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斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~  作者: ニート鳥
斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロスⅢ ~代償は、血と痛み~
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11 襲撃

 パレードは千代田区から品川区までの予定だった。東京も沿岸部はかなり人が戻ってきている。西からの海上輸送が復活したからだ。今のところまだ東京湾に入らず房総半島を回って茨城に荷揚げするルートの方が人気であるが、インフラの復旧や治安の回復が進行すれば東京、横浜を目指す船も増えるだろう。


 出発地点では多くの観衆が集まっていた。パレードもそろそろ開始だ。


 まず日米の首相、大統領が順番にオープンカーの上で演説した後、ガッチリと握手した。日米の歴史的和解の瞬間である。カメラのフラッシュが一際大きく瞬いた。大きな拍手に包まれながらオープンカーはゆっくりと出発する。


 陸軍の戦車やら装甲車やらが後に続いた。歩兵部隊も一糸乱れぬ行進を披露し、拍手と花吹雪が舞う。


 空軍はその後からだ。GDを歩かせるとうっかり観衆を踏みつぶしかねないので、GDはトレーラの上で固定し、直立させている。


 空軍の先頭はもちろん北極星だ。北極星は〈ヴォルケノーヴァ〉の肩の上に立ち、沿道の観衆に手を振る。アメリカ空軍の〈バイパー〉も〈ヴォルケノーヴァ〉の右手に立ち、キング少将が観衆に応えていた。


 そして左手に立つのが〈スコンクワークス〉の〈ノーヴァ・ジェネシス〉である。黄色の装甲は〈ヴォルケノーヴァ〉や〈バイパー〉よりずっと分厚く、機体自体も大きいため、並ぶとかなりの威圧感だった。ジュダは〈ノーヴァ・ジェネシス〉の肩に仁王立ちし、涼しい顔で観衆を眺めている。


 進はというと、イングラムM10短機関銃を持ってオープンカーの隅っこに立っているだけだった。何もなければ護衛の仕事などこんなものである。しかし座ることも喋ることも許されず、護衛対象の近くに張り付き続ける時間が延々と続くのはきつい。トイレさえ自由には行けないのである。


 まあ、進がボディガードをやるのはパレードが終わるまでだ。そう思えばこの退屈な時間も耐えられる。


 進としては襲撃などがないことを祈るのみであるが、残念ながらその希望はかなわなかった。



 パレードは中ほどに差し掛かる。進は油断することなく観衆の姿を眺め続けていた。テロリストがいるとすれば、観衆に混じっている可能性が高いからだ。


 政府も観衆のど真ん中で爆弾が炸裂したり、銃が乱射されたりという大惨事は警戒している。パレード実施区間は陸軍の兵士が封鎖しており、政府が発行した許可証を持った者しか入れないという徹底ぶりだ。


 沿道を埋め尽くしている観衆は、各地から動員された軍や政府関係者の家族がほとんどだった。進の家にもパレード観覧許可証は届いていたらしい。美月はその許可証を使ってパレードを観に来ている。


 他に入れるのはマスコミ関係者程度。パレードの様子は関東近辺では生中継され、それ以外の地域でも録画放送が予定されているとのことだ。新聞も筑波で号外を出すということである。


 こうやって部外者のお祭り騒ぎは造られた。元々この区域に住んでいる人たちは一時的に退去させられており、いい迷惑を被っている。


 このような事情から、観衆は九割が日本人である。ひょっとしたらアジア系のアメリカ人も混じっているかもしれないが、オープンカーの上からでは区別が付かない。


(ん? あれは……)


 進は最前列で美月がムスッとした顔でこちらを見上げているのに気付く。本当なら手でも振りたいところだが、今は任務中なので無理だ。進は素知らぬ顔で他に目を移そうとする。この時点で美月を見つけていたのは、後から思えばラッキーだった。


 耳にGDのロケットエンジンが放つくぐもった音が飛び込んでくる。誰かが「逃げろ!」と叫んだ。進はとっさに〈プロトノーヴァ〉を呼び出す。


「きやがれ、〈プロトノーヴァ〉!」


 〈プロトノーヴァ〉は進の命じたとおり、盾を構えた姿勢で進たちの直上に出現した。ほとんど同時にレールカノンの砲弾が〈プロトノーヴァ〉に着弾し、無人の機体は大きく揺れる。


 進は目視でボロボロの〈疾風〉がこちらに接近してくるのを確認する。日本軍は当然テロリストのGDは警戒しており、東京上空には多数のGDを待機させていた。こちらの懸念のとおりテロリストは攻撃を仕掛けてきて、日本軍の防空網を突破した一機が今まさに接近しているのだ。


「〈プロトノーヴァ〉、撃て!」


 敵の〈疾風〉はショットカノンに手を掛けている。機体に乗り込んでいては間に合わない。進は遠隔操作で命令を下す。マニュアル射撃しかできないが、やるしかない。


 進が選んだのは30ミリハンドバルカンだった。マニュアル射撃なら、せめて弾幕を張れないと話にならない。幸い相手は「フライングジッポー」、「ワンショットライター」の蔑称を持つ初期型〈疾風〉だ。かなり損傷を受けているようなので、当たり所次第ではこの豆鉄砲でも充分倒せる。


 進が考えた通り、30ミリ機関砲の連射で敵機は手足がちぎれ飛び、墜落する。とりあえず空からの攻撃は凌いだ。しかしテロリストたちがこの程度で諦めるはずもない。


 建物の谷間から銃器を持ったアメリカ人らしき一団が、こちらに迫っていることに進は気付いていた。〈プロトノーヴァ〉で攻撃すれば沿道の観衆を巻き添えにしかねない。パレードに参加している軍人たちは政府首脳を守ることを優先し、動こうとしなかった。進が生身で対処するしかない。


 護衛に徹するなら周囲の軍人たちのように政府首脳から離れるべきでないが、進は観衆を守ることを選んだ。観衆の中には美月もいるのだ。絶対に見捨てられない。進は迷わずオープンカーから飛び降りる。


「皆さん、伏せてください!」


 進は警告を発しながら敵に向かって一人で突撃する。「逃げてください」とは言えない。パニックで将棋倒しになる。幸い、観衆は大人しく進に従ってその場に伏せてくれた。


 体が軽く、自分でも信じられないほど速く走ることができた。〈プロトノーヴァ〉を出しているからだ。グラヴィトンイーターの身体強化がいつもより強く働いている。


 進は敵の正面に躍り出て、イングラムM10短機関銃を乱射した。普通なら自殺行為であるが、今の強化された進の反応速度であれば、敵が引き金に指を掛けた瞬間回避行動に移れる。


 進は一秒にも満たない射撃を終えた後、勢いよく横に跳んで敵の射撃を避けた。ほとんど漫画かアニメのような動きである。


 続けて進は助走をつけてジャンプし、敵の頭の上に跳躍。上からしこたま銃弾を浴びせる。


 グラヴィトンイーターにしかできないハチャメチャな動きに、敵は翻弄された。敵は上に向けて銃を撃ってくるが、進は両サイドの建物の壁を蹴って上手く避ける。敵の射撃は全く当たらず、進は一方的にテロリストたちに射撃を加えることができた。


 敵が全滅したのを見て、進は地上に降りる。パレードを観に来ていた観衆は大歓声で進を迎えた。


 進は浮かれることなく弾が切れたイングラムを捨ててグロック17を構え、周囲を警戒する。見れば北極星とジュダが機体で空に上がっていて、散発的にやってくる敵機を撃破していた。進も加わるべきだろうか。


 進が一瞬考えている間にも敵は近づいていた。進の背後で美月は叫ぶ。


「お兄ちゃん、危ない!」


 隣のビルの谷間から、また別のテロリストたち数人が顔を出し、進を狙っていた。いくら進でも後ろをとられるととっさに避けられない。万事休すだ。


 しかし進がは助かった。空からの支援があったのだ。


『ミスター・カガヤキ! 避けなさい!』


 進を救ったのはジュダだった。〈ノーヴァ・ジェネシス〉は空中からショットカノンでテロリストが潜む細い路地を正確に撃ち抜く。


 ショットカノンの威力は凄まじく、両側の建物の壁が吹き飛んだ。もちろんテロリストは全員粉微塵だ。おそらく対GD用のAPFSDSを使ったのだろう。もし榴弾を使っていれば、決して頑丈な造りではない建物を倒壊させて、観衆に被害が出ていた。進も巻き込まれたかもしれない。ジュダの適確な状況判断と正確な射撃に進は助けられたのである。


 とはいえ進も無傷ではなかった。〈ノーヴァ・ジェネシス〉のショットカノンに粉砕されたテロリストの最後のあがきか、進は肩に被弾していたのだ。


 興奮のせいか痛みはない。ただ、焼けているように熱いだけだ。グラヴィトンイーターとしての身体強化も働き、血も止まっていた。


「お兄ちゃん、大丈夫!? 救急車、救急車を……!」


「……!」


 駆け寄ってきた美月を抱えて進は跳躍する。さらに隣のビルからまたテロリストが顔を出したのだ。進がいたところには、一呼吸遅れて銃弾が雨あられと撃ち込まれた。狙われているのは進のようだ。敵はまず、厄介な護衛を排除することに決めたらしい。


 進は政府首脳たちが頭を抱えて伏せているオープンカーの中に着地した、


「美月、ここに隠で大人しくしてろ。俺の近くにいると狙われる」


「ちょっと、お兄ちゃん……!」


「〈プロトノーヴァ〉!」


 進は顔面蒼白で抗議する美月を無視して、〈プロトノーヴァ〉を遠隔操作する。〈プロトノーヴァ〉は頭部の20ミリバルカンで、ゴキブリのように湧いてくるテロリストを薙ぎ倒す。72ミリショットカノンや30ミリハンドバルカンは威力がありすぎて使えない。護身用程度の固定武装がこの場面では役に立った。


 しかし頭部のバルカン砲は弾数が少ないためすぐ弾切れとなる。遠隔操作で他の武装を使うのは精度という面で厳しい。進はオープンカーの上からグロックを乱射しながら焦るが、北極星に救われる。〈ヴォルケノーヴァ〉が飛来し、ショットカノンの連射で次々と建物の谷間を吹き飛ばしたのである。


 進は舌を巻いた。ここまで連射して建物の倒壊がないとは。一発だけなら同じ事をジュダもやったが、連射となると人間技ではない。


 〈ヴォルケノーヴァ〉の外部スピーカーが響く。


『今だ、進! 機体に乗り込め!』


「助かった!」


 進は北極星の命に従い、〈プロトノーヴァ〉に乗り込んだ。警備のために配置されていた陸軍の歩兵たちもようやく状況を把握し、テロリストの掃討に移っている。進の仕事はGDによる襲撃に備えることと、空から地上を監視してテロリストの動向を歩兵たちに教えることだ。


 進はジュダや北極星がそうしていたように、空から外部スピーカーを使って地上を逃げ惑うテロリストたちの動きを逐一伝える。すぐにテロリストは全滅するだろう。事態は収束しつつあった。


 進は上空からテロリストの残党を捜し続けるが、もうそれらしい人影は見えない。進はパレードの列に戻ろうとするが、建物の影で血まみれの女が開きっぱなしのマンホールに飛び込もうとしているのを発見した。女は息も絶え絶えといった様子で、マンホールに這い寄る。進は地上部隊に知らせなければならない。


 しかし進は女の顔を見て動揺する。金髪のその女は少女と呼べる年齢の、子どもに過ぎなかった。


 戦場で女も子どもも関係ない。武器を持っているなら確実にとどめを刺すべきだ。わかってはいたが、進は見逃してしまう。


(あの様子だと、持たないだろうな……)


 報告の必要はないだろう。下水道で少女の死体が一つ見つかるだけだ。それが自分の願望に過ぎないとわかっていながら、進は黙殺することを選んだ。

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