突入2日目
「定刻になりました。これより不夜城version1.0へのログインを開始します」
今日は散々な目にあった。メイドコスのエイリアン少女に捕獲された時に無くした部屋の鍵をなんとかゲットし、部屋の中からのログインができた。親切な人もいるらしく、鞄も無事に引き渡して頂いた。ゆっくり休みたかったが、これである。
直ぐに死んでもいいのだが、名前を奪う効果が無いと知れば、もっと重いリスクを掛けられるかも知れない。毎晩殺されるのも我慢ならないけど。リスクと言うのはゲームを楽しむ要素であるらしい、それを掲げたのは先のメイドコスのエイリアン少女だ。
どうでも良いが少女の略称が長すぎる。とりあえずは、ロリ博士としておこう。
ログインした先は前回と違い、崖で覆われ石と土と枯れ木しかない寂しい風景が広がる。今回は周囲に人の住んでいる気配がない。装備は前回同様の村人装備一式に武器は無しである。勿論、モンスターやプレイヤーに出会って勝てる気がしない。しかし、どうせ負けるならモンスターの方がいい。買っても負けても後味がわるいので、プレイヤー同士の戦いは好きではない。
1号は当面の目標を直ぐゲームオーバーしない事にした。そして、他のプレイヤーからの略奪を警戒して、他のプレイヤーが寄り付かない場所へ向かう事にした。
崖に覆われているが、登れない傾斜ではなさそうだ。さすがにここを登ろうなんてプレイヤーはいないだろう。装備が身軽なのも幸いして、山登りが始まった。
経験はなかったが、1号はスイスイ登れてしまった。20分くらい登って下を覗いて見てみると、落ちたら即ゲームオーバーな、高さに来ていた。
「もう少し上の方に、崖の割れ目から入れそうな所があるな」
入ってみると、内部は崖の割れ目から日が差していて、動物の骨らしき物がばら撒かれて散乱している。
「また、ベタな感じですな」
さらに進むと小さくて白い竜の子供が寝ていた。
「うぉー、ドラゴンめて見た。可愛いなぁ」※1
「キュ」
「あ、起きた。よーし、よーし」
1号は猫の要領で撫でてみた。余りに可愛くて、モンスターなのを忘れている。
「がぶ」
「痛いっ」
1号は案の定、手を噛まれた。
「頭は嫌なのね、背中はどうだ。なでなで」
「キュー」
背中は良いらしい。白い竜は満足げに鳴き声を上げる。
「ここは竜の巣なのか、母親が来る前に逃げよう」
ベタな展開と周囲の大量の骨を見れば、この子以外が住んでいる可能性がある。
「ギュオーン」
大きな羽で風を巻き上げて、多分親であろう巨大な白竜が背後に現れた。
「あー、やっぱりこの展開か」
入り口は入ってきた横穴一つで、逃げ道は見つからない。
「人間よ、わざわざ餌になりに此処まで来るとは愚かな事」
「しゃべった」
巨大な白竜は姿型に似合わず、涼しげな女性の声で話す。象の5、6倍ほどの大きさで、まさかの会話ができるタイプだった。
「何を言うかと思えば、知恵比べで我が種族に敵うと思っているのですか?」
「すみません。お話しされるドラゴンに初めてあったので」
巨大な白竜は知能とプライドが高いようだ。1号は落ち着いて、返答した。ここで死んでも失う物はなかった。そういえば。
「グギュオォォォォォォン」
巨大な白竜の鳴き声が砲号のように1号へ叩きつける。
「あ、地雷踏んじゃったか」
1号は死を覚悟する。まあ、昨日よりはログイン時間の更新ができたか。
「ドラゴンと?貴様、我らとあの俗物と見分けが付かないのか?」
巨大な白竜は1号へ高圧的な態度で問いかけてくる。
「キュ、キュ」
1号の足に竜の子供がすり寄ってくる。1号を心配しているように見える。
激怒していた巨大な白竜が急に沈黙する。竜の子供を見ているようだ。
「ふん、まあ良い。見逃してやる事にします。その代わり、お前にはお使いをして貰います」
ピコーーん。
緊張感のない音が聞こえ、1号はクエストを受注した。
「うへ」
1号が苦笑いしながら、目の前に表示されたクエストを確認する。
「お使いの内容は天運の碑石という石を持ち帰ることです。場所は人の城の深い処にあります。お前ならば容易く入れるでしょう」
巨大な白竜は、小さな石を1号の前に出現させた。
「使いなさい。その石を使えば、どこからでも此処まで辿り着く事ができます」
「なんて便利な」
1号が驚きの声を上げる。またこの子にも会えるのが何より嬉しい。
巨大な白竜から貰ったアイテムの名前は翼竜の飛翔石とある。2日目にして初めて手に入れたアイテムはキーアイテムで、取引略奪は不可らしい。
※1ドラゴン:自動翻訳機能にて、その惑星に馴染みの深い伝承や言い伝えから適切な物が選択される。
修正)1/22:1号と白竜の問答の誤字を修正した。
修正)1/23:インデントを修正した。




