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斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~  作者: ニート鳥
斉天のヴォルケノーヴァ・ノーザンクロス ~異世界からの侵略者~
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7 襲撃

 天久保は町の中心にある地区だった。進の家からは歩いて三十分ちょっとといったところである。大学が近いため学生用のアパートが多く、住人の入れ替わりが激しいので安心して拠点が置ける。


 ちなみに北極星は進の部屋から失敬したポッキー三箱を、移動中にぺろりと平らげていた。何も突っ込むまい。


 事務所には稲葉さんしかいなかった。他のメンバーには退席してもらったとのことだ。北極星は事務所に入るなり笑って言った。


「久しぶりだな、稲葉大佐」


 稲葉さんは敬礼する。


「焔元帥、お元気そうで何よりです」


「そんなにしゃちほこばるな。貴様と私の仲だろう」


 稲葉さんの敬礼に、北極星は笑って言った。北極星の言葉を受けて稲葉さんは敬礼を解き、頬を緩める。


 当然のことながら稲葉さんも先の大戦に参加していた。ある意味で稲葉さんは「女帝(エンプレス)」焔北極星より有名な人物だったりもする。北極星が本物だとするなら、面識があっても不思議ではない。


「知り合いですか?」


 小声で進は稲葉さん尋ねた。


「ああ、前の戦争の時にね」


 稲葉さんは軽くうなずき、北極星は稲葉さんに質問する。


「単刀直入に尋ねよう。〈エヴォルノーヴァ〉の指輪はどうなった?」


「おそらく東京だ」


 稲葉さんは北極星に事情を説明する。北極星は腕組みして稲葉さんの話を聞き、渋い顔をする。


「……それはやっかいなことになったな」


 稲葉さんも重々しくうなずいた。


「よりによって東京だからな。秋山が言うことを聞いてくれれば助かるんだが……」


 北極星は宣言した。


「指輪を失うわけにはいかぬ。私の手で見つけ出す。稲葉、東京を探る準備をしておいてくれ」


「了解だ。明後日には東京に乗り込めるよう手配しておこう」


 稲葉さんは穏やかな笑みを浮かべ、言った。



 用の無くなった進は帰宅するのだが、どういうわけか北極星がついてきていた。進は困惑の表情でチラチラと北極星を見るが、北極星は堂々としたものだ。ニヤニヤ笑いながら進に言う。


「どうした? 貴様はレディをエスコートしているのだぞ? もっと喜んで、シャキッとせぬか」


 こういう場合、成恵ならろくでもないこと考えている。歩きながら、思い切って進は訊いてみることにした。


「なぁ、なんでついてきてるんだ?」


 北極星は即答した。


「決まっているであろう。貴様が自分の身を自分で守れないからだ」


「……俺だって指輪があればわかんないぜ」


 苦し紛れに進は言った。グラヴィトンシードを持つ進は、指輪の補助があればグラヴィトンイーターに進化し、グラヴィトンイーター専用GDを使える可能性がある。普通のGDより数段上の性能を誇る専用GDがあれば、どんな敵でも怖くはないはずだ。


「しかし貴様は〈ヴォルケノーヴァ〉を使えなかったのだろう?」


 北極星の指摘に、進は渋々うなずき、訊き返す。


「……まぁな。しかしなんで俺は〈ヴォルケノーヴァ〉を使えなかったんだ? 俺の適性が低いのか?」


 理論上、まだ成長しきっていない進のグラヴィトンシードの出力でも〈ヴォルケノーヴァ〉を起動させるくらいはできるはずだった。進は被験者になったきり放置されているので、いまいち指輪のことがわかっていないのだが、他の条件があるのだろうか。


 進の疑問に北極星は答えた。


「適性の問題ではない。〈ヴォルケノーヴァ〉が貴様を認めなかったというだけだ」


 〈ヴォルケノーヴァ〉をはじめとするグラヴィトンイーター専用GD、ノーヴァシリーズにはグラヴィトンイーターの出力制御や進化の補助のために、グラヴィトンシードが積まれている。この機体に搭載されたグラヴィトンシードが、ノーヴァシリーズを扱いづらい機体としてしまった。機体に積まれたコンピュータが脳のような働きをしてグラヴィトンシードと結びつき、ノーヴァシリーズは非常に曖昧ながら自我を持ってしまったのだ。


「ノーヴァシリーズは乗り手を選ぶ……。機体に認められなければ、ノーヴァシリーズを動かすことはできぬ」


 北極星のこの言葉こそが、グラヴィトンイーターがなかなか増えない理由だった。機体の補助なしにグラヴィトンイーターに進化するのは難しい。しかし、機体がなかなか使い手を認めず、グラヴィトンイーターに進化できない。


 ちなみに専用GDが普段は別の次元に隠れているのも、グラヴィトンシードの保護のためだ。1G環境は人間と融合していないグラヴィトンシードにとってストレスが大きいので、普段は別の世界に退避している。主に呼び出されたときだけ、機体と指輪の間で固定されたワームホールを通ってこちらの世界に現れるというわけだ。グラヴィトンイーターと機体の両方にグラヴィトンシードがあるからこそできる荒技である。


 条件を満たさずに機体を呼び出すためにはハワイの異世界人が保有する大型の設備が必要で、しかも呼び出せたところで動いてはくれないのだった。


「〈ヴォルケノーヴァ〉の場合、機体を操る条件は『常に頂点を目指す者』だ。貴様はどうやら条件を満たせなかったようだな……」


 北極星の講釈を聞き、進は納得した。進にはそこまで大きな野望や使命感はない。よくも悪くもこれまでの人生で厳しい現実に打ちのめされ、自分の限界を知っている。進はいつだって、ただ必死に目の前の困難と戦っているだけだ。


「じゃあ他の機体なら、俺にも使えるかもしれないってことか?」


 進は尋ね、北極星は苦笑いして答えた。


「そういうことになるが、肝心の機体があまりないのでな」


 日本にあるノーヴァシリーズは北極星の〈ヴォルケノーヴァ〉、行方不明の〈エヴォルノーヴァ〉の二機以外には、北極星の予備機兼パーツ取り用の試験機が一機あるだけに過ぎない。試験機の方も数人のグラヴィトンシード保有者に試させてみたが呼び出しができず、結局〈ヴォルケノーヴァ〉の予備として市内北部の木星級重力炉施設内に放置されているのだった。


「じゃあその機体を俺が試せば……!」


 少しウキウキした声で進は言うが、北極星は否定した。


「残念ながら試験機はしばらく封印が決まった。〈ヴォルケノーヴァ〉のパーツの在庫が少なくなっているのでな」


 北極星が直接ハワイまで〈ヴォルケノーヴァ〉を取りに行かなかったのも予備機があるからだ。もしアメリカ軍が筑波まで攻め上ってくるようなことがあれば、北極星が予備機で戦う予定だった。


 〈ヴォルケノーヴァ〉の予備パーツを取り寄せずに、特務飛行隊を使って指輪だけ強引に輸送したのも筑波に予備機があるからこそだ。パーツの在庫が尽きても予備機から部品取りすれば〈ヴォルケノーヴァ〉を稼働させることができる。今頃予備パーツは船に揺られてゆっくりと日本を目指しているだろう。全てを特急便で運ぶキャパは特務飛行隊になかった。


「そうか……。世の中は厳しいな」


 進は肩を落とし、北極星は笑って言った。


「日本にはもう一機、機体が残っているぞ」


「マジか!? どこにあるんだ!?」


 慌てて訊く進に、北極星は答えた。


「ファウストの持つ〈ノーヴァ・フィックス〉だ。やつから指輪を奪えば使えるぞ」


「やっぱりあいつはグラヴィトンイーターだったのか……」


 ファウストというのは進の前に現れた、悪魔を思わせる黒の仮面をかぶった男のことだろう。彼のGD、〈ノーヴァ・フィックス〉は量産機を優に超える機動性を有していた。あれだけの性能はグラヴィトンイーター専用GDでなければありえないだろう。


「しかし奪うつったって敵国の軍人だろ? 俺は二度と戦いたくないね」


 機体性能も相手が遙かに上だったが、それ以上に操縦技術で進はファウストに勝てる気がしなかった。極めて機動性の高いGD同士の戦闘で、GDの装甲が薄いところを正確に狙うなど進には無理だ。


「ふふっ、貴様はそう思っていても相手はそうではないかもしれぬぞ」


「どういうことだよ……」


 進は答えを聞くことなく北極星に突き飛ばされ、当人は壁に張り付いた。ほぼ同時に銃声が響く。今まさに、相手からの襲撃を受けたのだ。


 進と北極星を守るように〈ヴォルケノーヴァ〉が空間を破って現れ、道路上に降り立つ。指輪をはめていれば搭乗していなくてもある程度は〈ヴォルケノーヴァ〉を操れるのだ。


「世界をあまねく照らし、全てのみちしるべとなる……!」


 北極星は天頂を指さし、それから進に言った。


「さっさと逃げろ……!」


 空には数機の〈バイパー〉を引き連れた青紫色のGD〈ノーヴァ・フィックス〉が飛んできていた。どういう理由かファウストがやってきたのだ。〈ヴォルケノーヴァ〉の向こうでは数人が銃を構え、進を狙っている。北極星は〈ヴォルケノーヴァ〉を動かす。


「私の前に出てきたのが不幸だったな……!」


 〈ヴォルケノーヴァ〉はしゃがみこんで右太ももにマウントされた30ミリハンドバルカンを放ち、地面を掃射した。ハンドバルカンの名前の通り、普通はマニピュレーターを介して使用するものだが、ハードポイントに装着したままでも使用できる。左太ももの72ミリショットカノンも同様である。


 耳障りな轟音とともに地面のアスファルトが砕けて飛び散り、砂煙が噴き上がって視界を遮った。奥に止まっていた乗用車から火柱が上がり、爆発する。周囲の家屋の窓ガラスが割れ、ブロック塀は粉砕されて崩れた。


 進は走り出し、北極星は〈ヴォルケノーヴァ〉に乗り込む。〈ヴォルケノーヴァ〉が離陸するまでの時間は、進は追っ手が見えないところまで逃げるには十分だった。

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