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斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~  作者: ニート鳥
斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロスⅡ ~眠り姫の目覚め~
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13 露見

「もう一人の私に裏切られたあの人の気持ちなんて、進にはわからないでしょう!? 私はもう一人の私を許せない! 進のことだって取り戻す! 私は焔北極星と戦う!」


 ヒステリックに叫んだ南極星は、青紫色の〈エヴォルノーヴァ〉を呼び出した。進はとっさに反応できない。どうする? 住宅地であるが、自分も〈プロトノーヴァ〉を召還して戦うべきか。


 進に考える暇を与えないまま、〈エヴォルノーヴァ〉はプラズマレンチを抜き、いきなり前に斬りかかった。


「進、伏せろ!」


 北極星の声とともに〈ヴォルケノーヴァ〉が飛び出て、プラズマレンチでプラズマレンチを受け止める。両機は進を挟んで鍔迫り合いを繰り広げ、いったんその場に伏せていた進は脇から〈ヴォルケノーヴァ〉の方へと逃げ出した。民家の影には北極星が隠れていて、進もそちらに退避する。


「妙な重力子変動があるから来てみれば……!」


 北極星は〈ヴォルケノーヴァ〉を遠隔操作しながら険しい表情を浮かべる。おそらく南極星は〈エヴォルノーヴァ〉のステルス性を使って正面突破で堂々と筑波に侵入したのだろう。


 周囲は蜂の巣を突いたような騒ぎになっていて、民家やアパートから住人が三々五々に脱出していく。グラヴィトンイーターの相手は無理だが、軍や警察もすぐ駆けつけるだろう。避難誘導くらいはやってくれる。


「成恵のこと、おまえは知っていたのか?」


 進の質問に北極星は首を振った。


「アメリカ側が〈スコンクワークス〉と接触したという情報は掴んでいた。だが、まさかもう一人の私が覚醒して指輪を受け取っていたとは……!」


 事情はわからないが、明らかに南極星は西日本アメリカ亡命政権に味方して、進と北極星に敵対してきている。彼女の性格上、翻意はあり得ないだろう。


 それでも進は南極星に呼びかけずにはいられない。


「やめてくれ、成恵! 俺たちが戦う理由なんてない!」


 南極星は懸命に〈エヴォルノーヴァ〉を地上から操りながら反論する。北極星も南極星も隙がないため、両者とも機体に乗り込めないのだ。


「進、あなたにも焔北極星と戦う理由はあるはずよ! あなたのお父さんを殺したのは焔北極星だもの!」


「……ッ!」


 進は絶句する。父のことは、進があえて考えないようにしていたことだった。



 進の父は日本軍のパイロットだった。進の父は九年前の戦争において九州で撃墜され、行方不明となる。敗走する友軍を援護してしんがりを引き受け、最後まで戦場に留まったが故の悲劇だった。


 西日本はアメリカ亡命政権の手に落ち、捜しに行きようもない。進の父はMIA(作戦行動中行方不明)に認定され、やがて情報がないため二階級特進、即ち戦死とされた。やって来た軍のお偉いさんから進の母は遺髪と遺族年金の証書を受け取り、幼い進と美月に父の死を伝える。美月は泣き喚き、進はうつむいて耐えた。


 進の母は美月をなだめるために席を外し、軍の偉い人は進に父の最期を語る。父は味方を全て逃がしてから反転して敵機の群れに突っ込み、壮絶な戦死を遂げたとのことだった。進は勇敢だった父を思い出して涙を流し、母と美月を父に代わって守っていこうと誓った。


 敗戦ムードの中で進の父が自分を犠牲にして孤軍奮闘し、友軍を逃がしたことは大々的に報じられ、国民の希望となった。進の父は全軍人の規範とされ、今でも士官学校の教科書に載っている。



 進の父が生きていたことが判明したのは二年ほど前のことだ。奇跡的に生き残り、捕虜となっていた父はアメリカ側に寝返り、かつての人脈を駆使して日本へのスパイ活動を行っていた。当時航空学校の生徒となっていた進は連座で退学となり、父は軍が放った刺客により暗殺された。


 軍内部でどういう経緯があったかは知らない。しかし最終的に進の父を殺す決断をしたのは、北極星のはずだった。



「……誰であろうと、裏切りは許さぬ! 組織には当然のことだ!」


 北極星は叫び、〈ヴォルケノーヴァ〉の大腿部ハードポイントに装備されている30ミリハンドバルカンを発砲した。付近の住民はほとんど避難したようなので、遠慮なく戦える。南極星は〈エヴォルノーヴァ〉の足下に逃げ込み、弾の嵐を凌いだ。


「そうやってあなたは他人を踏み台にしてきたのね! 絶対に許さない!」


 〈エヴォルノーヴァ〉は片手をプラズマレンチの柄から放し、太ももの72ミリショットカノンに手を伸ばす。ハードポイントに固定したまま撃ってもショットカノンは〈ヴォルケノーヴァ〉に当たらないと判断したのだろう。〈エヴォルノーヴァ〉のパワーなら片手でも〈ヴォルケノーヴァ〉に力負けしない。


 この至近距離でショットカノンを受ければ〈ヴォルケノーヴァ〉もただでは済まない。そうでなくても進や北極星が隠れている場所を狙われれば一巻の終わりだ。進たちは民家やコンクリートの壁といった遮蔽物ごとミンチになる。進が迷っている暇はない。


「きやがれ! 〈プロトノーヴァ〉!」


 進の影から〈プロトノーヴァ〉がタックルをかまし、〈エヴォルノーヴァ〉を押し倒した。


 〈プロトノーヴァ〉はそのまま〈エヴォルノーヴァ〉を押さえつける。パワーでは負けているため〈プロトノーヴァ〉は押し返されそうになるが、すかさず北極星が助太刀する。二機にいっぺんに掛かられたら、いくら〈エヴォルノーヴァ〉でも起き上がれない。南極星を無傷で捕獲できそうだ。


「成恵! 降伏してくれ!」


「お断りだわ!」


 進は勧告したが南極星は受け入れてくれない。南極星は首の付け根にあるハッチを開けて〈エヴォルノーヴァ〉に乗り込もうとする。


「進! 撃て!」


 〈ヴォルケノーヴァ〉の位置からは生身の南極星を狙って攻撃することはできない。しかし反対側にいる〈プロトノーヴァ〉なら両手が塞がっていても頭部のバルカン砲で南極星に無慈悲な掃射を加えることができる。


「でも、こんなものを撃てば……!」


 〈プロトノーヴァ〉の頭部に装備されているM61バルカン砲の口径は20ミリで、発射速度は毎分六千発に及ぶ。対地攻撃には威力不足といわれるが、直径がゴルフボール大の弾が目にも止まらぬ速さで次々と飛来するのだ。生身の人間を吹き飛ばすには充分過ぎる。グラヴィトンイーターの南極星でも一瞬で肉片にできるだろう。


 だからこそ進は射撃をためらい、それを見越して南極星も進の射線に侵入するコースをとった。主を体内に収めた〈エヴォルノーヴァ〉は〈プロトノーヴァ〉の足を蹴って隙を作り、スラスターを噴かして空へと逃れる。


「焔北極星! 私はあなたを許さない! 必ずあなたを殺してみせる!」


「やれるものならやってみるがよい! 私と進は貴様ごときには負けぬ!」


 南極星の予告に北極星も負けじと言い返す。〈エヴォルノーヴァ〉があっても進と北極星のノーヴァシリーズ二機に勝てるかは微妙だ。現にファウストは進と北極星のコンビに敗れている。


 だが南極星はひるむことはなかった。


「確かに今のあなたたちに私は勝てないかもしれない……! でも過去のあなたにはどうかしら?」


「成恵……! もしかしておまえ、重力炉を!」


 進は思わず尋ねる。ファウストがそうしようとしたように、南極星が筑波の重力炉を使って過去に飛べば、暴走による世界崩壊の危険がある。


 南極星は対消滅の可能性があるため自分がグラヴィトンイーターとなった以降には行けないが、その前に遡ることは可能だ。九年前の戦争時なら進はグラヴィトンイーターになっておらず、ファウストは健在である。当時なら南極星がファウストに加勢すれば、北極星に勝てる。


 ちなみに今、北極星と南極星が同時に存在していても対消滅が起こらないのは、取り込んだグラヴィトンシードが違うからだ。グラヴィトンシードが違えば、グラヴィトンイーターとしては別個体である。


「死ぬべき者が死んでいないせいで、この世界はおかしくなった。進もその影響を受けている」


 憎々しげに南極星は言った。死ぬべき者とは誰のことだ。答えは〈エヴォルノーヴァ〉の頭部で光るアイセンサーの先にあった。


「美月……! エレナ……!」


 進は言葉を失う。学校から帰る途中だったのだろう、二人とも鞄を片手に進たちの様子をじっと見ていた。美月は怒りと悲しみが入り交じったような表情で佇んでいて、エレナは申し訳なさそうな顔をして美月の袖を握っている。


「進、私は過去に戻って世界を正して見せるわ! 楽しみにしててね!」


 〈エヴォルノーヴァ〉はプラズマステルスの淡い光を纏い、飛び去る。今の射撃をためらった進を連れては戦えないと判断したらしい北極星は、追撃することなく〈ヴォルケノーヴァ〉を異次元に転送する。進も〈プロトノーヴァ〉を影に沈めた。


 進は助けを求めるように北極星の方を見る。北極星は微動だにしなかった。


 美月はエレナの手を振りきり、こちらにつかつかと歩いてくる。


「お兄ちゃん、どういうこと?」


「……」


 進は何を言えばいいのかわからず、黙り込む。気まずい沈黙に耐えかねたのか、エレナが提案した。


「美月さん、落ち着いてくださいまし。まずは場所を変えましょう。こんなところで立ち話をするのはよくありませんわ」

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