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斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~  作者: ニート鳥
斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロスⅡ ~眠り姫の目覚め~
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21 北極星vs南極星

 GDの巡航速度なら筑波から千葉、東京方面は一分程度である。距離にしておよそ五十キロメートルしかないのだ。これくらい近いからこそ東京を確保できているという前提なら、筑波は防衛拠点として機能する。


 逆に東京が陥落したという状況は筑波にとって、喉元に剣を突きつけられているに等しい。早急に東京を奪還し、戦略的縦深を取り戻す必要がある。


 東京上空ではもう空戦が行われていた。千葉に配備されていた飛行隊に南関東方面軍の残党が合流し、数では侵攻しているアメリカ空軍と互角だ。地上に据え付けられた高射砲はアメリカ軍の反撃で潰されたのか、砲撃が行われる様子はない。日本空軍の〈疾風〉はアメリカ空軍の〈バイパー〉と激しいドッグファイトを繰り広げている。


 南極星の姿はなかった。進は日本空軍に加勢しようとするが、北極星が警告する。


『進、上だ!』


 とっさに進は回避機動をとり、上空から撃ち下ろされたレールカノンを避ける。南極星だった。


 南関東方面軍からの報告にあったとおり南極星の〈エヴォルノーヴァ〉は大改修を受けて、その姿を大きく変えていた。シャープなボディは無骨な黒の甲冑で覆われ、背中には後ろ向きに機銃を装備した三角翼が取り付けられている。まるで第二次世界大戦時の爆撃機のようだ。


 両腕に装備されていた巨大な盾は中型のものに変更されていて、小回りが利くように配慮されている。それに伴い両の太ももに設置されていた補助腕は撤去され、代わりに標準装備のショットカノンとハンドバルカンが取り付けられている。


『世界のために、あなたを倒す!』


 アメリカ軍の通信記録解析で判明したコードネームは〈アヴェンジャー・エヴォルノーヴァ〉。復讐鬼と化した成恵が、進と北極星の前に立ちはだかる。


 戦場で撮られた写真とは違い、地上用の榴弾砲は一切装備していない。代わりに〈Aエヴォルノーヴァ〉は左右の翼に金色の放熱フィンが露出した浴槽型のユニットをぶら下げていた。出力に任せてレールカノンの冷却装置を二つ追加しているのだ。〈Aエヴォルノーヴァ〉はレールカノンを三丁同時に運用できる。


 進や北極星の機体も、やろうと思えば同じ改造が可能だ。しかしいくら重力子を分解しても増加した重量はゼロにならないし、空気抵抗も受ける。出力をバカ食いするレールカノンを連射すれば、動力源たるパイロットのグラヴィトンイーターへの負担も大きい。


 量産機を相手にするなら最大の武器である機動性を低下させてまで、レールカノン装備に執着する必要はないのだ。敵の背面、側面に回り込んでショットカノンやハンドバルカンを使えばいい。


 レールカノンを複数装備しているのは、明らかに進たちに対抗するためである。過剰に装甲を装着して身を固めているのも同じだろう。南極星は、成恵は、進たちを排除しに掛かっている。


「成恵……! 戦うしかないのか……!」


 こんなことをつぶやいている進がきっと平和ボケしていたのだろう。銃を向けられて、幼馴染みも何もあったものではない。


 進は悲壮な覚悟を決めるが、二人の幼馴染みはやる気満々だった。


『世界をあまねく照らし、全てのみちしるべとなる……!』


 主導権を握るために、北極星は真っ直ぐ前に飛び出し、南極星に突撃する。南極星はレールカノンの二連射で対抗するが、北極星は急旋回による回避と盾による防御で強引に前進し、ショットカノンの射程まで距離を縮める。


 レールカノンの有効射程は約八キロメートル。ショットカノンは四キロだ。北極星はレールカノンの連射でアウトレンジされるのを避けるため、リスクを承知で前に出た。


 〈ヴォルケノーヴァ〉と〈Aエヴォルノーヴァ〉は互いの背面を捉えようと急旋回を繰り返しながらショットカノンを撃ち合う。両機とも決して自分の側面、背面を晒そうとせず、向かい合ったまま空中を滅茶苦茶に飛び回る。〈Aエヴォルノーヴァ〉はかなり重量が増加しているはずだが、南極星のグラヴィトンイーターとしての力で補っているようだった。〈ヴォルケノーヴァ〉にしっかり追従してくる。


 進は〈Aエヴォルノーヴァ〉の背後に回り込むが、背面の翼に設置されている機関砲が火を吹き、うまく射撃位置をとれない。SGE-30 ゴールキーパー。艦載用の近接防御火器だ。30ミリ機関砲が広範囲に弾幕をばらまき、進を阻む。


 進が手をこまねいて見ている間も〈ヴォルケノーヴァ〉と〈Aエヴォルノーヴァ〉は正面装甲には効果がないのを承知でショットカノンを撃ち続けた。先にミスをした方が負けという神経戦だ。二人とも興奮しているのか、砲弾だけでなく言葉の応酬を始める。


『私はあなたをどうしても許せない! それだけの力を持ちながら、どうして進を助けてあげなかったの!? どうして進を殺したの!?』


 南極星は糾弾するように叫ぶ。ここでいう進とはファウストのことだろう。北極星は言い返した。


『貴様は前の世界で何が起きたかを知らぬから、そんなことを言えるのだ! ファウストを野放しにすれば、死ななくてもいい何十億人が死んだかもしれぬのだぞ!?』


 ファウストが失敗すれば、世界の滅亡。成功しても、アメリカ軍の攻撃と電力危機で東日本は地獄と化す。南極星は進と北極星にそれを許容しろというのか。


『確かに、それはいけないことだわ。そんなこと、私にもわかってる。でも、だったら進以外にも責任をとってもらわなきゃならない人がいる! どうしてあなたはファウストだけを殺したのよ! あなたは自分勝手よ!』


 戦争の原因となった者は全員殺せとでもいうのだろうか。極論にも程があるが、そんな極論を振りかざしたくなるほど南極星は北極星がファウストを殺したことを許せないのだろう。彼女のここ九年の話相手は、ファウストしかいなかったはずなのだから。


 北極星は動じない。


『私は軍人だ。善悪など関係ない。国家の命令があれば、誰であろうと抹殺して見せよう。貴様も含めてな……!』


『それがあなたの逃げ道なのね! 国が認めたら人を殺してもいい? そんなわけないじゃない!』


『いいも悪いもない。私たちにはその力があり、必要とされれば使うというだけだ。国家の要請は即ち民の要請なのだからな! 自分勝手なのは貴様らの方だ! ファウストや貴様のように、勝手に人の命を賭け金にして博打を打とうとするような真似が許されるはずがなかろう! 力に溺れるなよ!』


 グラヴィトンイーターはどこまでも自由だ。昨日の夜に美月が言っていたように、その力を使えば何でもできる。だからといって自由に自分の力を振るうことが許されるだろうか? 進にしても北極星にしてもファウストを否定した以上、この質問にはノーと答えるしかない。


 進も北極星も、力を使うのはあくまで国家のため──ひいては民衆のためだ。もちろん国家が真の意味で一般意思の代弁者であるかに議論の余地はあるし、進は自分の目的のために国家を利用しているという側面もある。北極星の力となるため、美月やエレナを守るため。


 それでも基本的に進が軍の指揮下にあるという事実で、進は自分の力に鎖をつけている。ファウストのような世界を滅ぼす男とならないために、これは必要なことだ。北極星も同じだろう。これはグラヴィトンイーターとして必要な儀式なのだ。


『今まであなたのやってきたことを、国家のためという名目で正当化するつもりなの!? あなたは自分の罪を認めないの!?』


 売り言葉に買い言葉で、南極星の追求に北極星は応じる。


『言ってみろ! 私の罪を!』


『一つ目! あなたはあなたの進を理解しようとせず、殺した!』


 〈Aエヴォルノーヴァ〉は弾の切れたショットカノンを捨て、プラズマレンチで〈ヴォルケノーヴァ〉に斬りかかる。北極星はプラズマレンチでプラズマレンチを防御し、剣の勝負が始まった。


 剣の腕自体は北極星の方が上だ。北極星は速度に任せて突っ込んでくる南極星の剣を闘牛士のようにいなして完璧に防御し、反撃さえ加える。南極星は一撃離脱に徹し、去り際にレールカノンを使い北極星の追撃を許さない。


 北極星もレールカノンで反撃しようとするが、三つのレールカノンを次々に持ち替えて早撃ちしてくる南極星に隙がない。南極星の射撃は正確無比で、北極星はレールカノン三連射の回避と防御で精一杯だ。


 両機が接近しすぎたせいでまたも進は射線をとれなくなった。いや、撃とうと思えば撃てるはずなのだ。だが正確に狙うことはできない。それを理由に進はレールカノンによる射撃を躊躇した。今の南極星は進の存在を完全に無視している。当たらずとも撃つことができれば状況が変わるかもしれないのに。


『やつの気持ちは私にはわかる! だが、わかっていてもどうしようもないこともある!』


 北極星は反論するが、無視して南極星は北極星の罪を列挙する。


『二つ目! 進をグラヴィトンイーターにして戦いの運命に引きずり込んだ!』


「俺自身の意思だ! 北極星は関係ない!」


 グラヴィトンシードをはめ込んだのは進自身の意思だ。しかし北極星には進にグラヴィトンシードを与えないという選択肢も存在した。


『三つ目! 進の父親を殺した!』


『私は誰であろうと、戦争で死ぬ人をなくすためには殺す!』


 これも、進は納得している。北極星の立場上、スパイを放置できないのは当然だ。進も北極星も、人を殺してでも成し遂げたい目的がある。知り合いだからといって、手心を加えるわけにはいかない。


『最後! あなたは私から私の進を奪った!』


「成恵! 俺はずっとおまえのことを助けたいと思っていた! おまえのことを忘れてなんかいない! 本当だ! 信じてくれ!」


 進がたまらず口を挟んだが、南極星はヒステリックに叫んだ。


『進は、昨日私についてきてくれなかったじゃない! 焔北極星を選んだじゃない!』


『……ッ!』


 進は何も言えない。結局進が北極星を選び、南極星と戦う道を選んだのは事実だ。


『焔北極星! 私はあなたを許さない! 私はあなたを殺し、世界を救う!』


 南極星は宣言し、プラズマレンチ片手に〈Aエヴォルノーヴァ〉は加速する。ノーヴァシリーズは出力をパイロットであるグラヴィトンイーターに依存している。そのため搭乗者がやる気を出せば、それだけ機体性能に反映されるのだ。


 これまでにないスピードで斬りかかってくる〈Aエヴォルノーヴァ〉に北極星の反応がわずかに遅れる。このままではプラズマレンチは防ぎ切れても、レールカノンの三連射を避けきれないだろう。


「させるかぁっ!」


 北極星が危ないと思ったとき、進の体は勝手に動いていた。進は〈Aエヴォルノーヴァ〉の側面にレールカノンを撃ち込む。砲弾は〈Aエヴォルノーヴァ〉を包む真っ黒な甲冑に阻まれてダメージを与えられないが、南極星の行動を変えることはできた。南極星はすぐに北極星から距離をとり、進に備える。進は荷電粒子ビームカノンを構えていた。

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