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斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~  作者: ニート鳥
斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロスⅡ ~眠り姫の目覚め~
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15 二択問題の結果

「お兄ちゃんは、成恵さんじゃなくて北極星さんを選んじゃったの」


 進の耳に美月の言葉が何度もリフレインして聞こえる。


「んなこと言われてもなぁ……」


 進としては成恵をないがしろにしたつもりはない。これ以上どうしろと言うのだ。


「そもそもお兄ちゃんには、もう軍人をやる理由もないよね?」


 美月の指摘に進は所帯じみた間抜けな返答をする。


「いや、俺たちは生活しなきゃいけないんだぞ?」


「お金が必要なら銀行強盗でもやればいいじゃん。お兄ちゃんはグラヴィトンイーターなんだから何でもできるよ」


 美月が示したラディカルな解決策に進は目をぱちくりとさせる。しばらく沈黙した後、ようやく進は反論をひねり出した。


「現実的には俺だって軍や国の支援がなきゃ何もできないんだぞ? 俺一人で〈プロトノーヴァ〉を維持するのは無理だ」


 GDは精密機械である。いくら重力軽減、質量軽減で機体への負荷は通常の航空機より遙かに低いといっても、定期的なメンテナンスは欠かせない。いくらでも部品が手に入る〈疾風〉ならともかく、事実上のワンオフ機である〈プロトノーヴァ〉を運用するためには、軍に組み込むしかない。


「軍も国も、もう一つあるじゃない。お兄ちゃんが西に行けばいいわ」


 美月は簡単そうに言うが、今の進にはありえない選択肢だ。


「馬鹿言うな。おまえの生活はどうするんだ」


「そんなのどうとでもなるわよ。なんなら西に連れて行ってもらっても構わないわ」


「おまえだけの問題じゃないだろ……」


 進はあきれるが、美月は力説する。


「あえて冷たいことを言うけど、学校なんてどこでも通えるし、友達なんて西でもできるわ。エレナちゃんだって、お父さんは西にいるんでしょう? お兄ちゃんに西に連れて行ってもらっても悪くないんじゃない?」


「そりゃあ私は進さんが行く所なら、どこでも行きますけど……」


 美月に話を振られたエレナは困った顔をする。進はさらに西には行けない理由を重ねた。


「おまえなぁ、西に行くってことは北極星と戦うってことだろ? 俺はそんなこと、絶対にしたくない。何があっても北極星の相棒をやるって、俺は決めたんだ」


 これだけは絶対に譲れない。グラヴィトンイーターである北極星に並び立てるのは、同じくグラヴィトンイーターである進だけだ。ファウストとの一件で、進は北極星を一人にしないと強く決意していた。


 美月は大きく息をつく。


「なら成恵さんとは戦ってもいいの?」


「いや、そんなわけないだろ」


 進は真顔で手を振り否定の意を示すが、同時に美月は突っ込む。


「じゃあ西に行かないと」


「俺は北極星のパートナーだ。裏切るような真似ができるか」


「だったら成恵さんと戦わなきゃ」


「……」


 進は言葉を探して無言でぱくぱくと口を動かす。とどのつまり、そういうことだ。進は北極星と成恵──南極星の二択を提示され、北極星を選んだのである。


「お兄ちゃんを責めているわけじゃないよ。でもね、成恵さんが北極星さんを気に入らない理由はわかったでしょ? あの人、意外とお兄ちゃんに甘えてたから……」


 美月は椅子の背もたれに背中をくっつけ、嘆息する。半ば無意識に進は尋ねた。


「俺はどうすりゃいいんだ……」


 美月の答えはそっけないものだ。


「知らないわよ。お兄ちゃんが好きなようにするしかないんじゃない? いつもみたいに優柔不断でどっちつかずにだけはならないようにね」


「俺は別に優柔不断じゃない……」


 進は否定してみるが、美月は目尻を釣り上げる。


「お兄ちゃんが優柔不断じゃないなんて、どの口が言えるの? お兄ちゃんは成恵さんと北極星さんだったら北極星さんを選んだよね。でもエレナちゃんと北極星さんだったらどっちを選ぶの?」


「いや、どっちって言われても……」


 進は急に口籠もり、美月は真っ赤な頬を膨らませる。


「ほら、優柔不断じゃない! そんなだから私もエレナちゃんを止めなきゃならないんだよ? お兄ちゃんが流されて妙なことになったら困るから。お兄ちゃんって、基本的に主体性がないのよ。そのくせ平気で大騒ぎを起こすんだから」


「進さんもそこまで流され屋さんではないでしょう。一度これと決めたら絶対に貫く人ですわ」


 エレナは苦笑いしつつ進をかばってくれるが、美月はぷいと横を向く。


「お兄ちゃんは決断するまでが長いって言ってるのよ。しかも途中でいつも馬鹿みたいに迷走するし。何をやらかすかわかったもんじゃないわ。違うっていうなら、今この場でエレナちゃんと北極星さんのどっちと結婚するか決めてよね」


「そんな無茶苦茶な……。俺なんかじゃエレナの相手には役者不足だし、北極星はそういう対象じゃないし……。第一、俺が誰と付き合おうが美月には関係ないだろ」


 自分がエレナに釣り合うとは思えない。北極星に対してもそんな風には思えない。答えられるはずのない美月の質問を受けて、進は逃げを決め込む。進の反応を見て、美月は不満げに口を尖らせた。


「関係なくないわ。お兄ちゃんの結婚相手は、私とも家族になるんだから。たった二人の家族が三人に増えるのに、どうして関係ないなんて言えるの?」


「いや、だって年齢的に……。俺まだ十八歳だぜ?」


 ケッコンだの家族だのと言われても進には全く実感が湧かない。


「充分結婚できる年齢でしょ。お兄ちゃんは収入もちゃんとあるし。いい加減もう子どもじゃないって自覚してよね」


 怒る気力もなくなったのか美月は大袈裟にため息をついた。



 その後美月は普通に「おやすみ」を言って休み、進も就寝した。美月は進の様子から何かとんでもないことをしていると察していたようで、特に驚きも見せず落ち着いて話をすることができた。少なくとも進がグラヴィトンイーターだったことを美月は受け入れてくれた。女性関係で苦言は呈されたがこれはいつものことである。


 今日から平常運行だと進は思っていたのだが、美月は一向に部屋から出てこない。進の前では平気な顔をしていたのに、どうしたのだろうか。本当はショックを受けていたのを隠して、進の前では演技をしていたのか。


 だとしたら、進はどうするべきだろう。そういえば、結局のところ美月が進にどうしてほしいのかは聞けず終いだった。いったい美月は進に何を望んでいるのか。


 そして進は、どうすればいいのだろう。成恵は西側にいる。今の進には、グラヴィトンイーターの力と〈プロトノーヴァ〉がある。台風が去り次第、大坂まで飛行することも可能だが……。


 進が迷っていると、ふいに家の固定電話が鳴り始めた。進は思考を中断し、電話をとった。


「もしもし?」


『進さんですか? 私です、楠木エレナです。今すぐ基地に来てください』


 電話の主はエレナだった。何事かと進は唾を飲み込み、エレナに尋ねる。


「どうした? まさかアメリカ軍が動き出したのか?」


 進は昨日の南極星を思い出す。台風でGDは飛ばせない。これを機にアメリカ軍が侵攻してきても不思議ではないだろう。彼女はファウストのように、アメリカ軍の侵攻に乗じて筑波を目指す気なのだろうか。


『いえ、災害派遣があるかもしれないので集合するようにと連絡があったのですわ』


「ああ、そういうことか……」


 災害であっても、警察や消防で対応しきれない事態が起きれば軍の出番だ。軍の組織力と自己完結性はあらゆる場面で役に立つ。一切のインフラが麻痺しても動けるように軍は作られているのである。


 拍子抜けして黙り込んだ進に、エレナは言う。


『くれぐれも短絡的な行動を起こさないようにお願いします。進さんに何かあれば、みんなが危なくなりますわ』


「短絡的な行動って……?」


 進は反射的に鸚鵡返しして、エレナは答えた。


『大坂に飛んで成恵さんの真意を確かめようとか、そういうことです。今、筑波から進さんがいなくなれば、万が一の事態に対応できなくなりますわ』


 エレナは進の思考などお見通しのようだった。進は慌てて否定する。


「そんなことはしないよ。間違ってアメリカ軍が攻めてきたりしたら大変だからな」


 冷静に考えれば、進が単機で大坂を目指しても途中で撃墜されるのがオチである。今回成恵が姿を現したこと自体、罠かもしれないのだ。ノコノコ大坂に出向いて、飛んで火に入る夏の虫となるのはまずい。まずは命令通り基地に詰めるべきだ。そうすれば情報も入り、進が今後どうするべきか判断できるようになるだろう。


「すぐ基地に行くよ。まだバスは動いてるかな?」


『いえ、もう止まっていますわ。しかし焔元帥が学校の車を使えと』


 北極星はすでに土浦基地に詰めているとのことだった。車の鍵は進が預かっている。


「わかった。途中でエレナも拾うから、家で待っててくれ」


『了解ですわ』


 エレナの自宅は市内南部にあるので、途中で拾って一緒に土浦を目指すとちょうどいい。


 余談ではあるがエレナは車の免許を持っていない。エレナは美月と同じく十六歳なので年齢的に免許を取得できないのだ。本人は車が無理ならバイクの免許を取ろうか、などと言っている。エレナはバイクなら特務飛行隊時代に年齢をごまかして免許を取っているので、もう一度正式に受け直しても問題なく受かるだろう。


 進は電話を切り、美月の部屋の前に立つ。進は一言だけ声を掛けた。


「……行ってくる」


 美月の返事はない。進は部屋のドアに背を向け、玄関に向けて歩き出した。

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