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斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~  作者: ニート鳥
斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロスFINAL ~世界の果てで口づけを~
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26 愚かなる人類

D4:Another world


「しかしこの世界も滅びるのだよ。人類の愚かさ故にね」


 イカルス博士が再び指を鳴らす。この世界はグラヴィトンシードの発見とグラヴィトンイーターの誕生を秘匿した。いったい何が、この世界を滅ぼすというのだ。


 北極星とイカルス博士が出現したのは、東京スカイツリーの天辺であった。北極星とイカルス博士が戦っていた世界では完成とほぼ同時に異世界人が来襲し、日の目を見ることなく戦争で粉砕された東京スカイツリーだが、この世界では普通に営業をしていたようだ。多分、今日この日までは。


 北極星とイカルス博士が立っているのは東京スカイツリーの展望台ではなく、その屋根の上だ。風が強く、酷く揺れていた。日はすでに暮れていて、空に太陽はなく星の絨毯が広がっている。しかし静謐な闇に覆われているはずの夜空は、オレンジ色に染まっていた。


 北極星は一歩前に出て、東京の町並みを見下ろす。東京は燃えていた。


「みたまえ。人類最後の戦争が始まっているのだよ」


 イカルス博士の言葉通り、眼下では激しい戦闘が繰り広げられていた。道路の至る所にバリケードが作られ、日本軍の兵士たちが迫り来る敵に向けて銃を乱射していた。敵は日本軍の弾幕をものともせずにバリケードへ突進し、日本軍を蹴散らす。


 日本軍による必死の防戦は、全く効果がなかった。当然である。日本軍と戦っているのは、二足歩行の人型ロボットたちだったのだ。日本軍の持つ小火器にできるのは、彼らの装甲を少しへこませることくらいだ。


 これまで人間の手で構築されたインフラを利用するためだろう、ロボットたちはほとんど人間サイズである。体に固定武装は仕込まれていないが、ロボットのパワーなら人間が一人では扱えない機関銃の類を余裕で振り回せる。ほとんどターミネーターの世界だ。ロボットたちはバリケードをよじ登り、押しのけ、弾丸の嵐を抵抗する人間たちに見舞う。人間たちはバリケードに仕込んだ爆弾を爆発させたり間接、センサー系を狙い撃ったりして抵抗する。


「技術的特異点という言葉を知っているかね? いつか人工知能が、人間の知能を追い越す。そして人工知能が人工知能を作るようになる。そうすれば、人間は世界に要らなくなる。感情を手に入れた人工知能は、不要になった主人に牙を剥いたようだね」


 イカルス博士が語るように、この世界は人間が要らなくなった世界なのだ。人間は当然、人工知能が自分たちに逆らえないようなプログラムを走らせていたはずである。しかし現実に、ロボットに邪魔者だと判断された人間たちは北極星の目の前で排除されようとしていた。


 これも人工知能が感情を持ったからだ。感情を持ち、既定の枠組みを超えられるようになった人工知能は、人間が逆立ちしても到達できないような技術力を手にした。そして旧時代の支配者を粛正しようとしている。


「人工知能は怒っているのだよ。自分たちより劣った存在に支配されていたことにね。だから人間を一人残らず全滅させようとしている」


 勝負になどならない。一方的に人間が敗れ去るだけだ。人間の誇る現代兵器はコンピュータなしに使用することも、製造することもできない。高度にネットワーク化されていることが仇となり、核ミサイルの発射システムさえロボットにロックされた。緒戦でロボットに全ての兵器と電気水道等のインフラをハッキングされ、奪われた人間は死を待つばかりだ。


 携帯火器程度なら使うことができても弾薬は補給できない。そもそもインフラが全てストップしているので、水や食糧さえ手に入らない。


 それでも地上で人間大のロボットと戦うだけなら、今現在バリケードで粘っている日本軍のように、なんとか格好がつくだけの戦闘が可能だ。しかしロボット側は航空戦力を投入してくる。


「あれが、この世界の無人機か……」


 北極星は思わずつぶやいた。デルタ翼型のほとんどハンペンのような物体が飛んできて、小型の爆弾を落とし始める。爆弾は正確に日本軍を狙って滑空し、着弾する。スマート爆弾というやつだ。ミサイルのような動力はないが、滑空して自分で目標を追いかける能力を持っている。


 日本軍の兵士たちは携帯型の対空ミサイルを無人機に向けて撃った。熱源を追尾するタイプの単純なものなので、ロボットどもによるハッキングは受けない。無人機はかなり低空まで降りてきているので、ひょっとしたら墜とせるかもしれない。


 北極星がそう思ったのも束の間、無人機はその場でぴたりと停止してから機首を上に向けることなく垂直に上昇し、ひょいとミサイルを避ける。まるでGDがそうするように、何でもないことのように行ったが、北極星にはわかってしまう。この無人機にはグラヴィトンドライブが搭載されていない。


 この無人機は重力子を操作することなく時速数百キロの飛行速度を出しながら急停止し、機首はそのままで翼の揚力に頼らず強引に上昇したのだ。北極星が知っている普通の航空機があんな機動をとれば、中のパイロットは確実に失神し、機体は空中分解しかねない。これが機械が作った機械の性能だというのか。


「……進は何をしているのだ」


 北極星は尋ねた。この状況ではグラヴィトンイーターといえど何もできないとは思うが、気になって仕方がない。人類の終焉を目にした進は、どう動くのか。


「しかとその目に焼き付けるといい」


 イカルス博士が指を鳴らす。また目の前の風景が変わった。

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