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斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~  作者: ニート鳥
斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロスⅡ ~眠り姫の目覚め~
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4 基地への帰還

 進はワイヤーで纏められたコンテナを〈プロトノーヴァ〉の両手に買い物袋のように提げさせる。この程度なら重力子分解の範囲内に収まるので、持って飛行することが可能だ。人型であるおかげでGDは何でもこなせる汎用性を獲得しているのである。


 進は北極星に続いて離陸し、横浜から筑波方面へ飛ぶ。今日はコンテナを降ろすため、直帰は無理だ。筑波の手前で降りなければならない。進は筑波の南、土浦に位置する技術研究本部に向かう。


 土浦基地は元々陸軍の試験場として使用されていた。元々空軍の試験場は岐阜にあったが前大戦における西日本陥落で失い、代わって土浦基地が拡充されたのである。今では土浦基地は戦闘部隊が配備された筑波防衛の要で、陸空軍の試験部隊も同居している国内有数の基地になっていた。


 進の新たな勤務地が、この土浦基地試験飛行場だった。進は〈プロトノーヴァ〉を用いて荷電粒子ビームカノンをはじめとするグラヴィトンイーター専用GDに対応した武装の試用を行っている。


 ちなみにエレナも稲葉さんの推薦で進と同じ第一試験飛行隊に異動していた。エレナは〈疾風〉の後継となる新型量産GDのテストパイロットを務めている。エレナは天性のバランス感覚で機体制動が抜群にうまいため、未完成の試作機でも十全に乗りこなせるのだ。



 進は基地内にある試験飛行場に着陸して研究棟の機材入れ用倉庫にコンテナを放り込み、再び飛行場に戻って機体から降りた。


 試験飛行場は霞ヶ浦湖畔にあり、水面には月明かりで〈プロトノーヴァ〉の姿が映り込んでいる。〈プロトノーヴァ〉は被弾しており修理が必要なため、進は格納庫が開くのを待っていた。北極星はすでに〈ヴォルケノーヴァ〉を異空間に転送している。


 ぼんやりと立っている進の所に、エレナが駆け寄ってくる。


「お帰りなさいませ、進さん! すぐに格納庫を開けますわ!」


「あれ? エレナは今日非番だろ?」


「あら、妻が旦那様の帰りを待つのは当然でしょう?」


 エレナはウインクしてぽすんと進の胸に飛び込み、顔を埋める。同じタイミングで格納庫のシャッターが音を立てて開き始めた。進は〈プロトノーヴァ〉を格納庫に入れなければならないが、エレナがご主人様にまとわりつく子犬のようでかわいらしく、進はなかなか邪険にできない。ああ、やっぱりエレナは柔らかいなあ。進はぽりぽりと頭を掻いた。


 この半年間でエレナとの仲は特に進展していない。エレナが迫ってきても進は曖昧な返答に終始している。進はエレナが嫌いなわけではないのだが真面目な話、エレナが自分と釣り合っているとは思えないのだ。


 確かに去年、進はエレナをゲリラたちの牢獄から救出した。しかし進がやったのは本当にそれだけである。エレナを始末せずに特務飛行隊に入れる決断を下したのは稲葉さんだし、筑波での住居を用意したのも稲葉さんだ。


 正直なところ、進はエレナには軍から抜けてほしい。この四月までなら特務飛行隊は生きていて、エレナは機密保持と食い扶持のために戦う他に道はなかった。しかしながら四月の二十四時間戦争で特務飛行隊は消滅している。


 エレナが特務飛行隊の秘密を守るために軍に残る必要はなくなったのだ。北極星もエレナの除隊を考えていたようで退職金代わりだろう、二十四時間戦争での戦功を認めて多額の報奨金を出していた。


 ところがエレナは軍に残ることを希望する。北極星の権限なら強制的に退役させることもできたが稲葉さんの口添えもあり、エレナはテストパイロットとして正式採用されることになった。


 エレナが軍に残ったのが進のためだとしたら、非常に申し訳ない。そもそもエレナは成り行きでパイロットになっただけで、進のように最初からパイロットを目指していたわけではない。エレナには同い年の美月のように、普通の高校生として平和な生活を楽しむ権利があるのだ。エレナに人殺しなんてこれ以上してほしくないし、関わってほしくもない。戦うことの罪を、進のために背負ってほしくない。


 何度もエレナとそういう話をしたのだが、エレナの答えは決まっていた。


「私にも守りたいものがあるのですよ」。



 また、人を殺すのに比べれば些細な問題だが、進と一緒にいるとエレナまで奇異の目で見られるという事情もある。アメリカ人の血が混じったエレナはただでさえ外国人らしい容貌をしているので目立つ。なのでグラヴィトンイーターである進の側にいると余計に悪目立ちしてしまう。


 進は軍の中でも化け物扱いで、近づく者など誰もいなかった。最近はさすがに整備班や試験飛行隊の面々に敬遠されることはなくなったが、今でも軍の大半は進をまるでいないものかのように扱っている。十八歳にして専用GDと中佐の階級を与えられた進は異例ずくめの存在で、組織からは煙たがられている。


 傭兵から元帥に成り上がった北極星も異例ずくめではあるが、彼女は実力で軍を従わせていた。少なくとも日本政府の影響力が及ぶ範囲の空軍は北極星の命令をちゃんと聞く。地方の軍では相変わらず中央からの自立を志向する者もいるが、これは北極星というより政府が舐められているためだ。


 基地で進が挨拶をしてもほとんど無視されるし、ちょっとした回覧だと回ってこないこともある。実害はあまりないが、気分はよくない。北極星の後ろ盾がある進でさえこうなのだ。いつか進よりずっと立場の弱いエレナに矛先が向かうのではないかと、進は気が気でなかった。



 さらに進はいつかエレナが、「グラヴィトンイーターになりたい」と言い出すのではないかと心配していた。今すでに軍の中で進は化け物扱いされている。二十年、三十年経てば全く歳を取らない進はいったいどういう扱いになるのか。北極星のように実力で周囲を黙らせることができるのか。


 不気味がられるのは当然として、迫害されてもおかしくない。間違いなく一般社会では生きていけないだろう。力を得た代償なので進自身は何があっても受け入れるしかないと思っているが、エレナまで巻き込むのは耐えられない。進の心配が杞憂であることを祈るばかりだ。



 進から離れようとしないエレナに、北極星が苦笑しながら声を掛ける。


「その辺にしておけ。整備班をあまり待たせるのはよくない」


「これは失礼しました。私は整備班にデータを届けてきますわ!」


 エレナは進からUSBを受け取り、格納庫に走る。コクピットから取り出してきたUSBには機体による自己診断が記録されているのだ。これを元に整備班は〈プロトノーヴァ〉を修理する。


 進は〈プロトノーヴァ〉を格納庫まで歩かせて、自分は二本目のUSBを携え、北極星とともに研究棟に向かう。今日の戦闘について、報告しなければならない。


 研究棟の倉庫に行くと、GD開発部門の担当者が待ち構えていた。


「待っていたわ、進君! さぁ、今日のデータをちょうだい! 実戦でしか発揮されない進君の本気を見せて!」


 この白衣に眼鏡の女性こそがGD開発及びグラヴィトンイーター関連事項の責任者、越智教授である。越智は前の戦争のときに北極星が〈スコンクワークス〉から引き抜いてきた人材だ。まだ二十代ながら日本ではGDの権威となり、武器学校の教授も務めている。日本が欧州諸国に先んじて木星級重力炉を実用化できたのも彼女の功績という話だった。


 越智は進が差し出したUSBを引ったくるように奪い、自分のタブレット端末に差し込む。越智はデータを見て目の色を変えた。


「これは凄いわ! 荷電粒子ビームカノンの三連射に被弾のデータまであるのね! 北極星とは大違いね!」


 進の失策は越智にとって歓迎すべきことらしい。越智の言葉を聞いて北極星は誇るように言った。


「フッ、私に被弾させようと思うなら先程の十倍は機体を用意することだな」


 練度の低いゲリラのパイロットが操る初期型〈疾風〉なら、実際それくらいの数が必要だろう。初期型〈疾風〉は火器管制システムも貧弱なのだ。


「しかし進、どうして貴様はビームカノンの三連射ができたのだ? 確実にエネルギーが足りぬはずであろう?」


 北極星の問いに進はまともに答えられない。


「さぁ……? やってみたらできちまったんだから仕方ないだろ」


「まぁグラヴィトンイーターの力は私たちの常識では説明がつかないことも多いし、そのとき奇跡が起こったってことでいいんじゃないの? 実際そのとき進君は必死だったんでしょう?」


 越智は科学者らしからぬアバウトさを発揮し、進は「確かに必死でしたけど……」と困惑の表情を見せる。グラヴィトンイーターなどというでたらめなものを扱うには、今の科学は不足なのだった。


「ふむ……。確かに私は急に進の周囲の重力子が濃くなったように感じたのだが」


「〈プロトノーヴァ〉はブラックボックスだらけで私もわかんないこと多いのよ。また調べとくわ。〈スコンクワークス〉が何かおかしなものを搭載させてるのかもしれない」


 北極星は思案顔を見せ、越智は後日調査することを約束した。越智は進の戦闘データに戻る。



 越智はタブレットに目を落とし、〈プロトノーヴァ〉が残した詳細なデータを一通り確認する。越智は何やらブツブツとつぶやいた後、顔を上げた。


「こっちはこのプランで完璧ね! 次に搭載する荷電粒子ビームカノンは、ブラックホールで精錬した合金を織り込んで砲身を一センチ厚くしたタイプ! これなら五連射もいけるでしょう!」


 進の体が保たないので無理だ。


 続いて越智は進と北極星が運んできたコンテナへと向かう。いよいよ進はコンテナの中身を見ることができるらしい。わざわざ進と北極星が横浜まで出張って確保したものだ。しかも越智が関わっている。きっと専用GDの新兵器とか、もの凄いものに違いない。進はコンテナを注視した。

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