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斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~  作者: ニート鳥
斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロスFINAL ~世界の果てで口づけを~
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8 炎

 気付けば進は自宅近くの公園にいた。話を終えたイカルス博士が、時空転移で進を送ったらしい。


「どうすりゃいいんだろうな……」


 進はつぶやく。イカルス博士の話が本当だとすれば、進は無理にイカルス博士と敵対する必要はない気がする。人類の肉体を勝手に置き換えてしまうなど倫理的には間違っているのだろうが、人を殺しまくっている進がそれについて何か言う資格はない。


 今の進には守るべきものがないのである。エレナは死んだ。学校の皆も死んだ。北極星と美月は改編に関係ない。残っているのは進に罵詈雑言を浴びせる連中ばかり。進は彼らのために戦わなければならないのか。


 そこまで考えて、進は自分の頬を叩く。


「俺は何考えてるんだ……! 命に貴賎はない。そうだろ……?」


 進は自分に言い聞かせるように独り言を連発する。イカルス博士は「実力行使に出る」と言っていた。何らかの目的をもって、日本に攻撃を仕掛ける気なのは確実だ。進は日本を守るために戦わなければ。


 進が自問自答で身悶えていると、サイレンの音が聞こえてきた。パトカーではなく、消防車のようだ。カンカンと騒がしい音を撒き散らしながら、消防車が住宅街に向かっていく。


「火事か? 物騒だな……」


 ともかく、イカルス博士に誘拐されていた件について北極星に報告しよう。携帯電話は持っているが、外で話すことではない。進は自宅に帰るため公園を出た。



 十分後、進は自宅の前で呆然と立ち尽くしていた。進の家が燃えている。


 嫌な予感はしていた。消防車は進の家の方に向かっていたのだ。しかしそれでも、まさか自分の家が燃えているとは思いたくない。急いで家を出たとはいえ、ガスの元栓は閉めていたし、暖房もちゃんと切った。火事の原因など進には思い当たらない。


 火はまだ家全体には広がっていない。玄関とその周囲の壁が燃えているだけで、奥の方はまだ無事だ。しかしすでに家の中も燃えていて、割れたガラスからもうもうと黒い煙が上がっている。丸焼けになるのも時間の問題だ。母から受け継いで、今まで守ってきた家が為す術もなく灰になっていく。


 まさか彼らが犯人ではないだろうが、騒がしかった反戦団体は嘘のように姿を消していた。マスコミだけがカメラを向けて、レポーターが興奮気味に実況している。進は見つかれば酷い目に遭うのがわかっているのでこの場を離れるべきだが、体が動かない。


 進の家に放水している数人の消防士たちが話している声が聞こえる。


「あ~、こりゃ放火だわ。庭から火が出てる。人はいないんだよな?」


「ええ。住人は少し前に出掛けて不在だそうです。消せそうだけど、どうします? 中途半端に消したら保健が出ませんよ」


「消してやりましょうよ! ここって例の逃亡軍人の家でしょ!? 僕の姪っ子がこいつのせいで……!」


「馬鹿野郎、俺たちは仕事でやってるんだぞ。人を見てやり方変えるんじゃねぇ」


「でも向こうが仕事してないじゃないですか! 軍人の癖に逃げるなんて……!」


「そうですねぇ……。俺らの税金で食わせてやってるんだから、そういうのはよくないですよねぇ」


 消防士たちは消火の方針についてのんびり議論を戦わせていた。どうやら進のために消火活動するのに気乗りしないらしい。


 進はやるせない気持ちになってくる。進が今まで命を賭けて戦ってきたのは何だったのだろう。べつに尊敬がほしいとは思っていなかった。守りたいものを守れればそれでいいと思っていた。でも、石を投げられてもいいとは思っていない。


 幸い、放火されたときは進の家は無人だった。しかし進がいればどうなっていたのか。美月がいればどうなっていたのか。


 もしかしたら、放火ぐらいで済んで進は助かっているのかもしれない。銃やら爆弾やらで襲撃される可能性だってあるのだ。仮に進だけならともかく、北極星や美月が狙われたら? いったい進は何と戦えばいいのだろう。いったい進は何を守ればいいのだろう。後ろから撃たれるなら、戦うことなどできはしない。


 呆然としている進は、物陰に引っ張り込まれる。進は慌てたが、目の前にいたのは北極星だった。


「落ち着け。基地に行くぞ」


 北極星は硬い表情で言う。進は混乱する頭で受け答えする。


「いや、でも俺がいないと後片付けが……」


「馬鹿者。貴様がいたら騒ぎが大きくなって片付けにならぬ。後で空軍のスタッフを派遣して処理させる。とにかくここを離れるぞ」


 北極星は進を路地裏に駐めていた地味なレンタカーに押し込み、さっさと現場を離脱する。



 進は車の中で落ち着きを取り戻し、イカルス博士に拉致されたことと、イカルス博士の目的を話した。運転席で北極星はうなずきながら進の話を聞く。


「なるほど。私がジュダから訊き出した話と全く同じだな。しかし実力行使か……。筑波の木星級重力炉を狙うのであろうな」


 北極星はジュダからの話で情報で進の情報を補完する。世界の改編、歴史の改編にはもう一つ木星級重力炉が必要で、イカルス博士が手っ取り早く手に入れるには筑波から奪取するしかない。


「実力行使って、そういうことか……」


「なので我々は、木星級重力炉を守って〈スコンクワークス〉と戦う」


 進は納得する。進は〈スコンクワークス〉を倒さなければならない。木星級重力炉を失えば、日本は崩壊する。


(そうだ……。それでいいんだ……)


 放火なんてどこかの阿呆が一人でやったことだ。これを理由に戦うことを放棄してはいけない。

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