28 一人きりの戦い
D3:My world
北極星がいなくても関係ない。進がすることは決まっている。進は〈ヴォルケノーヴァ〉の指輪と北極星の元帥刀を回収した後、すぐに北極星を探すことを諦め、〈プロトノーヴァ〉に乗って艦内の木星級重力炉に向かうことにした。重力炉の中に進が飛び込めば、重力炉は不調に陥りしばらくイカルス博士の計画が遅延することとなる。北極星がイカルス博士を引きつけているであろう今がチャンスだ。
しかしそこに厄介な邪魔者が現れる。
『やっと来たのね、カガヤキ・ススム! 逃げたのかと思った! パーティーに遅刻するなんて、ちょっと酷いんじゃない!? 待ちくたびれたわ!』
マリーの乗った〈エヴィルノーヴァ〉が、背後から迫っていた。進は反転してショットカノンで弾幕を張るが、マリーは盾を構えて構わず突っ込んでくる。装甲の厚い〈エヴィルノーヴァ〉は弾幕程度では止められない。進はプラズマレンチを抜いて、仕方なく格闘戦に備える。
とりあえず進はプラズマレンチで壁を壊して狭い部屋に逃げ込み、マリーがプラズマウィップを自由に振るえない場所に陣取った。木星級重力炉に近いこの区画は倉庫として整備されているようで、GD基準で小さな部屋がいくつもある。狭い所での斬り合いなら、進にも勝ち目はあるはずだ。
『さぁ、首を差し出しなさい!』
思った通り、マリーは猪突猛進に突っ込んできた。進は右手にプラズマレンチを、左手にショットカノンを装備して迎え撃つ。
「いい加減にしろよ!」
『あんたがさっさと死ねば済む話よ!』
マリーは高温のプラズマを帯びた実体剣を振り回す。進はプラズマレンチでどうにか剣をいなしつつ、ショットカノンで〈エヴィルノーヴァ〉の間接やスラスター部を狙う。
さすがに剣を振るえる距離までくると、盾で全身をカバーするのは難しい。接近すれば剣が有利というのは幻想だ。飛び道具の方が強いに決まっている。マリーは部屋が狭すぎて機動性を活かしてのヒットアンドアウェイもできない。マリーの勢いは鈍る。
『やり方が陰湿ね! 男らしく決闘は正々堂々受けなさいよ!』
マリーは喚くが、進は無視する。戦いで相手の土俵に上がったら負けだ。進は居住区画にさえ侵入し、〈スコンクワークス〉構成員を踏みつぶしつつマリーから逃れ続ける。
〈スコンクワークス〉の構成員たちは仲間が死んでも顔色一つ変えず、ぼんやりと進の〈プロトノーヴァ〉を眺めるばかりだった。感情が弱まるとはこういうことなのだろう。生への執着も、死への悲しみもないため、何もしない。何もできない。人類をこんな風にするわけにはいかない。
(よし……。この調子だ)
進は戦いながらさりげなく壁を破り、部屋を移動して木星級重力炉へと着実に近づいていく。艦内を全速力で飛び、一気に木星級重力炉に飛び込むという作戦も考えたが、勢いに乗ったマリーに追われるのは辛い。背後から思わぬ一撃を喰らう危険性がある。地道が一番だ。
『ちょこまかと逃げ回ってるんじゃないわよ! 情けないと思わないの!?』
マリーは挑発を繰り返すばかりで、進の狙いには全く気付いていなかった。気付いたとしても時間稼ぎをしようなどとは考えないだろう。マリーの目的は進を一刻も早く地獄に送ることであり、イカルス博士を助けることではない。
もう少しだ。この区画を抜ければ、木星級重力炉に到達する。進は最後の壁を破り、愕然とした。
目の前の巨大な円形が木星級重力炉だ。その周りの広い空間に、四機の〈エヴォルノーヴァ〉が待ち構えていた。きっとイカルス博士の指示だろう。イカルス博士は未来を読み、進を倒すための伏兵を配置していたのだ。
『カガヤキ・ススム! どうやら詰みのようね! 神様へのお祈りを済ませなさい!』
勝ち誇ったマリーの声が響く。〈エヴォルノーヴァ〉たちは進にレールカノンの照準を合わせ、背後からはマリーが迫る。前に出ることも、後ろに退くこともできない。
マリーは勝利宣言する。
『あんたが信じているホムラ・ホッキョクセイは死んだわ! 一人寂しく、死になさい!』
「北極星は死んでなんかいない!」
進は蜂の巣にされることを覚悟の上で前に出る。たとえこの身が砕かれようとも、木星級重力炉に飛び込んで機能停止させてやる。進は出力を全開にして、〈プロトノーヴァ〉をいっそう加速させた。




