくる。だから、謝ったってば!

そして、

「あたしと厚史、一年後に結婚するから!」

 全く早い事で、もう、式の日取りまで決めてしまっている恵様。何だか寂しい気もするけど、でも素直にお祝いしたい気持ちも有る。

「で、思うんだけど……暫くの間、絵夢にはあたし付きのメイドさんやって欲しいの」

 と言う事で、話は纏まった。私は、アカンシャスで生活する間、恵様から悪夢を補給しなければ生きて行けない体だから。きっと、前園と結婚するまでの保険と言う事なのであろう。私は、勿論恵様の行為を仇で返すつもりはない。その分シッカリ働かせていただきます。

 そんな甘〜い日々が過ぎていった。


 そして、結婚式の当日はやってくる。

「恵様の晴れ姿、この目で見れて光栄です」

 私は、仕度されている恵様の手伝いをしながら最期になるって訳でも無いのに、言葉を掛けた。

「あたしも、絵夢には色々なものを貰ったわ。貴女がいなければ、今のあたしが居るなんて思えないものね?」

 不思議に思っていたこと。一体私は、恵様に何を差し上げていたというのであろうか?

「私は……恵様に貰っていただけですよ?一体何を私は差し上げていたとおっしゃるのですか?」

 そう、杉浦も言っていた。何を?

「友情と、愛。そして、信じる心」

 そう言って笑ってらっしゃる。

「それら全てが、心の支えになり、そして安心できたの。ありがとう。絵夢?」

 私に、そんな大それた物を求めてらっしゃったの?で、私はそれにちゃんと応えていた?そう思うと、涙腺が緩む。

「式はこれからよ?泣かないでよ〜絵夢?」

 そう言って慰めてくれた恵様は、アカンシャス一のプリンセスだと私は思った。


 式は、華やかに行われた。蝋燭とライトと、伝統的なものと今風な物を取り揃えた、豪華で可憐な結婚式。

 アカンシャスの闇が此処から消え去るかと思えるくらい鮮やかであった。

 私は、この日のために一度帰還した、前園と一緒にこの式を見守った。

「お久しぶり」

「うん。元気にしてたかい?」

 取りとめの無い言葉を交わして私達は、こっそり手を繋いで見守った。

 そして、この豪華な式が終わりを告げようかという頃に、

「後一年で、秘密特別捜査隊の仕事で一人前になれるみたいなんだ、それまで待っててくれ」

 と、前園はこっそり耳打ちした。それを聞いて、私は、

「勿論よ!私もそれなりに勉強し終えることが出来るから、待っててね?それから、地球に移住したら、寄りたいところがあるの」

「何処だい?」

「父のお墓」

 前園の耳元で囁いた。

 私は、母には会えないけれど、父には、お墓であろうと行くことは出来る。

「君のお父さんなら、僕の叔父さんだ。勿論案内してくれよ?」

 私達はお互い顔を見合わせて笑った。

 そこにケーキが運ばれてきた。どうやら、此処に出席している者達にも配っている様子であった。そして、アナウンス。

「このどれかのケーキの中に、指輪が二つだけ隠されてます。それを引いた方が、次の幸せを掴む者達です。それではご賞味あれ!」

 司会がそんな事を言った。

「見つかったら最高ね?」

「そんな偶然有ったら、面白いけどね?」

 二人同時に頬張ったそのケーキの中には、指輪が隠されていた。

「あ……」

 私と、前園は同時に声を出した。

「入ってた……」

「私も……」

 私は、前方に視線を向けた。恵様が遠くで笑ってらっしゃった。そして、

「次の花婿、花嫁に幸あれ!」

 その声が、アカンシャス中に、そして、私の中で木霊していた。


 世界よ幸あれ。そして、愛よ永遠に……

さりげなく、女の子はアルファベットの名前。

此処拘ってたり。

男連中は普通なのですが・・・

夢の世界って不思議だなって想うんです。

でも、どうなんだろう?悪夢って実は良い意味合いの物も有るんですよね。その辺りは描いてません。

それでも、皆が幸せな世界になったいただければ幸い。

また、色々とUPしていきますので、お付き合いを。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ