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斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~  作者: ニート鳥
斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロスⅡ ~眠り姫の目覚め~
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0 もう一人の成恵

ここからは賞に出していない部分になります。この土日は二回更新します。思いっきり趣味に走って、陸戦なんかも書く予定。

『だが私にもう迷いはない。進がいてくれるから……! いつか貴様に約束したように、私は世界をあまねく照らし、全てのみちしるべとなる……!』


 〈ヴォルケノーヴァ〉が握る実体剣は〈エヴォルノーヴァ〉の胴体を貫き、重要区画を完膚無きまでに破壊していた。電気系統から火花が散り、推進剤に引火する。機体は内側から大爆発を起こし、パイロットの体を粉々にした。


 視界を覆う真っ白な光の中で一周目の進──ファウストはつぶやく。


「なら、俺がやってきたことは無駄だったのか……?」


 ファウストは美月を救うことも、世界を救うこともできなかった。一つの世界を滅ぼしたにもかかわらず、ファウストは何一つ成し遂げていない。


 ファウストは自分の手をじっと見る。美月のリボンはどこへ行ったのだろう。ファウストの掌には何もなかった。


「そんなことはない……! 進はよくやったよ!」


 ファウストは顔をあげる。鈍い闇色の空間でファウストが命を救った少女──二周目の成恵が生まれたままの姿で立っていた。死の間際にファウストは二周目の成恵とリンクし、グラヴィトンイーターの精神世界へと引き込まれたのだ。


 成恵は今にも泣き出しそうな表情でファウストを見上げる。いつの間にか、ファウストの顔を覆っていた黒の仮面は消失していた。ファウストと成恵は二人だけの世界で、素顔で向き合う。


「私は進がやっていることに反対だった……! でも、進が精一杯やってたことだけはわかる……!」


 ファウストは、美月のためにできることは全てやった。迷いはあった。後悔もある。しかしファウストは全て手を尽くした上で、二周目の自分と北極星に負けた。


 成恵はファウストの頬に触れる。ファウストは成恵の手を取り、ぎゅっと握った。血が通っている暖かさを感じる。


「そうだな……。俺は成恵を助けることができた……」


「本当に、ありがとう……」


 成恵の涙がぽたぽたとこぼれてファウストの手を濡らす。ファウストは成恵の頭を撫でた。


「やはり、素直な成恵が一番かわいい……」


「バカ、こんなときに何言ってるの」


 成恵は涙を流し続けながらも少しだけ笑った。つられて、ファウストもわずかに頬を緩める。


「俺はずっと、もう一人の成恵──焔北極星のことがわかっていなかった……。あいつも本当に強いんじゃなくて、強がってただけなんだよな……」


「もう一人の私が悪いのよ! 進の前で、本当の自分を見せられなくて……」


「わかってたら、違う道もあったのかもしれない……。だから成恵は、せめてそのままの成恵でいてほしい……」


「うん……。私はありのままの私でいる……!」


 成恵はファウストの胸にしがみつき、さめざめと泣いてくれた。ファウストが後を託せるのは成恵しかいない。ファウストは尋ねた。


「俺の戦いは終わった。だが、何も解決していない……。成恵、あとどれくらいで動けるようになる?」


「半年くらいよ……」


 九年前の戦争で成恵は肉体的に一度死んでいた。ファウストがグラヴィトンシードを与えた段階ですでに成恵は心肺停止状態で、グラヴィトンイーターとして復活できたのはほとんど奇跡である。成恵の才能が規格外だったこと、脳の損壊がなかったことで成恵は助かった。


 成恵は意識こそ取り戻すことができたものの、体の再生にはかなり時間が掛かってしまう。現在はようやく上皮、筋肉の修復が終わったところであり、神経系はまだこれからだ。全身の神経を再生することでやっと成恵はベッドから起き上がることができる。そうなれば成恵はグラヴィトンイーターとして、人類を遙かに超えた力を行使することが可能だ。


 美月を救うことができなかったのは仕方がないにしても、ファウストにはやり残したことがある。美月を助けた後に潰す予定だった。彼らがいる限り、平和も安全も絶対にあり得ないから。


 ファウストは美月を助けるより前に、彼らを倒すべきだったのかもしれない。それなら、ファウストは北極星と協力できた。


「〈スコンクワークス〉を倒してくれ……!」


 そう告げると同時に、闇へと溶けるようにファウストの体は消え去った。

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