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#2 プリンス候補生

「どうして、あんた達が此処に居るのよ!」

 私は、もう訳が判らずに問いかけていた。それはそれは、かなりきつい視線を向けていたことに違いない。余裕が無かったためである。今すぐ、こいつらの記憶を改竄(かいざん)(記憶を書き換える)しようと意識を飛ばそうとした。しかし、

「北山さんって、やっぱり、アカンシャス・ワールドの人だったんだね?」

 杉浦が、当たってた!という表情でにっこり微笑み、私に言った。

「な……」

 言葉に窮している私に、

「厚史……お前は自覚って物が足りない。そうポンポンと言っても説明がつかないであろうに……」

 前園が、詳しく説明をしようと私に視線を送った。

「僕達は、アカンシャス・ワールドの秘密特別捜査隊の者なのです。突然、アカンシャス・ワールドから指令が出たので、その捜査をしようという段階なのです。北山さん?貴女がこれから成すべきことは、きっと僕らと同じことなのでしょう?だから、無意識階層を操った。そして、その周波数に僕達も乗らざる負えなかった……ならば手を貸して頂けませんでしょうか?その方が、実際、事を荒立てなくてスムーズに行く」

 秘密特別捜査隊?私はそんなものが存在していることなど知りもしなかった。本当なのであろうか?でも、実際こうして私達三人はこの半異次元空間にいるのだ。信じるしか無いのかも知れない。

「話は判りました。しかし、私の使命は、アカンシャス・ワールドのプリンス候補生を捜し、そして、この状況を打開する命を受けてます。それを念頭において頂きたくそう思います」

 そう。私の使命はこれだ。だから、こいつらに手を貸すのは少なからず無いであろう。

「あ、それなら、プリンス候補生は俺……モガモガ……」

 杉浦が嬉々として何かを言いかけた。が、それを前園が真後ろから羽交い絞めするかのように口を掌で遮った。

「何?心当たりでも有ると言うの?」

「何もございません」

 前園は、紳士的な面も有るが、どうも杉浦に対してだけは有無を言わせない何かが有るらしい。

「で、これからどうしますか?僕の兄が、この地球で管理職に当たってます。是非、北山さんも合流しませんか?あなたが遂行しようとしている事柄も僕達の使命と同じ点を通る事になりますから。同じ、アカンシャス・ワールド救済に力を注ぐのも一考かと思われますよ?」

 にこやかに、そしてその裏、何かが有るかのようにそう言った前園の顔は、私の心に何かをもたらした気がした。

「そう。判ったわ。なら、そのお兄さんとやらのところに行きましょうか?」

 一体誰なのであろうか?この学校でそんな組織を密かに運営しているなんて……

 そう。おかしなことが続く。杉浦、前園、そしてその兄。偶然にしては出来すぎている気がする。

 しかし、他に手も無く、私は元に戻った次元で前園の進む後に続いた。


「ここは……」

 着いた先。私は目を見張った。何と、保健室であったからだ。

「一年B組の北山さんですね?」

 目の前に、前園と瓜二つの顔が並んだ。兄と言うから、似ていてもおかしくは無いのだけど、ここまで似ていると不気味な気がした。ただ、長髪で髪を後ろで結んでいるところだけが違う。あ、それと身長もか……

 その者は、保健室の住人。基い。保健室の先生であった。私が利用して無かったから、今まで知らずにいた。全くの初対面である。

「都築さんは、悪夢に取り憑かれたまま就寝中です。やはり、気になりますか?」

 当たり前だろう!と言いたいところだけど、それはご法度。それに当たっているだけに、その事に関しては言葉が紡げなかった。仕方なく、今のありのままを説明した。

「これからの事も有りますし、事態の把握をしなくてはなりませんね?まず、悪夢開放の打開の鍵は、私に入った報告で述べると、プリンス候補生である者が握っているとの事。その辺りは、貴方達、秘密特別捜査隊?の方が詳しいと思われますが?如何に?」

 私は、話を振った。

「だから、プリンス候補生は〜〜〜モガモガ……」

 杉浦の口を、また前園が塞いだ。

 全く何なんだ!言いたい事言わせれば良いじゃ無いか!不審げにその行動を睨み付けた。

「プリンス候補生は、名乗りを上げることが出来ない仕組みになってるのは、ご存知ですよね?勿論その側近も。暴かれた場合のみ有効。それに関しては、プリンセス候補生に於いても同じはず。その辺りは北山さんもご存知のはずでは?」

 前園兄は、そう言って私の肝心な質問を却下した。それは、此処に居る私か恵様のどちらかがプリンセス候補生だと見抜いているからであろう。

だけど、実際には、恵様がプリンセス候補生だとバレていると思われる。それは私が尋常ならぬ態度をこの部屋で、杉浦の前で、一度取っているからであった。

 それに、この一年間毎日、恵様の居眠りの際、無意識界を操作しているのに感づいていたはずだ。同じアカンシャス・ワールドの生まれならば……気付いているはず。杉浦、前園両名についてそう認識できた。

「ならば、私自身がその者を捜すしか他なりませんね?こういう事態であるのに、その情報源が無いとなると、これほど難しいことは無いのですが……?」

 疲れている演技をしてみる。お涙頂戴の演技。こう言う時こそ女の強みを押し出す。すると、こう言う返事が前園から返ってきた。

「僕達は、秘密特別捜査隊です。とだけ言っておきますよ?でも、ここに居る者に、プリンス候補生が居ないとは言ってません。北山さんが暴かない限りは、それ以上のヒントを与える事は出来ませんしね?」

 その言葉に、ふと、杉浦を見た。このアホ面が、プリンス候補生のはず無いし、前園なら有り得るけれど、こいつを突くのは難しそうだ。兄の方は、どう考えても有り得ない。  

 候補生は、十五歳の少年であるはず。今年度のプリンセス候補生と同年齢のはずなのだから……

 偶然のアカンシャス・ワールド人との遭遇。そして、秘密特別捜査隊。本当に余りにも出来すぎている。ならば、やはり杉浦か、前園のどちらかだ。 私は二人に絞り込むことにした。すると、

「わたくし達は、もう、気がついてますよ。プリンセス候補生が誰であるのか?その辺りは、北山さん?聡明な貴女には理解できているはず。手の内はわたくしたちが握っているのです。でも、これを報告する義務は勿論ありません。そこまでわたくしたちは冷酷では有りませんから?」

 前園兄はそう言った。ちょっと歯がゆいけれど、仕方が無い。これも全て私の落ち度であるのだから。しかし、一体何を考えているのであろうか?この者達は?

 秘密特別捜査隊が聞いて呆れる。仕事はどうするってのよ!毒づきたかったけれど、冷静な表情を装った。そんな態度に出たら、恵様の品格を損なう恐れも有るし、見苦しい。私のミスであるのだから……

「そう、誰か判っていると言うならば、今度は私が、誰がプリンス候補生であるのか?を、見定めれば良い訳ね?私は、杉浦くんか、前園くんのどちらかがそうなのだと思っている訳よ。だったら、それを暴いてみせる!今日は、このまま恵様を保健室に預けておくわ。不安は有るけど、そうするしか出来ないし。これから、無意識界の秩序を上手く操り、地球での恵様の両親の意識改造を行わなければならないもの。では、ごめんあそばせ?」

 皮肉タップリに言葉を()んで、私は三名の前から姿を消した。この私を嘗めないで貰いたいわ。絶対、暴いてみせる!そう心に誓った。


 無意識界の改造をした私は、自宅でこれからの事を考えていた。

 プリンス候補生。その特徴は何か無いものか?

 プリンセス候補生の場合、体のどこかに紋章が刻まれているのである。それは、生まれながらにあるものであるらしい。特に、ノウブル生まれの中に稀に。そして、それが後々プリンセスの頭角を現すのだと語り継がれている。

 恵様は、掌に赤い紋章が刻み込まれていた。時々アカンシャス・ワールドでそれを私は拝見したが、古代文字特有で刻まれている紋章は、意味不明だった。でも、地球ではそれを消し去っている。それを目にしたら地球人は失神もしくは悪くして死を招くからだ。

 大体、何故プリンセス候補生が、地球に修行しに来るのか?その辺りも謎だ。アカンシャス・ワールドと、地球の間に何か有るのであろうか?謎ばかりの秩序。でも、今はそんな事を考えてばかりはいられない。問題は、プリンス候補生を突き止めること!

「もし、プリンス候補生の方にも紋章みたいな物が有るとしたならば?何処に?でも、消しているとなると、私の力では探す事など出来やしない」

 イキナリ思考が途切れてしまった。

 とにかく今日は、お父上に連絡を入れて、それから休もう。この一件どのくらい時間が掛かるだろか?私の悪夢補給が出来ない体で、何処まで保つか?それを考えると、また気分が萎えた。

「恵様。私が何とかいたします。それまでどうか、お待ちください!」

 夢の中、私は恵様の笑顔を見た気がした。


『プリンス候補生にも、プリンセス候補生同様、体の何処かに紋章がある。それを見る事が適うのは、同じ候補生のみ。いずれにせよ探し出すように。恵の意識回復を望む』


 お父上からの返信はこれだけだった。全ては私に一任されている。しかし体の何処か?それが、掌とは限らないということなので、私は苦悩した。勿論、私はニィーディー生まれの単なる一般市民だ。プリンセス候補生などでは無い。隠されている紋章を探し出すことなど出来はしない。途方に暮れた。

 でも、あの杉浦と前園のどちらかのはず!そう考えると、柄ではないが纏わりついてやろうかなと思うしかなかった。

「さて、行動有るのみ!」

 私は、一人で高校へと足を運んだ。


「おはよう北山さん?」

 早速、杉浦がホームルーム前の時間帯に私の席に来て接触してきた。何?この馴れ馴れしさ?昨日の今日というのにこの男はどういう神経しているのであろうか?でも、憎む事が出来ない笑顔だったから、私も仏頂面をやめた。杉浦のその表情がちょっとだけ、恵様に似ている気がしたのもあった。 それに、そちらから接近してくれると私も仕事のし甲斐がある。

 しかし、よく顔に傷作る男だなと思った。今日は鼻のてっぺんに絆創膏を張っている。

「おはよう。あなたはいつも元気そうね?」

「元気だけが取り柄だもんね!」

 本当にその通りだ。なんて不覚にもクスリと笑ってしまった。

「今日はあいつとは一緒じゃ無いの?前園くん。それにしても、いつも杉浦くんとはあんな感じなの?接し方の事だけどね……」

 一言付け加えておいた。そうじゃ無いと、きっと理解できまい。

「霧人?うん。あんな感じ。って、でもあいつ悪い奴じゃ無いよ?俺がこんなだからしっかりしてるだけだと思う。あ、そうそう。霧人はお兄さんの所に行ってるよ?」

 兄さんね。と言う事は保健室なのか。あ、今日はまだ恵様の顔を拝見してない。行かなきゃ!

「私、保健室に行くわ。恵様に会いに行かないと!」

 こんな大切なこと忘れてしまってるだなんて、愚か者だ!と思い、私は椅子を腰で後ろに引いた。

「今は無理だと思うよ?無意識界の時空間、開こうとしてるから。霧人達は任務遂行中だもん」

「え?」

 二人でコソコソそんな事をやっているとは。

「じゃあ、杉浦くんは何故此処に居るのよ?仲間なんでしょ!加勢しなくて良いの?」

 そうだ。三人で行うことが普通なのではないのか?

「俺は例外。仕方ないんだよね……危険な目に遭わせられないからだって!面白くないな〜っていつも思う!」

 今度は、ブスッと膨れっ面。感情表現の豊かな奴だな。でも、これが杉浦の持ち味なのだろう。アイドル的存在になっているのも判る気がした。

 でも引っ掛かることが有る。何だろう?危険な目に遭わせられない?まるで大事にしているって事じゃ無いか。箱入り娘ならぬ箱入り息子……みたいな感じ?

 でも、まさか杉浦がプリンス候補とは思えないので、やはり私はこの有り得ない考えを却下した。でも、気にはなる。

「時空間はいつ元通りになるの?」

「昼食には元通り。霧人も、その内戻ってくるよ。それにしても、都築さんがプリンセス候補生だったなんてね?結構好みのタイプだったりしてたんだけど、嬉しいな〜へへ」

 その笑いはなんだね!こいつって本当に能天気だな。待てよ?プリンセス候補生で嬉しい?それって、プリンスになるべき人の言葉じゃ無いのか?

 プリンセス候補。プリンス候補。この両方ともが出会うべく出会いそして結ばれる。それは聞いた事がある。って事は、やはり、杉浦が?有り得ない考えが再び私の頭の中でくるくると回り始める。

「杉浦くんは、嘘の付けないタイプだよね?そうでしょ〜?」

 とにかく、話を自分に都合の良いように振る。そうしたら、この杉浦はもしかしたら口を割るかヒントをくれるかも知れない。そう思った。

「うん。嘘は嫌いだ。コソコソするのも嫌いだよ」

 だろうな。昨日あれだけ何かを言いたげにしていたのだ。そう言うところを突けばボロを出すに決まっている。正直者が馬鹿を見る。その良い例だ。今なら前園は居ない。なら、(けしか)ける絶好のチャンス!

 私は、改めて杉浦の顔をじっくりと見た。地球で言うところの狸みたいな顔をしているなってそう思ってしまう。

 にしても昨日は確か、頬に絆創膏を貼っていたはず。なのに、その位置に傷らしきものが無い。どう言う事だ?これはファッションなのか?そう訝しげに見ていると、

「北山さんって、俺より遥かに大人って感じだよね?落ち着いてて。でも、都築さんと仲が良いって事は、それだけ愛してるんだね?まるで、俺と霧人の関係みたいに」

 そりゃ、主従関係なのですから。って事は、前園は杉浦の付き人?出来損ないのプリンス候補生にくっついているお供の者なのかも知れない?

 ならば、判る気がした。私にとっては、恵様は神にも等しいから敬愛しているけど、普通の付き人だったら?同じノウブル生まれ同士だったら?意見もハッキリ言えるだろう。信頼の仕方はそれぞれだ。

 その事に気がついた私は、杉浦の鼻のてっぺんに有る絆創膏に素早く手を伸ばし有無を言わさず剥ぎ取った。すると、そこには赤い古代文字の紋章が光るように有ったのであった。

「貴方が、プリンス候補生……」

 呆気に取られた。そして、ハッと気が付きその絆創膏を元通りに貼り直した。地球人はそれを見てはいなかったようだ。良かった……

「そ。俺がプリンス候補生。今有り得ないって顔に出てたよ?皆そう思うのも無理ないよな〜俺馬鹿だもん」

 にっこりと笑った。まるで気付いて下さいって感じだった。それが余りにも不自然だったけど、もう、私は気付いてしまったのである。

「俺は、道標(ヒント)を北山さんに授けたけど、教えてはいないよね?なら、問題なし。じゃあ、保健室に行こうか?これからが大変だよ?」

 一杯食わされた気がする。無意識界の時空間を開いてるって一度言ったはずなのに、この変わりよう。けれど、怒る気はしない。

私は、ゆっくりと立ち上がり、ホームルームの始まる予鈴のチャイムの中、保健室へと杉浦の後に続いたのであった。

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