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斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~  作者: ニート鳥
斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロスⅡ ~眠り姫の目覚め~
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エピローグ ハッピーエンド

 中国との戦いに決着がついた後も、しばらく日本列島は騒がしかった。西日本アメリカ合衆国亡命政権の対日強硬派が反乱を起こしたのだ。進もアメリカ軍に協力して西日本各地を転戦することとなった。


 アメリカ亡命政権は先の筑波侵攻作戦を全て対日強硬派の暴走とした。強硬派の首脳は尽く戦犯の汚名を被せられて蜂起し、死に物狂いで抵抗を始めたのである。


 とはいえ強硬派の主力はアメリカ亡命政権の筑波侵攻作戦であらかた壊滅している。二週間ほどで本土における反乱軍の掃討はほぼ完了した。


 これを受けてアメリカ亡命政権は大坂、沖縄といった一部の地域を除いた西日本を返還する。ようやく悲願だった東西日本の統一は達成された。東西の行き来は九年ぶりに解禁され、日本中で再会の風景が見られることとなる。



 進はアメリカ軍が各地から撤退するのを見届けた後、筑波に帰還して日常生活に戻った。昼は学校に通い、それ以外の時間は軍務に励む。何もかもが元に戻ったように思えたが、もうどうしようもないこともある。


「こんなことになっちゃってごめんな、成恵。俺はおまえのこともちゃんと背負って戦う。俺がそっちに行くまで、ゆっくり休んでてくれ……」


 進は真新しい墓石にひしゃくで水を掛ける。墓石には保村成恵の名が刻まれていた。「流南極星」の名で葬るより、本人にとってもいいだろう。進がそう思っているだけだが、生者の癒しとなるならそれでいいのではないか。


 保村一家は九年前の戦争で全員行方不明になっている。南極星を弔うことができるのは進だけだ。南極星には縁もゆかりもない筑波の霊園ではあるが、隣にファウストの墓があることが慰めになるだろう。


 墓にはちゃんと遺灰を収めることができた。回収された〈エヴォルノーヴァ〉のコクピットに遺体の一部が焼け残っていたのである。遺体は〈エヴォルノーヴァ〉の回収作業を行った越智が確認した。


 南極星にとどめを刺したのは北極星らしいが、進は何も言わない。やらなければ進や北極星が殺されていた。美月やエレナも死んでいたかもしれない。流南極星を野放しにすることで何十万人が死んだかわからない。


 むしろ進は北極星に任せてしまったことを後悔していた。進にとっての成恵は進が自分の手で殺すべきだったのである。北極星に無数にいる敵の一人として殺されてしまうより、けじめがついた。


 これが戦争だ。自分が殺されるかもしれないという現実を突きつけられては、友だろうが親であろうが殺すしかない。


(俺は何のために戦ってきたんだろうな……)


 東西日本の統一を果たせば、進は大坂で眠ったままの南極星を取り戻せるはずだった。ところが進と南極星は殺し合いをした挙げ句、南極星は墓の下だ。美月やエレナは守れたが、進はかけがえのないものを失ったのである。


 戦争で死ぬ人を一人でも減らす。自分ではなく他人のために命を使う。進にはまだ北極星の理想が残っているが、喪失感を埋め合わせるのは無理だ。進にとっての成恵がいない統一日本は、進にとってどれほどの価値があるというのだろう。


 進は墓前で手を合わせてから、立ち上がる。


「もうよいのか?」


 進を待っていた北極星に尋ねられ、進はうなずいた。


 本当はまだやることがある。父や母に報告をしなければならない。そのために新しい階級章も持ってきた。


 でも進は今日、胸を張って報告することができない。進はポケットから真新しい階級章を取り出し、握りしめる。


(俺は父さんを超えた……。でも、ちっとも嬉しいとは思えない……)


 階級章にはプラチナ色の一つ星が光っている。進は先の戦役での活躍が認められ、また昇進していた。父の最後の階級は大佐。今、進の階級は准将だ。


「行こう」


 今日は文化祭だ。学校に行かなければならない。


 進は真っ赤なスポーツカーの助手席に乗り込む。運転席の北極星は車を発進させた。


 車を走らせながら進の心情を察してか、北極星はこんなことを言う。


「進、今は迷え。今はそれが許される」


 戦場で迷っていれば自分も死ぬし味方も死なせてしまう。進に迷っている時間があるのは平和な日常生活を送っている今だけだ。



 関東周辺の争乱は数日で終結したため、授業はとっくの昔に再開されていた。進は任務のためずっと欠席していたので、冬休みに補習を受けて追いつくことになりそうだ。今から憂鬱である。


 しかし文化祭に関しては学外も含めて大勢が集まるイベントなので、安全確保が難しい。テロの標的にされないとも限らないのだ。そのため文化祭の開催は今日まで延期になっていた。


 進たちのクラスは体育館で演劇をやる。朝一番の舞台に向けてクラスメイトはみんな集まっていて、教室で最後の練習をしていた。進も道具係として舞台のセットを体育館に運ぶ。


 時間までに演劇の準備は終わり、体育館ステージの脇に進のクラスは集合する。最後に学級委員が「これまでやってきたことを全て出し切ろう!」と盛り上げ、役者はステージに上がり始める。


 後は開演を待つだけだ。進は舞台袖に待機する予定だったが、美月がやってくる。


「どうしたんだ? おまえ、もう行かなきゃいけないだろ」


「お兄ちゃん、これ」


 美月は一枚の紙切れを進に手渡した。進は紙切れをまじまじと見つめる。


「保護者用の観客席入場券……? 俺、生徒なんだけど。いきなりどういうことだ?」


 美月は口を尖らせて言った。


「先に渡したって、絶対お兄ちゃんは受け取らないでしょう? お兄ちゃんには、客席から見てほしいの。お兄ちゃん、忙しくて一回も私たちの劇を通して見たことないでしょう?」


 美月の言う通り、事前に打診を受ければ進は断っただろう。劇終了後の片付けも進の仕事だからだ。次の演目があるため、ステージは段取りよく片付けて次のクラスに引き渡さなければならない。クラスの何人かは家庭の事情で西に転校してしまい、人手不足気味なので進が働かなければ後片付けが遅れる。


「だからって今渡されてもなぁ……」


 進は頭をポリポリと掻いた。立場上、進は断らざるをえないのだが、エレナが美月に加勢する。


「いいではないですか。観客席から見ていても、後片付けには間に合いますわ。ねぇ、先生?」


 水を向けられた担任教師はあっさり許可を出す。


「そうだな……。終わったら保護者の方の邪魔にならないように気をつけて、急いでこっちに来るんだぞ」


「みんながそこまで言うなら……」


 進は観客席に移動した。



 父兄に混じって客席に座るのは、想像以上に居心地が悪かった。一人だけ制服姿の進はもの凄く目立っている。


 周囲から向けられる胡乱な目をやり過ごしつつ、進は開演を待つ。すると進の隣に、テンガロンハットをかぶったマッチョな大男が腰を下ろした。帽子から覗く髪の色は金髪で、海兵隊で機関銃でも振り回していそうな強面だ。


 また戦争が始まるのか? と進は腰を浮かすが、そんなわけがない。戦争は終わったのだ。アメリカ人はもう敵ではない。だから進は、何のためかわからないような戦いをする必要はない。


 大男は進の様子を見て苦笑いを浮かべる。


「少年、そんなに慌てなくていいだろう。君は日本を救った英雄だ。もっとドンと構えていてくれ」


「……!」


 男は進のことを知っているようだった。一体何者だ。


 男は進の疑問に小声で答える。周囲には聞かせられない話だった。


「俺はしがない武器商人さ……。こっちには九年ぶりに戻ってきたんだ。今日は娘の晴れ舞台を観に来た」


「ま、まさか……」


 アメリカ人で武器商人の親を持つ娘など一人しかいない。進は顔を引きつらせる。


「俺は楠木トーマス。娘のエレナがいつも世話になっているようだな、煌進君」


「ど、どうも……」


 進はぎこちない動きで軽く頭を下げる。まさかエレナの父親とクラスの劇を見ることになろうとは。こんなとき、どんな顔をすればいいのかわからない。小動物のように縮こまる進を見てトーマスは笑う。


「ハハハッ、怖がらなくていいだろう? 君は誰よりも勇敢な男だと聞いている。俺は君なら認めるつもりだ」


「はぁ……」


 どうやらトーマスは進に悪い印象を抱いているわけではないようだ。進は少しホッとするが、トーマスの話は終わっていない。


「もっとも、君が俺のかわいいエレナを泣かせるようなら、こいつの出番だがな……!」


 トーマスは笑顔で拳銃を取り出し、銃口でテンガロンハットを持ち上げて見せる。S&W M29。44マグナム弾を使用し、拳銃としては常識外の威力を持つ一品だ。ヒグマとでも戦う気なのだろうか。堅気でないのは知っていたが、こんなものを持ち込んでいるとは……。進は嘆息する。


「……銃刀法違反ですよ」


「堅いこと言うなよ。君も持っているだろう?」


 トーマスのS&W M29と比べれば、進のマカロフなど出来の悪い玩具のようなものだ。だいたい進は正規軍の一員なので、銃を携帯する許可をもらっている。


「そうか。だったら俺が、もっといい銃を用立ててやろうか? 威力が高いじゃじゃ馬が俺のお薦めだ。撃ってて楽しいからな。しかし君の体格じゃS&W M500やデザートイーグルは持て余しそうだな……。何がいいかな……」


 トーマスは心底楽しそうに言い、進は困り果てて作り笑いを浮かべながらうつむく。


「いや、そういうのは大丈夫ですから……」


 進にとっての成恵が死んで、進は目標を失っている。戦う目的もないのに階級だけが上がっていく、武器だけが強くなっていく、というのはごめんだ。


「遠慮するなよ、少年。これでも俺は君に感謝してるんだぜ。君がいなけりゃ、俺はここにはいられなかった」


「……」


 進は黙って顔を上げる。満員の保護者観覧席では、開演を今か今かと待ちわびる保護者たちが賑やかに歓談していた。ついこの間まで戦争をしていたことなど、さっぱり忘れてしまったかのようだ。


「この光景を作ったのは君なんだぜ。君が合衆国軍を倒し、中国軍も撃退したから俺たちはこうやって西から駆けつけることができた。こうやって自分の子どもにまた会えた。東西の離散家族を代表して礼を言わせてもらうぜ。ありがとうな」


 トーマスは優しげに微笑む。進は言葉を発することができず、周囲を見回す。



 開演のブザーが鳴った。照明が落ちて客席は真っ暗になり、やがて緞帳が上がる。満員の客席から拍手が響き、劇が始まった。


 舞台の上で躍動するクラスメイトも、客席の保護者もみんな笑顔だ。進の戦いがなければ、今日という日は来なかった。


(俺は間違ってなかったのか……)


 失ったものはあっても、進は守るべきものを守れた。百点満点はとれなかったが、及第点には達したのだ。悔やむことはあっても、誇っていいこともある。



 「昔々あるところに」から劇は始まり、白雪姫役のエレナが登場する。進が水戸まで飛んでとってきた白雪姫の衣装はエレナによく似合っていて、絵本から飛び出してきた本物のお姫様のようだ。


 劇の大筋は昔話のとおりであるが、白雪姫の呪いに関する設定だけが違っていた。白雪姫が目を覚ますと、白雪姫に掛けられた呪いが拡散し、世界が滅びてしまう。


 王子はそれを知っていながら、愛のために白雪姫を覚醒させる。七人の小人は必死に王子を止めようとしたが、王子は実力で排除した。ここからの展開がどうなるかだ。世界が滅亡するバッドエンドに向かうのか、それとも……。


 目を覚ました白雪姫は王子を叱った。


「私と引き替えに世界を滅ぼしてどうするのですか! 王子、あなたに正義はないのですか!?」


「愛とは貫くもの! 私に後悔はない! 私はあなたを救い、世界も救ってみせる!」


 王子は勇敢に宣言し、王子の大立ち回りが始まった。王子は白雪姫や七人の小人の助力を得て呪いが生み出した怪物を次々と打ち倒し、最後は白雪姫に呪いを掛けた継母を改心させる。



 一切疑問の余地がないハッピーエンドだった。現実の、進の戦いとは全然違う。しかし進はカーテンコールで拍手を惜しまなかった。


(うまくいかなくてもいい……! 俺は俺の戦いを続ける……!)


 進はお芝居のように全部を解決する力はない。それでも、戦い続ける。進の戦いで救える人がいるから。罪を背負いながら、ハッピーエンドを目指そう。進はそう決意した。

第2章はプラスもう1話あります

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