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斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~  作者: ニート鳥
斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~
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24 蟷螂の斧でも

 進は為す術もなく北極星を乗せた〈ヴォルケノーヴァ〉がブラックホールに飲み込まれるのを見送った。一瞬で進の頭は沸点を超える。進は湧き上がる激情をファウストにぶつけた。


「貴様ァっ! なんで成恵を……!」


『安心しろ。グラヴィトンイーターはブラックホールに落ちたくらいでは死なない。あの状況では自力で脱出するのは無理だろうがな』


 ファウストの回答を聞いて、進は怒りに歯を剥いて尋ねる。


「……誰が助けるんだよ。おまえが助けるのか?」


『まさか。なぜ俺が邪魔者を助けなければならないんだ? おまえがやればいい。おまえが俺なら、グラヴィトンイーターとなれる素質があるはずだ』


「俺があんたの邪魔をするとは考えないのかよ」


 進の言葉をファウストは一笑に付す。


『おまえでは俺の相手にならない。万が一俺が時間遡行に失敗すれば、話は別だがな。この世界がだめになれば、〈スコンクワークス〉のグラヴィトンイーターが木星級重力炉を別の世界に転移させるだろう。俺はいくつの世界を犠牲にしようとも、美月を生き返らせるまで同じ事を繰り返す』


 進は、サイドスティックをぎゅっと握った。


「相手にならないかどうか……試してみろよ!」


 進は〈疾風〉にプラズマレンチを装備させ、突進させる。凍りついていたはずの体は、北極星がやられるのを見て燃え上がり、ファウストを倒せと叫んでいた。ファウストは難なく進の攻撃を避ける。


『無鉄砲だな……』


 いくら進がプラズマレンチを振り回しても、ファウストには掠りもしない。機体性能にもパイロットの腕にも差がありすぎるのだ。進はプラズマレンチでの斬り合いなどほとんど経験したことはない。


 進はファウストに向かって絶叫する。


「おまえ……本気じゃないだろ!」


『本気じゃないいだと……? この俺が……?』


 ファウストの声は、わずかに上擦っていった。


「チンタラ俺に付き合ってるのがその証拠だ! おまえは結局、寂しかったんだ! 成恵に構ってもらいたかっただけなんだ! だから土壇場で失敗の可能性を口にしたり、俺を焚きつけたりしたんだ……!」


『俺は……!』


 進の指摘にファウストは声を上げるが、ファウストが何か言う前に進はさらに言葉を重ねる。


「おまえの口から、美月の事なんて全然出てきていなかった……! おまえがやってたのは、わざとらしく成恵を挑発することだけだ! おまえは美月の何を覚えているんだ! 言ってみろよ!」


 進はチャフとフレアをばらまきながら一旦ファウストから距離をとり、夜の闇に紛れて地上に降りる。チャフは電波を反射することでレーダーを攪乱する無数の金属片をばらまくもので、フレアは燃焼するマグネシウムを発射して赤外線捜索追跡システム(IRST)の目をごまかすものだ。どちらも古典的な欺瞞装置だが、「黒い渦」の影響であらゆる索敵システムが弱体化している今、それなりの効果が見込める。


 フレアの放つ光が、花火のように機体の周囲を舞った。一度見失えば雑然と建築物が並ぶ地上では、黒い塗装が保護色となってそうそう発見できないだろう。グラヴィトンイーターとしての能力で重力子の変動を察知しようにも、ここまで木星級重力炉に近ければノイズが多すぎてわかるまい。


『……学校帰りの公園で毎日遊んだことも、わがままを聞いてやったことも、成恵と一緒に助けたことも、全部覚えている……! ずっと一緒にいると約束したことも、結局守れなかったこともな! おまえに何がわかる……!』


 怒りを押し殺したようなファウストの声に、進は答える。


「知るかよ。でもな、死んだ美月のために、成恵を犠牲にするのはおかしいってだけは言える!」


 北極星がブラックホールに消えたときの、成恵が炎の中に消えたときの胸を抉られたような喪失感。進には耐えられない。真っ黒な塊が、進を突き動かしていた。


 進もファウストも、この喪失を他人に押し付けてきた。戦争をやっているので命を奪うのは当然で、進もファウストも罰せられることはない。だからといってその罪から逃れられるほど、進もファウストも強くはなかった。


 せめて自分の目的を果たすことで、一つの世界を滅ぼしたことを無駄にしないというのがファウストのスタンスだ。ならば進は、この世界を守ることで、成恵を取り戻すことで、エレナや美月を守ることで贖罪に代える。


 何をしても罪が消えるわけではない。自己満足の押し付け合いに過ぎないのはわかっている。最後は我を通せるかだけの問題だ。進の背中の向こうには北極星がいる。エレナも美月もいる。だから進は引かない。


「俺は……おまえの分まで成恵の幼馴染みをやる! この場でおまえを倒す! もう成恵に……あんな悲しそうな顔はさせない!」


 威勢のいいことを言ったが、何の根拠もなく言っているのではない。進の戦場は特務飛行隊に入って以来、ずっと夜の空だった。夜間戦闘なら正規軍とも互角に戦えると自信を持って言える。たとえ相手の機体と操縦技量が進より格段に上でも、やれるはずだ。


 進は〈疾風〉をしゃがませて背の高いビルに身を隠しながら、レールカノンの照準をファウストに合わせる。プラズマステルスが放つ淡い光のおかげで、〈エヴォルノーヴァ〉の位置は丸見えだった。


「おまえの好きにはさせない……!」


 進はエンジンをフルスロットルにして〈エヴォルノーヴァ〉に向けて直進し、充分に加速してから引き金を引く。砲門からタングステンの砲弾が放たれ、一直線にファウストを襲う。


 しかし、進は失念していた。ファウストが進であるなら、彼もまた夜間戦闘のプロフェッショナルだということを。


『見え見えだ!』


 ファウストは進の砲弾を盾で防ぎ、レールカノンを撃ち返す。進の姿が見えないなら、地上に隠れているに違いない。地上に隠れるなら、〈疾風〉の機体を隠せるほどの建物は限られる。よって進がどこから仕掛けてくるか、予想はつく。簡単な理屈だった。


 進の〈疾風〉は盾を持った左手を肩の付け根から吹き飛ばされる。しかし進は機体を止めない。右手のレールカノンを捨ててプラズマレンチに持ち替え、両もものハードポイントに装備された30ミリハンドバルカン、72ミリショットカノンに加えて頭部20ミリバルカンまで乱射しながらファウストに突っ込む。〈エヴォルノーヴァ〉の装甲が小口径の弾を弾いて機体の各部で火花を散らせた。


 進のプラズマレンチがファウストを貫くより、ファウストの剣の方が早かった。


『おまえの希望通り、地獄に送ってやる!』


 進の乗る〈疾風〉は右腕を肘から切断され、高熱に当てられた肩のロケットエンジンが誘爆を起こす。続いてファウストは胴を横一文字に切り裂き、真っ二つになった〈疾風〉は炎上しながら墜落する。


『最後に一つだけ教えてやろう……。──は生きているぞ!』


「畜生……!」


 轟音と衝撃で、進は意識を失った。

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