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斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~  作者: ニート鳥
斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~
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18 調査

 司令部を出た後、北極星は稲葉さんに小声で尋ねる。


「どうだ? やつの話は信用できるか?」


 稲葉さんは考え込むような仕草を見せ、言った。


「中将は嘘は言っていないね。ただ、本当のことも言っていないように感じる……」


 「厄介なやつだな……」と北極星は舌打ちし、稲葉さんにさらに尋ねる。


「それは前の世界の貴様が、秋山に殺されているという事実を勘案しての意見か?」


「もちろんだ。秋山は嘘は言っていない」


 稲葉さんは冷静に返すが、進は慌てて尋ねる。


「ちょっと待て! 前の世界とこの世界とで、同じ人間がいることなんてあるのか!?」


 北極星はにやりと笑ってあいまいな返答をする。


「さぁ、どうだろうな……」


 進は助けを求めるように稲葉さんの方を見る。稲葉さんは苦笑いして言った。


「極希にあることだよ。気にするほどのことじゃない」


「やっぱり私の予想が当たってるんでしょうか……?」


 エレナは首を傾げる。北極星は違う世界の成恵だというエレナの説。そんなはずがない。進は首を振った。


「いや、そうじゃないはずだ……」


 北極星が進の知る成恵でないなら、昨日進ごとファウストを撃ち殺さなかった意味がわからなくなる。第一、北極星が向こうの世界の成恵なら、向こうの進はどこに行ったというのだ。


 自分なら、絶対に成恵の傍から離れない。石にかじりついてでも一緒にいる。


 だから北極星は進の成恵だ。間違いないはずである。


 しかし疑問は尽きない。前の世界はこの世界はよく似た世界だったとは聞いている。つまりこの世界は、異世界人の故郷と同じような歴史を辿ってきたということだ。そして二つの世界には同じ人間が存在する。これでは異世界ではなく、まるで……


 進が思索に耽っている間に、北極星は今後の方針を決める。


「やはり、こちらでも調査する必要がありそうだな……。そこのバス、止まれ!」


 北極星はちょうどバス停から発車しようとしたバスを止めた。


 北極星はバスに上がり込み、階級章を見せながら宣言した。


「空軍元帥の焔北極星だ! 悪いがこのバスを徴発する! 乗客は全員降りろ!」


 北極星の言葉に従い、ぞろぞろと乗客はバスを降りる。進はあきれ声でぼやいた。


「滅茶苦茶だな……」


「こっちではよくあることですよ」


 エレナは何でもないことのように言った。


 現在、東京を含む南関東は南関東方面軍の軍政下にある。軍の命令は無理でもまかり通り、軍幹部が運航中のバスを徴発して乗っていくなど日常茶飯事だ。そのため東京の人々も慣れっこになっていて、文句も言わずあっさり降りたのだった。筑波をはじめとする北関東では考えられないことである。


「秋葉原まで頼むぞ」


 北極星はバスの運転手に目的地を告げ、進たちもバスに乗った。バスが発車してから、進は北極星に言う。


「こんなことせずに、秋山中将に車を用意してもらえばよかっただろ」


 郷に入れば郷に従えというが、やはり平和な筑波在住の進には北極星の行為は横暴に映ってしまうし、進自身も罪悪感を覚える。


 進の言葉を聞いて、北極星は大袈裟にため息をついた。


「全く貴様は頭が緩いな。疑っている相手の世話になる馬鹿がどこにいる?」


「そりゃそうだけどさ……」


 北極星が言っていることも正しいので、進の声が小さくなる。


「まあまあ、進さんが慣れていないのは仕方ないでしょう。こっちは初めてなのですから」


 エレナがフォローしてくれた。


「そういえば、エレナは東京の出身なんだっけ?」


 進が訊くと、エレナは嬉しそうにうなずく。


「ええ、そうです。東京といっても立川の方ですけど……」


 エレナの父は在日米軍の元軍人だ。日本人であるエレナの母との結婚を機に退役して日本に帰化し、東京に住み着いていた。エレナの父は軍人時代のコネを利用して武器商人となり、一家は幸せな生活を送っていた。


 エレナの父が西側に行ってしまったのは、全くの偶然である。たまたま九州に出張している間に戦争が起きたのだ。エレナの父は手紙で無事を伝えてきたものの、停戦ラインを超えて東側に帰還することは不可能だった。


 エレナの父は充分なお金を残していったので、エレナ親子は当面困らなかったのだが、一年前にエレナの運命は暗転する。父が帰ってくることを信じて、疎開先から東京に戻ったのがいけなかった。ゲリラが、強盗に押し入ったのである。


 エレナの母は殺され、エレナ自身は拉致された。エレナはハーフだが、非常に外国人らしい容貌だったので、ゲリラたちは西日本アメリカ亡命政権に身代金を要求しようとしたのである。


 ゲリラの本拠地でエレナは監禁されることとなったが、意外にも一日でエレナは解放されることになった。進たち特務飛行隊が、非武装停戦ライン内にあったゲリラの本拠地を襲撃し、壊滅させたのだ。


 ゲリラの本拠地となっていた屋敷の地下に監禁されていたエレナを助け出したのは、進だった。機密保持のため、人質も含めて皆殺しにするのが決まりだったが、進にはできなかった。


「あのとき、進さんが助けてくれたからこそ、私は生きてお父様を待つことができています……。進さんには、本当に感謝しています」


「いや、エレナに才能があったからだよ。俺は何もしていない」


 白馬の王子様か何かを見るような目を向けるエレナに、進は照れ笑いを浮かべて言った。


 あのとき進はエレナの助命を稲葉さんに嘆願したが、さすがの稲葉さんも渋った。しかし進は諦めずに武器商人の娘というエレナの境遇を説明して、利用価値があるのではないかと詰め寄り、必死の思いで稲葉さんを説得したのだ。


 話によるとエレナの父はGD用のシミュレーターも扱っていて、何度もシミュレーターで遊んだことがあった。GDの操作は独特なのでパイロット育成に際してはシミュレーターで慣らすのに時間が掛かる。そのため稲葉さんはエレナをスカウトすることを決意した。


「それでも、進さんが稲葉さんに頼んでくれたから今の私があるのです」


 エレナはいたずらっぽく笑い、進は困ったように頭を掻いた。



 2000年代まで二次元産業の聖地として多数のオタクが巡礼した秋葉原も、戦後は様変わりして東京中のジャンク屋が店を出す、一大GD市場となっていた。


 ジャンク屋たちはほとんどバラックのような粗末な店舗にGDの人工筋肉からロケットエンジンまで様々なパーツを並べ、外国人と思しき客たちがパーツを買い漁っている。GD関連機器の輸出には厳しい制限が掛けられているため、制限を超えてGDを欲する国はこうして非合法市場でパーツを買うしかないのだ。


 ジャンク屋が売っているパーツの出所は非武装停戦ラインのゲリラたちである。ゲリラは停戦に反対した軍の残党から強盗のような連中まで様々だが、GDを保有しているという点では一様に同じだった。


 GDの整備は比較的簡単なので、小規模な組織でも充分に運用できる。問題は燃料だが、重力制御技術により日本近海のメタンハイドレートを採掘できるようになったため、簡単に入手できるようになった。ゲリラが特務飛行隊と戦ったり、ゲリラ同士で潰し合いをしたりして墜落したGDからジャンク屋たちはパーツを剥がし、売り捌いているのだった。


 ゲリラには軍がGDを横流ししているというが、証拠はない。頭が痛い問題だが、軍や政府の上層部にも関わっている者がいるため、北極星でも手を出せないのである。


 進たちはジャンク屋を一軒一軒回り、一昨日の墜落現場について聞き込みをしていく。何軒か聞き込みを行っていくうちに、南関東方面軍の動きは明らかとなった。


「それは本当だな?」


 北極星はおよそ十軒目の店先で店主の胸ぐらを掴み、今一度確認する。


「え、ええ……。我々は軍人さんには嘘をつきませんよ。多摩方面で墜落した機体でしょう? 普段軍は神奈川の方まで来ないのに、続々と来て封鎖して検問を始めちゃって。あそこから持ち出そうとしたパーツは全部取り上げられました」


「なるほど。有用な情報、感謝する」


 北極星は店主を離し、満面の笑みで進たちのところに戻ってくる。


「間違いない。南関東方面軍は〈エヴォルノーヴァ〉の指輪を確保している」


 北極星の言葉に、進は尋ねた。


「じゃあ、あの司令部に指輪はあったってことか?」


 だとしたら、とんだ回り道をさせられたものだ。秋山中将が裏切り者だというのも確定である。


 憤る進に、稲葉さんは冷静な意見を出した。


「いや……そうとは限らないよ、進君。指輪が落ちたのは神奈川寄りの、ゲリラの勢力圏と言っていた。秋山もかなりゲリラの反撃や、ファウストのいるアメリカ特殊部隊の攻撃を警戒したはずだ。指輪を運ぶのに一日以上かけてもおかしくない」


 停戦ライン近辺に巣くってるゲリラは、食い詰めたあぶれ者だけでない。九年前の戦争で日米の停戦に反対して下野した軍人が大勢いる。彼らにとって今の日本軍は敵であり、指輪の事情を知る者さえ混じっていた。彼らの襲撃を警戒して、秋山中将は慎重にならざるをえない。


 墜落機に群がったジャンク屋を検問し、指輪を取り上げるだけでかなり手間が掛かったはずだ。それに加えて輸送警護を万全とし、ゲリラやアメリカ軍の攻撃を警戒して迂回ルートをとれば、時間はいくらあっても足りない。通信が気楽にできた時代とは違うのだ。


 北極星は付け加える。


「そもそも司令部に運び込む気だったとは限らぬからな……。どこか他の場所に隠す可能性もある」


「それじゃあ探しようがないじゃないか……」


 進は肩を落とす。広大な南関東方面軍の支配域から、指輪の入ったトランクを探すなど、一粒の砂金を手掛かりなしに広大な砂浜から探せと言われているに等しい。だが稲葉さんは断言する。


「いや……指輪はおそらく司令部に運ばれるよ。秋山は、重要なことは絶対に自分でやる。秋山が司令部にいた以上、そこで指輪をファウストに渡すつもりのはずだ」


 南関東方面軍の中にグラヴィトンイーター志願者はいない。政府はグラヴィトンイーターが政府に刃向かうのを恐れ、志願者を中央に纏めて監視させていると進は聞いていた。


 ならばグラヴィトンイーター専用GDである〈エヴォルノーヴァ〉を隠す理由一つしかない。秋山中将はファウストとつながっているのだ。


 北極星は複雑そうな表情を浮かべ、稲葉さんに言った。


「そういうことなら、あのプランを実行するしかあるまい。稲葉、頼んだぞ」


「……任せてくれ。まずは何とか説得してみるよ」


 稲葉さんは顔色一つ変えず、うなずいた。稲葉さんは進たちと別れ、一人司令部に向かった。そこで何が待っているかも知らずに。

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