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第18-2話 宴を楽しむ人々

 そしてその日の夕方。


 主賓であるアデライードを迎え、神殿騎士団の団長フェリクスとフォルセール騎士団の団長ベルナール、そしてそれぞれの騎士団の隊長クラスが宴の席に並ぶ。


 だが王国教会の司祭ダリウスだけは、ぜいを凝らした宴は聖職者には望ましくないと言って辞退し、エルザと内密の話があると言って教会へ出かけていた。


 かと言って料理を残すのはもったいない、と言うことで。



――おお――



 宴に列席した人々の口から、思わず感嘆の声が漏れる。


 その視線の先には、小麦色の肌を純白のドレスで包んだエステルが立っていた。


 結い上げた黒髪を銀の髪飾りで留め、そこに混じる神秘的な紫色の髪。


 それはまさに森の妖精、エルフの名に恥じぬ美しさだった。



「あの~、本当によろしいのでしょうか~……私のような者が王女様と一緒の席に並ぶなど~、何と恐れ多い……」


 手を引くジュリエンヌに、戸惑いながら質問をするエステル。


 宴の準備で駆けつけたはずのエステルは、いつの間にか宴の華へ変わっていた。



 何故かと言うと、宴の準備がある程度終わった後、食事が余りそうなので食べて欲しいと頼まれた彼女は、疑いもせず移動した先の部屋で、いきなりジュリエンヌにドレスを押し付けられたのだ。


 最初は断っていたエステルも、マイペースなジュリエンヌの重圧に耐えきれず、気づけばドレスに袖を通し、髪を結い上げられていた。


 それでもやはり気が引けるのか、広間に入って発したのが先ほどの台詞である。


「大丈夫! エステルちゃん可愛い!」


 そう言いながらビシィッ! と親指を立ててエステルの手を引っ張るのは、ドレスを着させた張本人であるジュリエンヌ。



 そしてエステルは、その後ろから恥ずかし気に着いていき、用意された席に座る。


 自分の子供のような外見のジュリエンヌに引っ張られていく彼女には、その姿からは想像も出来ない来歴があった。



「それにしても、エステル夫人って本当に山賊の首領だったのかな? 父上やベルナール団長が言うのだから間違いないんだろうけど、あの喋り方と、艶姿を見る限りでは、とてもそうは思えないよ」


 少々変わった経緯を経た後、エンツォと結婚したエステル。


 その詳細をエレーヌに聞こうとしたこともあったが、あまり込み入った話を好まない、とエレーヌに断られてから詳しく聞いたことは無い。


 しかしこうしてエステルの美しい姿を見ると、やはり聞いてみたくなるのが人のさがと言うものだろう。



 そしてその答えは、図らずも彼の隣に着き従う執事も持っていた。



「あのお二人の育った境遇は良く知りませんが、この近くに辿り着いた時にはかなり痩せ細っていたそうです」


「誰から聞いたの?」


 そんな時、ベルトラムが話し始めた内容を聞き、彼は即座に食いついていた。


「お二人を拾った当時の山賊の頭、料理長からです」 


「え? 先祖代々ここの料理長をやってるって聞いてたけど、元は山賊だったの?」


 手をあごにあて、クスッと笑うベルトラム。


 彼が聞いた話によれば、交通の要所にあるこのフォルセールの周囲には、以前は山賊のたぐいが何組か存在していたらしい。


 そんな時にベルナールがこの地の騎士団団長に就任し、そして真っ先に手をつけたのが山賊の討伐。


 表立った争い、裏工作などを経て次々と山賊が討伐、解散していく中、最後まで抵抗したのがエステル、エレーヌが首領を務めていたその集団だったと。


「お二人の力は凄まじいもので、討伐をするには戦力がまるで足りなかった為、フィリップ様は交渉によって懐柔策をとっていたそうです」


「どんな条件を出したんだろう」


「食うための最小限の金品を奪うのであれば見逃しもするが、それ以上を欲するのであれば王都騎士団に助力を願い、徹底的に殲滅をする、と」


「それは聞いた事がある。小さい頃は全然納得できなかったけど、今なら少しは判る……やっぱり、人が死ぬのはいやだよ」


 アルバトールがそう言った後、場に少しの間だけ沈黙が流れる。


「そうでございますね。ですがベルナール殿はその間にも山賊たちに様々な離間の策を仕掛け、山賊たちが疑心暗鬼になっているうちに各個撃破していき、ついにエステル殿たちが居たグループを討伐する訳ですが」


「うん」


「それでも最初のうちは、山賊たちに郊外の森を切り拓かせ、開墾権を与えて懐柔すると主張するフィリップ様と、山賊を殲滅してその末路を全土に知らしめ、後顧の憂いを断つ、と主張されるベルナール殿との間で随分とやりあったそうです」


(……あれ?)


「まぁ昔はあのお二方も血の気が多かった、と言う事ですな……どうかなさいましたか? アルバ様」


「いや、何でもないよ」


 ベルトラムに軽く手を振り、アルバトールは話の続きを促す。


(礼拝堂の畑はドワーフが耕していた……森を切り開いたのが元山賊だったとすれば、何か裏取引でもあったんだろうか? そもそも近くに大規模な集落があるわけでもないのに、どうして礼拝堂が?)


 アルバトールは浮かんだ疑念を振り払い、怪訝そうに見るベルトラムへ笑いかけた。


「結局は二つの案の折衝せっしょうを取り、懐柔策に乗らずに最後まで残った者たちを討伐する事にしたわけです」


「なるほどね」


「その最後まで残った一人がエステル殿だった訳ですが」


「うん」


「その美しいお姿を見て、討伐隊の一人だったエンツォ殿が一目ぼれしまして」


「うん?」


「エンツォ殿、その場で山賊側に寝返りまして」


「……うん」


「弱ったベルナール殿が、エルザ司祭に助力を願って一気に降参させたそうです」


「便利だねエルザ司祭って」


 二人でうんうんと頷いた後、話は続けられる。


「一応、エルザ司祭も助力する条件が殺生はしないとの事だったらしく、あっさりと全員を気絶させて終了したとか」


「で、どうなったの?」


「エステル殿の身柄は、再び騎士団に帰参したエンツォ殿が見張る、と言う名目で結婚し、今のようなラブラブ生活に。エレーヌ殿はその剣の腕を見込まれて騎士団に入隊したそうです」


「なるほどね。しかし料理長まで山賊だったとは知らなかったよ。父上は毒殺とか恐れなかったんだろうか……」


「その点については、先代の料理長の息子と言うこともあったでしょう」


 そろそろ話は終わりとばかりに、ベルトラムは広間の方へ顔を向ける。


「それと、エンツォ殿が未だに隊長になっていないのは魔術が苦手なことに加え、女性に目が眩んで寝返ったことを理由に本人が固辞しているからだとか」


「あの人も自由人だからね。隊長と言う身分に縛られたくないのかも」


 その答えに、ベルトラムは軽く相槌をうつ。


「そうかも知れませんね。何にせよ、山賊、騎士団の双方からかなりの数の死者が出てもおかしくなかった状況から、エンツォ殿が裏切っただけで犠牲者を出さずに終結した、という結果に私は面白さを感じずにはいられません」


 そしてベルトラムは一礼をする。


「さて、主賓であるアルバ様が行かなくては宴が始まりません。どうぞ御入場を」


 ベルトラムが開けた扉の向こうから差し込む光。


 アルバトールがその中に消えていった後に宴は始まり、主催と主賓による挨拶の後に粛々と進行していった。



 しばらくの時を経て。


 手狭な城の手狭な会場ゆえに、酒や料理が配られ始めると次第に人は庭へ移り、宴会のもう一つの目的である、内密の話を繰り広げ始める。



「さてフェリクス。卿から話があると聞いたのだが、その内容をそろそろ教えてもらいたいな」


「判っておいででしょうに、お人が悪い。そろそろ貴方に王都に戻って頂いて、王都騎士団長に就任して頂きたいのですよ」


 ベルナール、フェリクス。


 この二人の騎士団長も、それが目的のようであった。


「私の見立てでは、今回の天魔大戦が終われば、数十~数百年は平和が訪れる事になるでしょう。となれば、その間に他国との戦が始まってもおかしくありません」


「そうかもしれんな」


 いずれ訪れるであろう国の危機。


 それを聞いても平静なベルナールを見て、フェリクスはいささかの苛立ちを感じながら次の言葉を継いだ。


「いくら天魔大戦の間は他国から支援が受けられるといっても、人的資源はすぐには埋まらず、荒廃した土地を肥やすのに必要な金銭にも限度があります」


「つまり?」


「今のままでは、遠からず聖テイレシアは攻め滅ぼされることになるでしょう」


 フェリクスが口にした重大な案件に、ベルナールはようやく眉を少し動かす。


「私はもう若くないし、年齢的にも能力的にも君の方が相応しいだろう。聖剣デュランダルの使い手フェリクスよ」


 その答えに対してフェリクスは眉を寄せ、眉間に深いしわを作っていた。


「よくもまぁ抜け抜けと。最年少記録の保持者に言われても、少しも嬉しくありませんよ。なぜ手の届くところまで来ていた王都騎士団団長の座を捨て、フォルセールに着任されたのです?」


「エルザ司祭がいるからだよ。あの方しか扱えないと言う、天使の角笛の音色に魅入られたのさ」


「そんなことで誤魔化されませんよ。フィリップ候の直接の要請を受けたとは聞きましたが、それが着任する理由になるとは信じられません」


「……ふむ、君だけには話しておいて構わないか……実は陛下の密命を受けたんだ。その内容は話せないがね」


「なんと」


 知将と名高いベルナールであれば、さもあらん。


 実直なフェリクスがそう考えた時。 


「と言う理由であれば問題ないだろう。どちらにしろ私はまだ王都へ戻る気はないし、団長の後に続く地位であろう将軍職への興味もない。君の言いたい事は判ったが、これ以上の話をするつもりは私には無いよ」


 と続いたベルナールの言葉に不服そうな顔をするフェリクスに向かい、ベルナールは笑いながら目をすぼめた。


「それより、こちらにも聞きたい事がある。アデライード姫を送り届けるためだけの護衛の中に、なぜ君がいるのだフェリクス」

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