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斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~  作者: ニート鳥
斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロスⅡ ~眠り姫の目覚め~
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19 ターニングポイント

 南極星は占領した南関東方面軍司令部の建物に入る。カビ臭い地下司令室で幕僚たちが命令書作成などの事務に追われる中、部屋の隅で穴だらけのソファーに掛け、南極星はカスター大将と今後について話し合う。


「戦況は芳しくないな。やはり正面からの攻撃では厳しい」


 カスター大将は率直に劣勢を認め、鼻を鳴らした。現状、合衆国軍は利根川どころか江戸川さえ超えられていない。合衆国軍は散発的に攻撃を仕掛けているが、日本軍は対空用レールカノンを水平撃ちすることで対抗していた。地上配備のレールカノンは対地用の榴弾も撃てるため、地上部隊が近づけない。


 風雨が弱まっているため無理をすればGDによる空襲も可能だが、日本軍のGDを抑えるので手一杯だ。おまけに、弾薬や燃料が心許なくなっている。


「補給はどうなっていますか?」


 南極星の質問に、カスター大将は面白くなさそうに答える。


「海軍のオカマ野郎どもが遅れていやがる。風が強いせいだとぬかしていたが、それぐらい気合いで乗り越えろ! ファック!」


 カスター大将がドン! と机を叩き、後ろで仕事をしている幕僚たちがビクリと肩を震わせる。強風が続いたせいで陸軍は首尾よく東京を占領できたが、ここからさらに東へ侵攻し、筑波を占領できなければ意味がない。


 筑波占領のネックになっているのはいつも補給だった。今回、カスター大将は海軍を説得して東京、横浜まで弾薬、燃料を届けさせる計画を立てた。海路なら大量の物資を迅速に輸送できる。陸路のように渋滞を起こして空襲を受けたり、ゲリラの妨害を受ける危険性もない。


 これまで合衆国海軍は日本軍のGDに反撃を受けることを懸念して、伊豆半島以東に艦艇を展開したことはなかった。「黒い渦」に包まれた北米大陸で合衆国の大型戦闘艦建造技術は永遠に失われ、海軍は艦の補充が利かない。海軍は空母などの大型艦を失うことを極端に恐れていたのだ。海軍では空母戦隊の士官を中心に「虎穴に入らずんば虎児を得ず」と積極攻勢を主張する者たちも大勢いるが、将官たちは臆病風に吹かれて一向に耳を貸そうとしなかった。


 海軍の高官曰く「海上戦力を失えば台湾、沖縄を中国から防衛するのが厳しくなる」。実際、春の戦争で合衆国海軍が空母を二隻失ってから中国が不穏な動きを見せつつあったが、後の祭りである。カスター大将は東の日本軍が侵攻してくれば中国どころではないと海軍を説き伏せ、補給の段取りを整えたのだった。


「……どれくらい遅れますか?」


 この後、南極星が囮になって日本軍のグラヴィトンイーター相手に時間稼ぎして、その間に陸軍が筑波を陥落させる予定だ。補給が遅れれば遅れるほど、南極星が進と北極星を引きつけなければならない時間は長くなる。日本側も反撃の態勢を整えるだろう。戦争は時間との戦いでもあるのだ。


「少なくとも一時間だ。港に引き籠もっても戦争などできんというのに、やつらは時間の価値がわかっておらん!」


 カスター大将は顔を真っ赤にして鼻息を荒くする。海軍が一時間遅れれば、陸軍の侵攻も一時間遅れるのだ。補給の遅延で、南極星は最低でもGDが普通に飛べるようになってから三時間は進、北極星を別の戦線に拘束する必要がある。かなり厳しい作戦だ。


 ここで幕僚の一人が南極星とカスター大将に近づいてきて、遠慮がちに報告する。


「あの~、カスター大将。キング少将から伝令が届きました」


「何? あのカマホモ野郎、後方で震えているくせに今頃何の用だ」


 キング少将は静岡に留まり、空軍全体を指揮していた。といっても台風と「黒い渦」の影響で静岡からの通信は前線にまず通じないため、今は何もしていないに等しい。台風が去ってからの空戦を監督するつもりなのだろうが、砲火に身をさらすことがモットーのカスター大将は気に入らないだろう。


 ただ、南極星としてはキング少将が前線に出てきてもらっても困る。こっそりGDを飛ばして各方面と連絡を取るのに静岡は絶好の位置にある。彼は大統領の命令で海軍との折衝、東北方面の日本軍への調略を担当しているのだ。台風が過ぎ去り次第、キング少将は密使を送って東北方面の日本軍に裏切りを促すだろう。


 ファウストが彼らとどのような交渉をしてきたか南極星は全て知っている。南極星の情報を元にファウストの仕事を引き継ぐ形で、キング少将は海軍の本格参戦と日本軍の切り崩しを進めていた。アメリカ軍の優位が決定的にならなければ東北の日本軍は裏切らないだろうが、動かず傍観してくれるだけでもありがたい。



 静岡から車で送付された封筒をカスター大将は乱暴に破って開き、中の文書を読む。カスター大将は鼻を鳴らし、文書を南極星に投げて寄越した。


「見ての通りだ。ビビってばかりのチキン野郎もたまには役に立つ。空母が動くぞ」


「……これで勝ち目が出てきましたね」


 本心から南極星は言った。キング少将は海軍に働きかけ、空母を動かすことに成功したのだ。空母の艦載機をぶつければ、かなり時間を稼げる。空母の乗組員は陸軍機甲部隊と同様に勇猛果敢なスタッフが揃っているので、焔北極星が相手でも臆せず立ち向かっていくだろう。


「海軍の空母なら信用できる。機甲師団は到着した。陸軍は作戦通り北に向かう。貴様も作戦通りにやれ」


 カスター大将は結論を出す。正面から千葉を突破するのが無理なら、迂回するまでである。日光街道を北上し、横合いから筑波を突くのだ。その間、どんな手を使ってでも航空優勢を維持するのが空軍の仕事である。キング少将は空軍の総力を関東に投入する予定だった。


「了解です。必ず太平洋に焔元帥をおびき寄せます。そして、ファウスト大尉の仇をこの手で……!」


 戦争の行く末は南極星の手に掛かっていた。この九年間、南極星を支えてくれたファウストの仇をとる。焔北極星を倒して日本列島とイカルス博士を打倒する力を手に入れ、ハワイ攻略の足掛かりを作る。そして〈スコンクワークス〉を滅ぼし、世界から戦争をなくす。南極星は負けるわけにはいかない。

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