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斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~  作者: ニート鳥
斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロスFINAL ~世界の果てで口づけを~
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12 理由

 土浦基地に戻ると、出撃していた部隊は帰還していた。第306飛行隊は半数が戦闘不能になる大損害を受けた。精密爆撃で筑波の政府機能は麻痺し、市街地も流れ弾でかなりの被害が出ている。戦果は緒戦で撃墜した〈エヴォルノーヴァ〉一機のみ。お互いのダメージだけを比較すれば全く割に合わない。


 悪いニュースは続くもので、大坂政権に従わないマリアナ諸島のアメリカ軍が〈スコンクワークス〉に加勢したという情報が入っていた。また〈スコンクワークス〉の巨大空中戦艦〈ノアズ・アーク〉はハワイ沖から空に飛び立ち、筑波を目指しているとのことだ。こちらの世界に来て以来、初の飛行である。


 地下壕に逃れて無事だった政府首脳の動揺は大きく、会議では全面降伏を唱える者まで現れたという。〈スコンクワークス〉のジャブ一発で日本政府はノックアウト寸前だ。幸い陸軍が徹底抗戦を主張し、北極星もそれに乗っかって政府首脳を説得して、抗戦を続けることになった。しかし次に決定的な敗北を喫すれば、日本政府は降伏に大きく傾くだろう。北極星はもう負けられない。



 この余裕がない状況の中でも、進が民間人ともめたという事実は北極星の耳に入っていた。〈プロトノーヴァ〉の修復が終わった後、北極星は使われていない会議室に進を呼び出し、マンツーマンで事情聴取する。


「進、墜落地点で民間人に囲まれたというのは本当か?」


「ああ、本当だ」


「……ならば民間人を銃撃した後、GDで踏みつぶそうとしたのも本当か?」


「そこまではしてない。でも、撃ったのは本当だ」


 民間人に危害を加えられそうになり、銃を撃ってGDで遁走した。進は正直に包み隠さず事情を話した。


「そういうことなら正当防衛だな……」


 全てを聞き終えた北極星は進を不問に処す。そしてさっさと次の作戦について話し始める。


「我々は硫黄島で〈スコンクワークス〉を迎え撃つ。これ以上の本土への攻撃は避けなければならぬのでな……!」


 硫黄島は日本軍の勢力が及ぶギリギリの地点である。外征用に作られていない日本軍は硫黄島に展開するだけで一苦労だろう。今回のようにイカルス博士が空間転移で本土への奇襲を行う可能性があるため、留守番部隊も残さなければならない。ただ戦うだけなら、全軍をもって本土で迎え撃つのが一番有利だ。


 しかし本土決戦を決行すれば一般市民への被害が大きい。追い風を得て西日本のアメリカ亡命政権も再び日本に牙を剥くかもしれない。政治家たちも降伏を検討せざるをえなくなる。あえて北極星は硫黄島での迎撃作戦を選ぶしかなかった。


「連れて行けるのは三個飛行隊だ。どうにかして私と貴様で〈ノアズ・アーク〉を沈める……! 私たちなら、やれるはずだ……!」



 一個飛行隊はおよそ二十機なので、連れて行くのは約六十機ということである。半年前に中国と戦ったときに比べても少ない。日本軍の外征能力と硫黄島飛行場の貧弱な設備、本土に残す留守番部隊の確保といった諸々の事情を鑑みれば、このくらいが限界なのだ。中国本土上空に侵攻したときと違い、アメリカ軍の支援もない。


 対する〈スコンクワークス〉は一騎当千の専用GDが十機残っている。空中戦艦〈ノアズ・アーク〉も戦える状態だ。これにマリアナ諸島の反大坂派アメリカ軍が加わる。いよいよピンチになれば、グラヴィトンイーターとして規格外の能力を持つイカルス博士も自ら出陣するだろう。


 日本軍との戦力差は歴然だ。死にに行くようなものである。なので進は言った。


「そんな作戦は拒否する」


 北極星は絶句する。飼い犬に手を噛まれた。そんな表情だ。


「……貴様、正気か? 筑波を守りながら勝つにはこうするしかない」


 そんなことはわかっている。だが、勝つ必要があるのか。


「降伏すればいいだろ。木星級重力炉さえ引き渡せば、あいつらは少なくとも攻撃を仕掛けてくることはないはずだ。俺たちが戦う理由なんてない」


 北極星は進の言葉に苛立ちを隠そうともせず眉間に皺を寄せ、理を説き始める。


「本気で言っているのか? 木星級重力炉を失えば、戦わずとも多くの死者が出る。そしてイカルス博士のわけのわからない改造で、人類は自由と尊厳を奪われる。そんなことを許しておけるはずがないであろう?」


 北極星の言うことは正しい。正義といっていいだろう。だが、進は正義の味方ではない。進は吐き捨てた。


「でも、俺たちには関係ないだろう? イカルス博士のせいで何人死のうが、俺もおまえも死なない。俺もおまえも、感情を奪われたりしないんだ」


「貴様は今まで何のために戦ってきたのだ? 守るためではなかったのか?」


 北極星は声に怒りを滲ませる。進は一歩も引かない。


「そうだ、守るためだ! でも俺にだって守る相手を選ぶ権利はある!」


「そんな権利はない! 貴様の所属と階級を言ってみろ!」


「俺は日本空軍准将、煌進だ! だけど俺は、後ろから撃たれながら戦うことなんてできない! 俺だけじゃなくて、おまえも撃たれるってことだからな!」


 軍人として責任と義務があることくらい、進にはわかっている。進に税金から月五十万円を超える給料が支払われているのは、こういうときのためだ。敵前逃亡など絶対に許されない。


 そこまでわかっていても、進は戦おうという気になれなかった。今までの戦いとは違うのだ。神風特攻隊のようなものである。十中八九、進と北極星は生きては帰れない。日本軍の勝ち筋が全く見えないのだ。



 筑波の重力炉を守りきって、太平洋上で〈スコンクワークス〉を撃破するというのが日本軍の勝利条件だろう。しかし生身でレールカノンを受け止めるような怪物、イカルス博士をどうやって仕留めるというのか。


 〈ノアズ・アーク〉さえ撃沈して木星級重力炉を使用不能にすれば、とりあえず歴史改編というイカルス博士の目的は阻止できる。幸いイカルス博士といえど〈ノアズ・アーク〉ほどに巨大で膨大なエネルギーを秘めた物体を空間跳躍させることはできないようだ。多分やれないことはないのだろうが、そのためには木星級重力炉を酷使してエネルギーを得なければならないのだろう。日本本土へと航行する最中に〈ノアズ・アーク〉撃沈のチャンスはある。


 しかしイカルス博士を野放しにしていれば、同じ事の繰り返すというのは想像に難くない。時間を巻き戻して破壊した〈ノアズ・アーク〉を再生する可能性さえある。イカルス博士に渡さないため、筑波の木星級重力炉を破壊しても同じだろう。進と北極星はイカルス博士を確実に殺さなければならないが、不可能だ。


 実力的にもそうだし、大坂のアメリカ亡命政権から得られた情報によると、イカルス博士は殺してもまた別の世界から自分を呼ぶ。実質、何度殺してもイカルス博士は甦るのだ。十一次元魂領域にあるイカルス博士の精神を破壊するしか手はないと思われるが、北極星でも次元を超えた攻撃はできない。今から超次元兵器を越智に作らせるとでもいうのか。



 たとえ勝ち目がなくても、美月やエレナが危ないのだったら進は戦った。しかし今回の場合、危ないのは進と北極星の命である。エレナは進のために死んだ。進のクラスメイトたちも進のせいで死んだ。美月はグラヴィトンイーターとなり、イカルス博士の歴史改編の影響から免れる。


 そして進が守るべき民衆たちは、進に石を投げた。進の家を燃やした。進を殺そうとした。北極星に危害を加えた。彼らのために、進が自分の命を危険に晒せと? 北極星に特攻をしろと? 冗談ではない。今、進が守るべきは北極星の命だ。


「少なくとも、木星級重力炉を差し出せば戦争で人が死ぬことはないはずだ……! あんなクズどものために、俺たちが無理して戦う必要はない。イカルス博士が正しいとは思わないが、あいつらだって正しくない。俺はあいつらよりおまえが大事だ。北極星、イカルス博士と戦うのをやめてくれ」


 北極星の顔に進への失望が浮かぶ。北極星は拳を振り上げるが、結局何もすることなく降ろした。


「たわけが……! 勝手にしろ! 私は世界をあまねく照らし、全てのみちしるべとなる……! 一人でも、私は最後まで戦う!」

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