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斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~  作者: ニート鳥
斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロスⅡ ~眠り姫の目覚め~
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32 背中からの一発

「また空軍が遅れているのか! ニガー野郎は何をやっているのだ! 俺たちを何だと思ってやがる!」


 怒りで顔を上気させつつ、野営陣地から空を見上げてカスター大将は叫んだ。


 現在、合衆国陸軍機甲部隊は鬼怒川防衛戦への攻撃を前に、進軍を停止したところだ。古河と同様、鬼怒川にもレールカノン砲塔が多数配備されているため、陸軍単独で仕掛けるのは無謀だ。


 そこで一旦補給のために撤退した空軍を待っていたところ、〈プロトノーヴァ〉が現れた。〈プロトノーヴァ〉により護衛についていた四機の〈バイパー〉は撃破され、陸軍は丸裸である。忌々しい白のGDが陸軍をターゲットにするのは時間の問題だ。このままでは合衆国陸軍の切り札が為す術もなく空から壊滅させられてしまう。あと一歩で勝利だというのに、空軍は何をグズグズしているのか。


「落ち着いてください、カスター大将! 空爆部隊はこちらに向かっております! ほら、見えてきました!」


 一人の幕僚が東の空を指さす。爆弾をたっぷり積み込んだ空軍の大編隊が、こちらに飛んできていた。〈プロトノーヴァ〉は遠目から見てもわかるほどにボロボロだ。あれだけ損傷していれば、いくらグラヴィトンイーターが乗っていても、合衆国空軍に手も足も出まい。


「ヒヤヒヤさせやがって……!」


 カスター大将は鼻を鳴らし、頭の中で作戦の段取りを組み立てる。視察したところ、渡河できそうなポイントは数ヶ所あった。どこに陽動を投入し、どこから本命を向かわせるか……。攻撃の開始は空爆が始まってからすぐがいいだろう。自分もさっさと指揮車両に乗り込まなければ。


 ところがカスター大将の思考は、眼前の信じられない光景を前に雲散霧消する。空爆部隊は憎きジャップどもに正義の鉄槌を下すことなく反転し、帰投を始めたのだ。


 隣の幕僚はあ然としている。カスター大将は幕僚の胸ぐらを掴んで揺さぶり、正気に戻してやる。


「おい! さっさとキング少将に連絡をとれ!」


「はっ、はい!」


 幕僚は野営テントに駆け出し、カスター大将も後に続く。この撤退ははっきり言って意味が分からない。コールド勝ちを目前にして試合放棄するようなものだ。


 幕僚は通信機を操作し、空軍に連絡を取る。緊急事態ということで各部隊の指揮官たちもカスター大将のテントに集まっていた。幕僚が空軍との通信回線を開き、カスター大将が代表して通信に出ることとなる。台風の通過で電波の状態がよくなったのだろう、いくつかの中継点を経て奇跡的に空軍の最高指揮官、キング少将に通信が繋がったのだ。


「なぜ空軍が撤退している? 理由を答えろ!」


 カスター大将の怒鳴り声に、静岡からキング少将が冷静に答える。


『緊急事態です。中国軍が台湾、沖縄に侵攻しました』


「何だと……!?」


 カスター大将は言葉を失う。そのリスクを考えていなかったわけではない。リスクを冒してでも日本を倒さなければ、合衆国は生き残れないと確信していただけだ。


『空軍はこれより九州・沖縄方面に転進し、台湾軍を援護します。これは大統領命令です。陸軍も撤退してください』


 あまりに一方的な命令に、カスター大将は我に返った。カスター大将は通信機の置かれた机を蹴り上げる。


「ファック! 今さら撤退など不可能だ! ふざけるなよ! だいたい、日本軍はどうするつもりだ!?」


 もう一度利根川を渡って撤退するなど、敵にどうぞ殺してくださいと言っているようなものだ。陸軍には、戦い抜くしか道は残されていない。


 カスター大将通信機が壊れそうなくらいの怒声を発したが、キング少将は冷ややかな対応に終始する。


『今、大統領が停戦交渉中です。もう日本軍に攻撃を仕掛けることは許されません。陸軍がやるべきことは退却です。停戦交渉の足を引っ張っては困りますよ』


 怒りのあまり、カスター大将は全身をぶるぶると震わせる。ようやくカスター大将は気付いた。キング少将にはめられたのだ。


「薄汚いニガーめ! 仕組んだな!」


『何のことですか? とにかく退却してください』


 キング少将は飄々とすっとぼける。キング少将は、最初からカスター大将をはじめとする対日強硬派の排除を狙っていたのだ。だから陸軍を矢面に立たせる作戦に賛同したのである。まず海軍の空母戦隊などの好戦的な連中を、前哨戦で日本軍のグラヴィトンイーターに当てて壊滅させる。一番厄介な陸軍機甲部隊は前線で突出させてから置き去りだ。


 停戦交渉を始めてもすぐに敵の攻撃が止むわけではない。敵GDから陸軍は逃げられず、壊滅する。


『我々にはなぜ質量があるのか。なぜ質量に縛られているのか。我々の意識は遙か十一次元から投影されるホログラムに過ぎない……。本来我々はもっと自由なはずなのだ……。我々はその意味を考えなければならない……。我々が争う必要はない……』


 今さらのように〈スコンクワークス〉の反戦演説が通信機から流れ始めた。ジーザス! 神は合衆国を見放したのか!


「すまない、マリー……!」


 〈プロトノーヴァ〉は低空に降下して荷電粒子ビームカノンを構える。連れてきた対空車両がミサイルや機関砲を放つが、全く当たらない。白旗を揚げる時間さえなかった。目の前一杯に広がる眩しい光が、カスター大将の見た最後の光景となった。



 鼓膜が破れそうなほどの轟音を吐き出したきり、通信機は沈黙した。キング少将は通信機から離れ、リンドン大統領に報告する。


「……終わったようです」


「これで合衆国の終焉は回避された……」


 薄暗い部屋の隅で、リンドン大統領は壊れかけたパイプ椅子に腰掛けていた。祈るように手を組んでいたリンドン大統領は、安堵の吐息をつく。


 静岡にある空軍の通信施設。人払いをしたキング少将とリンドン大統領は、密室で不穏分子の粛清という大仕事をやり遂げた喜びに浸る。日本への徹底抗戦を主張していた海軍の空母戦隊と陸軍の機甲部隊は計画通り、多数の日本軍を道連れに壊滅した。ほぼキング少将が描いた絵の通りに進行している。流南極星の善戦により、陸軍の壊滅が遅れてやきもきしたが、どうにか間に合った。


(カスター大将……。あなたがもう少しもの分かりのよい男であれば、手を組めたのに……)


 キング少将は大統領と同じく古びたパイプ椅子に腰掛けながら、嘆息した。


 結局、カスター大将を代表とする軍の強硬派は、九年前の戦争での成功体験から抜けられなかったのである。日本と戦っても勝てないという事実を受け入れられず、日本に勝たないと生き残れないと信じ込んだ。


(何よりも優先すべきは合衆国の灯火を絶やさないこと。戦わなければ生き残れないのではない。戦わず、生き残らなければならない)


 合衆国を合衆国たらしめているのは民族でも土地でもなく、精神である。自由と平等という理念。無から国家を創り出した創造性と、合衆国を片田舎の元植民地から世界の覇権を握るまでに至らせたバイタリティ。キング少将らの使命は合衆国の精神を継承し、保存することである。


 北アメリカ大陸の「黒い渦」は、十年スパンで見れば必ず解決されている問題だ。日本でどんなに追い込まれて力を失おうが、関係ない。合衆国亡命政権は「黒い渦」が消えたとき、北アメリカ大陸を確保すればいい。合衆国の精神さえ残っていれば、そのとき合衆国は不死鳥のごとく復活するだろう。


「次は中国軍に勝たなければなりません。これからの交渉が肝心です」


 キング少将はニコリともせずにリンドン大統領に言う。こんなところで一仕事終えたと思ってもらっては困る。今の合衆国では通常戦力でも中国に勝てない。日本を引き込み、最初から盟友だったような顔をして戦勝国にならなければならないのだ。


「ああ……。根回しはしてある。日本軍の南東北方面軍司令は今頃政府を説得しているだろう。停戦を受け入れ、日本軍は我々に味方するはずだ。使節団からの通信で、今この瞬間に吉報が届いてもおかしくない状況と聞いている」


 大統領の言葉を信じるしかない。キング少将は立ち上がる。


「私は九州に向かい、陣頭指揮を執ります。大統領閣下は名古屋でシェルターに避難してください」


 リンドン大統領は胡乱な目をする。


「シェルター……? 私が隠れていては、軍の士気も上がらないだろう? 日本政府との交渉が纏まり次第、私も九州に向かおうと思うのだが」


 怖じ気づいていると思われたくないのか、大統領は自分も前線に向かいたがる。戦争の恐ろしさを知らない文官出身者に限って、無理なことを言う。大統領を諫めるのはキング少将の役目だ。キング少将は首を振って否定の意を示した。


「大統領閣下のお気持ちは分かります。しかし、シェルターから出てはいけません。中国軍は必ず核を使います」

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