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斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~  作者: ニート鳥
斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロスⅢ ~代償は、血と痛み~
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-1 ジュダⅠ

この物語も折り返し地点を過ぎました。ラストに向けて一直線に進めていきます。

1st world:2009


 どこまでも広がる砂漠。直上からは太陽が照りつけ、地平線が歪んで見えた。横合いから吹き抜ける風は強く、舞い上がる砂埃がちりちりと音を立てる。


 自分がどこにいるかわからない。見渡す限り砂の海が広がっているばかりで、オアシスなんてどこにもない。こんなところに放り出されたら、一日と待たず熱と乾きで死んでしまうだろう。


 石油が出るまで人々はこの広大な砂漠をラクダに乗って行き来し、商いや遊牧で生計を立てていたらしい。それは現在、クーラーの効いた車で砂漠を渡り、中学校に通うジュダ・ランペイジにとってとても信じられないことだった。


「……いつも思うんだけどさ」


 ぼんやりと外を眺めながら、ジュダは運転手とメイドに話しかける。日焼けを避けるため少しうつむき加減。肌が白いジュダは日差しに弱いのだ。


 ランペイジ家は数代前にヨーロッパからやってきた移住者で、その血が強く出たせいかジュダの肌は特別に白い。しかし元々雑多な民族が入り交じったこの国で、肌の色が問題とされることはなかった。


 手を額の方にやってひさしを作りつつ、ジュダは本題に入る。


「僕の送り迎えで二人も来る必要ないでしょ? アザムさんだけでいいじゃん」


 運転手でインド人のアザムは滅相もない、と首を振った。


「とんでもないことです。私ごときがお嬢様と二人きりになるなど、神が許しません」


「二人きりって、そんなことどうだっていいだろ……」


 ジュダはあきれ顔を浮かべたが、メイドでインドネシア人のチャンティはジュダをたしなめる。


「お嬢様。女性は夫でもない男性と二人きりになれば誤解を受けます。西欧のドラマに憧れるのもわかりますが、淑女として節度ある行動を心がけてください」


 チャンティはメイドのビザで働いているので、車の免許がない。なので別に運転手のビザで入国しているアザムが必要なのだった。全く馬鹿らしい。


 馬鹿馬鹿しいのは服装も同じだ。メイドといってもチャンティは、西欧のそれのようにエプロンドレスなんて着ていない。身につけているのは厚手の黒い服であり、昔からの伝統に従い、ヒジャブで頭を覆っている。普通に動きやすい格好をすればいいのにといつも思う。


 ジュダだって中学校の制服になっているので、ヒジャブを被っていた。本当はこんな邪魔くさい布なんて取っ払ってしまいたい。服も、こんな体のラインが全く見えない野暮ったいのは嫌だ。もっとスレンダーに見えるのがいい。私服なら男の子と見間違えられるほど華奢で肉付きの悪いジュダには似合わないかもしれないけれど。


「節度ねぇ……。そういう古臭い考えが無駄なんだって、どうしてわからないかな……?」


 ジュダはこっそり嘆息するが、昔からの慣習に雁字搦めの二人には通じそうになかった。



 ジュダが住んでいるのは、アラビア半島のとある国だ。時代遅れの原理主義者が暴れているイラクやシリアとは遠く離れた、平和な国である。よくニュースを騒がせているテロリストなんてどこにもいないし、政情不安の気配もない。


 砂漠しかなかったこの国は石油の採掘で財をなし、世界有数の金持ち国となった。近年では石油採掘業だけでなく金融業、観光も盛んになっていて、首都にはニューヨークや東京など全く比較にならないほど摩天楼が建ち並ぶ。まさにこの世の春を謳歌している最中だ。


 ジュダの家にはお抱えの運転手とメイドがいるが、ジュダの家庭が特別金持ちというわけではない。ジュダの級友の家も運転手とメイドがいるし、ジュダの通う中学校は朝夕に送迎の車でごったがえす。父や母は家で料理などしたことがなく、台所はメイドの領分だ。育児も含めて家のことは全て外国人のメイドに任せてしまう。そういう習慣なのだった。



 ジュダが退屈な授業を終えて家に帰ると、父が珍しく早くに帰っていた。父はソファーに腰掛けてテレビを見ていた。


『アメリカに続き、日本の木星級重力炉の本格稼働が始まりました……。これにより原油の輸出は……%下落する見通しで……』


 父は真剣なまなざしで食い入るようにテレビに見入っている。画面に映っているのは海外の放送局がやっている国際ニュースだった。


「ただいま。またニュース見てるの?」


 ジュダが声を掛けると父は険しい顔を幾分かほころばせた。


「おかえり、ジュダ。これから大変になりそうだからね……」


 父は重力炉による石油輸出への影響を憂慮しているようである。ジュダは父の心配を重大なことだと受け取らなかった。


「うちは大丈夫でしょ」


 父が務めているのは証券会社で、石油は全く関係ない。この国は原油の枯渇を見越して、金融や観光に投資してきたのだ。石油の輸出が減れば混乱が起きるかもしれないが、そう酷いことにはならないだろう。


「だといいんだが……」


 父は眉間に皺を寄せる。ジュダは言った。


「この国も早く重力炉を導入すればいいんだよ。今までは石油で儲けたんだから次は重力炉で儲ける。それでいいじゃないか」


 我ながら名案だ。いち早く重力炉を導入すればこの国はアラビア半島の心臓になれるだろう。軍へのGD配備の後押しにもなる。


 そもそも石油に頼った経済が健全とは言い難い。石油関連企業に人材が偏っている限り、この国は天然資源一辺倒の二流国家のままである。かといって金融・観光は余剰人材の受け皿としては小さすぎる。主要先進国への仲間入りを果たすため、重力炉導入を軸に技術大国化を進めるべきだ。製造業を雇用の受け皿にする。


 この国が進むべき道はそれしかないだろう。今すぐ石油が全く使われなくなるわけではないが、重力炉が普及すれば火力発電の需要が減り、石油産業は大きな打撃を受ける。技術立国化と製造業への転換ができなければ、国全体がアラビアのひなびた砂漠に戻るだけだ。きっとこの国を動かしている人たちはジュダと同じ考えを持っているに違いない。ジュダの考えは絶対に正しい。


 ジュダが自画自賛で悦に浸っている間にもニュースは流れ続ける。


『原油価格の下落により……地方では民衆によるデモが……。これに対し政府は……地方で戒厳令を出し……。この事態に対し、重力炉の開発者であるイカルス・トリックスター氏は緊急声明を発表しました……』


 政府が木星級重力炉の建造を発表したのは翌日のことだった。

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