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第78話 接触

「では行くとしようか」


 宿泊する部屋に荷物を置き、身軽になった体でアルバトールたちはテイレシアの城下町に偵察に出る。


 しかし分別のある大人のベルナールやアルバトールが、おのぼりさんのように周りをきょろきょろと見渡すような目立つ行動をする訳にはいかず、病気であると説明する為に深くフードを被って視線を遮っているエレーヌに至っては論外。


 と言う訳で。


 街中ではしゃいでも周りに不思議に思われない子供で、その実は旅慣れて聡いリュファスとロザリーの二人に主に動き回らせ、他の三人はその面倒を見ているといった形で情報収集を行っていく。


 だが変わり果てた王城に対して街中は平和……と言うより、彼らの目には平凡な街並みとして写っていた。



「ところで、レナ殿たちは大丈夫なのでしょうか」


 アルバトールは露店で働く女性が、やや熱を込めた視線とともにリンゴを差し出してくる姿を見て、やんわりと断りを入れた後にベルナールへ何気なく質問をする。


「まぁ心配はあるまい。しかしあのような変装の方法があったとは。流石にあの方法は私も思いつかなかった」


「だんちょー、あれは変装と言うより変身って言うと思うぜー」



 討伐隊は、日頃より彼らが移動する際の隠れ蓑として旅芸人をその手段としており、実際に芸人の技も殆どの者が身に付けている。


 王都に入り込む時にもその手段を使った討伐隊は、公演の宣伝をする為に町中央の広場に行っており、レナ、ナターシャ、マティオの三人はその手伝いをしていた。



「しかし、あの全身を包む人形のようなものは……視界は遮られるし、中は暑いし、ナターシャ殿なぞ周囲を子供に囲まれて叩かれたり蹴られたりしていましたよ。私が見たところ、彼女もいつ暴発するか判らない性格のようですが」


「むしろ我々の周囲で暴発しない女性の方が少数派だろう。姫やアリアですら、最近は君が引き起こす問題のせいで噴火しまくりではないか」


「汗顔の至りです」


 先ほど宣伝しているその広場の様子を彼らは見に行ったのだが、なかなかに盛況で全身を着ぐるみで包んだ三人も、中の人が見えない為に傍から見る限りでは安全にやっているようではあった。


「と言う訳で、宣伝が終わった後は暴発に慣れている君が彼女たちの対処をしてくれ」


「ヴエェェェエエエ!?」


 いきなりの無茶振りに変な声を出してしまったアルバトールに、周囲が奇異の目を向けていることに気付いた彼は慌てて下を向く。


「そう言えば小腹が減ったな。適当な場所で何か口にするか」


 落ち着いた態度で、周囲の人にようやく聞こえる声量でベルナール(とは見えない恰幅のいい中年)が食事の提案をし、程なく彼らはちょっとしたテラスを店先に開いている、プロロコープと言う名前のカフェ店へ入っていった。



「コーヒーを三つとレモネードを二つ。何か軽い食事でもあればそっちも頼む」


 昼を過ぎて日が中天に差しかかろうとしている時刻でもあり、陽の光を楽しめるテラスの方に客はいたものの、カフェの中は彼ら以外の客はいない。


 そんな中、アルバトールは注文を書いていく店員がメイド服を着ているのを見てアリアを思い出し、次いでアデライードがアリアのメイド服を興味深そうに見て、それを着て仕事をしてみたいと言い出したことを思い出す。


(フォルセールでは公務が無いし、他の貴族たちの視線を気にせずに済むから、どんどんお転婆になっていくな)


 くすくすと笑い始める隣では、彼の横顔を見たエレーヌが何となく口を尖らせ、リュファスとロザリーは初めて入るカフェテラスと、初めて飲むレモネードの味に目を丸くし、二人で顔を見合わせて笑顔となる。


 その内にコーヒーが持ってこられ、鼻腔を包む香ばしい薫りと、舌を若干刺すような苦味が午後のまどろみを消し去っていった。



「ところでマスター、テイレシアは魔族に占領されたと聞いてたんだが、見たところ以前とそれほど違わないように見えるぞ。一体どうなっているんだい?」


 飲食をして落ち着いたといった様子を見せた後、いつもより砕けた調子でベルナールがカウンター越しに店の主人に質問をする。


「あんた、どこから来たんだ? 魔物に占領されたと聞いて来るなんざ、よっぽどの命知らずだな」


「レオディール領からさ。俺は旅芸人の座で興行を取り仕切らせてもらってる」


 値踏みをするようにカフェの主人はベルナールを見つめると、特に周囲を警戒することもなく、占領から今までの経緯を説明する。


「ってことは、今はそれほど危険も無い。それどころかリシャール王が治めていた頃より治安や生活が安定しているってことかい?」


 主人は渋い顔をして頷く。


 以前より治安は良い、生活も安定している。



 しかし住人の立場からしてみれば万々歳と言った所であるこの状況を、彼は歓迎している様子が無かった。



「裏が見えないんだ。裏付けと言ったほうが正しいか。結果だけが見えて、経緯がまるで見えないのさ奴らの統治は。逮捕者が出ないのに治安は良くなり、隊商が殆ど出入りしないのに商品が確保され、経済も安定している。これで安心できる方がおかしい」


「なるほどなあ。すべてを動かしてる見えない手に、いつ見離されるか判ったもんじゃないって感じか。ところで奴らの統治って言ってるが、城のお偉いさん方は何もしてないのかい? そもそも生きてるのかい?」


「ああ、大将軍だったフェルナンは生きて自警団の頭に収まってるが、魔物の傀儡になっちまったってもっぱらの評判だ。他の連中は姿を見せなくなっちまった」


 カフェの主人の言葉に、ベルナールは少し顔を曇らせて質問をする。


「結構な気骨の持ち主と聞いていたフェルナンが?」


「ハッ! 最近じゃあ自警団の建物に、しょっちゅう魔族の主だったものが仲良く出入りする始末さ。色々と怒鳴り散らして誤魔化してはいるが、噂では中でこっそりと悪企みをしてるって話だ!」


 カフェの主人は呆れたように両手を上げる。


「魔物に対する反抗心を見せた奴は片っ端から懲罰喰らって、それでも立ち上がろうとした主格は処刑されちまったらしい。頼みの綱だった肝心のフォルセールは動く気配がまったく無いし、今の俺たちにとっての希望は、今度の天魔大戦で天使になったアルバトールってお方だけさ……ん? どうした兄ちゃん」


「い、いえ、何も」


 急に自分の話題を出されたアルバトールはコーヒーを噴き出してしまい、隣にいたエレーヌがそれを見て差し出してくれたハンカチで顔を拭うが、洗って返すと言う彼を無視し、エレーヌはハンカチを自分の懐に直し込む。


「こいつは座の護衛役なんだが、どうにも奇行が目だってな。先ほども通りで奇声を発して俺たちを困らせるし、かと言って新しい護衛役を見つけようにも、困ったことにこいつがなかなかに腕が立つから代わりが見つからないのさ」


「ほー、そうかい」


 ベルナールはニヤニヤと笑みを浮かべつつ親指でアルバトールを指差すと、不思議そうな顔をする主人へ再び質問をする。


「ところでそのアルバトールって天使様については初耳なんだが、一体どんな噂が流れてるんだ?」


「そうだなぁ、ちょっと信じられない話なんだが、人から天使に転生したばかりなのに堕天使のジョーカーって奴を二度も倒したばかりか、魔族のトップ連中の一人である闇の風のバアル=ゼブルすら退けちまったって話だ。そういや、あんたら旅芸人だって言ってたな。興行の許可は得たのかい?」


「いや、届けようにもどこに行けばいいのか見当がつかないのさ。城に行こうにも取って食われそうだし」


 ベルナールの発した気弱な答えに、カフェの主人は笑いながら違いねえ、と返し、自警団の詰所の場所を教えてくれる。


「フェルナンは腑抜けになっちまったようだが、俺たちの不平や不満は一応聞いてくれてる。行って聞いてみたらどうだ? フェルナン本人はどうだか知らんが、副官の二人はなかなか優秀なようだぞ」


「すまないな、それじゃあ行ってみるよ」


 ベルナールは席を立ち、少し多めの勘定を主人に渡して礼を言うと、教えられた詰所の場所へと彼らは向かった。



「どうかね、英雄として民衆に噂されている気分は」


 その問いに対し、無言で下を向いて歩いているアルバトールの周りを嬉しそうにリュファスとロザリーがグルグルと駆け回り、エレーヌは声を殺して笑い声を上げる。


「さて、思ったより簡単にフェルナン殿と接触が出来そうだな。今回はあまり欲張るつもりではなかったのだが……待て、向こうから変な連中が来る」



 通りを塞いでいた人々が、次々と両脇へ移動して道を開ける。


 その向こうからは、白い布を巻きつけたような服であるキトンを着て、長い黒髪をつむじの辺りで束ねてそのまま背中に流している、美しい女性を先頭とした魔物たちが歩いてきていた。



「我々も道を開けるか」


 周囲の人に習い、ベルナールたちも道の脇へ避けるが、周囲の民衆にまるで気を向けずにこちらに向かってきていたはずの女性は、不意にアルバトールの後ろに回り込んで立ち止まると、その背中を見つめて紅を塗ったなまめかしい口を開く。


[なかなかに強い力と美しい髪を持っているな、件の天使も金髪らしいが]


「な……何か御用でしょうか」


[お前には聞いていない。ゆっくりとこちらを向いてもらおうか、金髪の男よ]


 恐る恐ると言った感じで伺いをたてるベルナールを無視し、黒髪の女性はアルバトールへ声をかける。


[ふむ、いい眼をしている]


 怯えた表情を作って振り向いたはずのアルバトールの顔を見た瞬間、女性は不敵な笑みを浮かべ、その顎を指で掬い上げた。


[アナト殿、伝え聞いた天使の風貌とはまるで違うようですが]


[判っているよアンドラス]


 アナトと呼ばれた黒髪の女性は、彼女の後ろから進言してくる鳥の頭を持った魔物へ振り向いてそう答える。


[兄上を倒した天使かどうかは関係なく、私個人がこやつに興味が湧いただけだ。男よ、名は何という]


 アナトの迫力と色気に圧倒され、素直に名前(偽名)を言うアルバトール。


[アルドか、覚えておこう。見ない顔だがここには何をしにきたのだ?]


「アナト様……とお呼びしてもよろしいでしょうか。それについては座を取り仕切っている私の方から説明を……」


 ベルナールから説明を聞き、エレーヌの後ろに隠れて様子を窺っているリュファスとロザリーに笑顔を向けた後、アナトは詰所に行くように助言をする。


[機会があればまた会おう、アルドよ]


 アナトはそう言いつつアルバトールの首に手を這わせ、背中まで伸びたままの彼の髪の毛に手を差し入れてゆっくりと髪をといた後、いきなり抱きついて口付けを交わし、獲物を仕留めた肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべた。



[気に入ったよ、私のいきなりの口付けにもまるで動揺しないその鋼の精神、内に秘めた力、どれをとっても合格だ。路頭に迷うことがあれば、いつでも私を訪ねてくるといい]



 そう言ってアナトは去って行く。


 ベルナールは固まってしまったアルバトールと、今にもアナトを追いかけて走り出しそうなエレーヌの二人の手を取り、その後ろではやし立てる二人の子供を連れて詰所へと向かった。



[アナト殿、先ほどの金髪の男もそうですが、後ろに控えていた女もかなりの力の持ち主のようでしたぞ。見張りをつけますか?]


[余計な労力を使う必要もあるまい。あれほどの力の持ち主であれば、どこにいてもそれと知れよう。ゴミ共を片付ける低級魔物どもに一日の報告ついでに聞けば済むことだ。我らは奴らのことをジョーカーに報告して対応策を考えさせる。それで終了だ]


[ははっ]


[どちらにしても今から詰所に行けば、嫌でもヤツと顔を合わせることになるのだがな]


 アナトは意地の悪い笑みを浮かべると、アンドラスと共に町の警らへ戻っていった。



「……何やら賑やかだな」


 ベルナールたちがカフェの主人に教えてもらった詰所の場所に着くと、そこからは威勢のいい声が中から響いてきていた。


 彼らは何事かといぶかしがるが、衛兵にいつものことと説明され、それを聞いてベルナールが腰を低くし、目線を下げて卑屈な態度をとりながら通行章を見せる。


 程なく通行の許可を得られると、彼らは次々に中に入っていった。



(……嫌な気配だな)


 アルバトールは建物に入った途端、天使の眼ではなく虫の知らせ、いわゆる第六感で不穏な気配を感じとるが、案内の衛兵の前で臨戦態勢をとるわけにもいかない。


 仕方なくそのまま中に入り、衛兵が副官と呼ぶ女性にフェルナンへの取次ぎを頼むと、彼らは待合用の部屋で時を過ごす。


[お待たせしました、ちょっと変な魔……人たちが三人ほど居ますが、置物と思って気にしないでください]


 にこにこと笑いながら部屋の前に案内した白い髪の女性が不穏なことを口走るが、気にせずに彼らは中に入っていった。



(!?)



 部屋の中に入った彼らの眼に入ったのは、正面に置かれた大きい机の向こうで不機嫌そうな顔をして座っているフェルナン、そしてその脇に控える見慣れぬ長身の男性。


 だが先客が居ると聞いて部屋の中の様子を探っていたアルバトールだけは、ちょっと変な人たち……いや、魔族がそこにいることに気付く。


 そこにいたのはバアル=ゼブル、ヤム=ナハル。


 そしてアルバトールの宿敵であるジョーカーの三人であった。



[んじゃ爺さん、客人みたいだし俺らはこれで失礼するわ]


 部屋の中にいた旧神バアル=ゼブルは、アルバトールたちが入ってくるのを見るなり青い髪を虚空に流しながら席を立とうとするが、直後にフェルナンが人差し指の爪を机に立てて軽く音を出す。


 傍目から見ても何やらゲッソリとした表情に見える彼は、音がした直後にフェルナンの機嫌を伺うようにその顔を見つめ、そして絶望の表情でカウチに再び腰を下ろした。


「すまんなお主ら、今はこの悪ガキたちから目を離す訳にはいかんのでな。居心地は多少悪いかも知れんが、興行の手続きをこのままとらせてもらう」


[おい爺さんこれでも俺たちは……]


「理性も常識も持たず感情のままに破壊をもたらす。それを人間は子供と呼ぶんじゃ覚えておけ」


 そう述べた後、フェルナンは座の名前、興行の目的、期間、場所、人数、名前などの名簿や書類の提出を求め、差し出された何枚かの紙に目を通す。


「ふむ、しばしば耳にする座の名前ではあるな。書類のほうも特におかしな所は無いが、一つお主らに聞きたいことがある。どうして魔族に占領されたこのテイレシアに興行に来たんじゃ? 危険なことは子供でも判るじゃろ」


「へぇ、我々もそう思ったんですが、フォルセールの騎士団長さんのベルナールって方が、民は不安や不満を忘れるため、魔族どもは民の視線を逸らすために芸人を必要としているはずだ、と仰られるもんで」


 汗をかきながらベルナールが口にした説明の内容に、魔族の三人は一斉に彼の方を向き、その側に控えているアルバトールは心臓が口から飛び出そうなほど驚いて場の成り行きを見つめる。


[……そこの金色の髪を持つ男。どこかで見たことがある気がするな]


 そしてジョーカーがアルバトールを見つめ、側に近寄ろうとした瞬間、フェルナンから鋭い声が飛んだ。


「人の客人に対し、明確な証拠も無しに手を出すのはお主自身が決めた取り決めを破ることになるのではないか? ジョーカー」


[テイレシアを支配しているのは我々だ。最終的な決定はこちらで下す]


「一つの例外は限りない例外を呼ぶ。そちらが取り決めを破るなら、我々とて守る道理は無くなるぞ」


 冷たい視線を送ってくるフェルナンを見て、ジョーカーは面白くなさそうに鼻を鳴らすが、彼がそれで引き下がったわけではなかった。


[見たところ別人ではあるな……しかし、かなりの力の持ち主だ。なぜ貴様のような男が芸人の護衛などをしている]


「まったく同感ですね」


 アルバトールはその指摘に対し、フェルナンの隣に控えている男を指差して、逆にジョーカーに説明を要求する。


[詭弁を弄するか。どうやらアレとは違うようだな]


[あのボウヤは真っ直ぐすぎてバカ正直って性格だからな。愚直ってヤツか?]


 ジョーカーとバアル=ゼブルのやりとりを聞き、どうやら当面の危機を切り抜けたと感じ取ったアルバトールは安堵のため息をつき、その様子を見たフェルナンが魔族の二人をたしなめる。


「お前らにはまだたっぷりと言うことがある。仕事の邪魔になるから少し黙っておれ」


[もういいじゃろ。あまり怒ると産毛すら抜けてしまうぞハゲ]


「殺すぞ天辺ハゲ」


 ハゲ同士がやりあう中、ついアルバトールはヤム=ナハルの頭頂部を見てしまう。


 すると最初会った時に帽子で守られていたその箇所は、確かに河童のように天辺がハゲていた。


 何となくガスパールとそのウィッグを思い出し、表情を緩めたアルバトールがふと気付けば、ヤム=ナハルが顔をしかめて見上げてきていた。


[最近の若い者は老人に対する礼儀を知らんのう。早くハゲろ]


「天辺ハゲもそれくらいにしておけ」


[黙れつるっパゲ]


 アルバトールは二人のそのやり取りに苦笑をするが、その最中にフェルナンの脇に控えている男が同じく苦笑をしていることに気付いて視線を向ける。


 ごく自然体で立っているように見えながら、誰か変わった動きをした途端に飛び出してきそうな気配を持つその男ももちろんのこと、男が腰に着けている剣からも凄まじいほどの力をアルバトールは感じた。


 それは彼が今までに見たことが無いほどの力……鬼気と言っていいほどの圧力をその剣は周囲に放っていたのだ。


「八雲、これを」


 ごく普通に立っているだけに見える男が、知らず知らずのうちに放っているのであろうあまりの力に目を離せなくなっていたアルバトールは、フェルナンの声で我に返る。


 そして八雲と呼ばれたその男がフェルナンの印を押された書類を持ち、ベルナールの前で歩を止めて手渡した。


「ではこれが許可証だ。もし町で騒ぎを起こせば、我々はもちろんそこに居る奴らもお前たちを捕らえに来る。心しておくことだ」


 書類が手渡されるところを見たジョーカーは再び口を開こうとするが、そこにフェルナンが静かに手を組み。



「さて、それでは再開しようかの……」


 説教と言う名の地獄は開かれた。



「それでは我々はこれにて」


 ベルナールが殊更に慌ててみせ、自警団の執務室を慌てて出て行く芝居をし、アルバトールたちもそれに続いて部屋を出る。


 扉を閉めた瞬間、中からフェルナンの怒鳴り声が響き渡り、それにタイミングを合わせたように隣の部屋から副官の女性が顔を見せ、笑顔でアルバトールたちに団長が夕食へ招待したがっている、と告げた。


 しかしすぐに承諾の返事を返したベルナールに、セファールと名乗った副官の女性は事後承諾を取り付けてくる。


[バアル=ゼブルって方も来ますけど、気にしないで下さいね]


 セファールは幸せそうな顔でずっと髪に手をやったまま、暗い顔をして顔を見合わせる一行を置いて部屋の中に戻っていったのだった。

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