早上がりDAY
「終わった、終わった。1号飲み行こうぜ」
「悪い、今日は行くとこあんだわ」
「……まさか、女か……」
「フッフッフッ」
ここはリアルの世界で、1号の職場である。第二水曜日は、会社の取り決めで、早上がりDAYとなっている。
愕然とする同僚を尻目に、1号は自分のデスクの上を片付け、仕事場を後にした。
1号の向かった先は、とある訓練施設。1号の住んでいるアパートから歩いて10分くらいの場所にある。
「あら?1号さん仕事はどうしたの?」
明るくて感じのいいおばさんは、2号が行方不明になった時に、必死に探していた佐藤さんだ。
「今日は仕事が早く終わる日なんです」
「そう、ありがとう。2号ちゃんも喜ぶと思うわ」
ここの施設の人達はみんな明るくて、こっちが元気をもらえる。
「……げ、何しに来たの?」
ただ一人を除いて。
2号は施設の庭のベンチで手でなぞって、本を読んでいる。
「ひどい言い方だな……せっかく、どら焼き買ってきたのに」
「おおー、1号さんエライ!」
2号は甘いモノが好物だと、ウズキから情報を得ている。
「勉強頑張ってるらしいな、佐藤さんが言ってた」
「もう、佐藤さんおしゃべりなんだから」
2号はこのゲームと出会って、世の中のあらゆる事に興味を持ち始めていた。
「今、ネバさんの秘儀クエストに困ってて、ヒントになる事無いかなと思って……」
「ふーん。あのお姉さん凄い人だったんだ」
2号は2個目のどら焼きに突入した。
「……で、何しに来たの?」
「勝手な事だと思ったが、目を治してあげようと思って……」
「本当に勝手ね」
ーーもっと喜ぶと思ったけれど、怒らせてしまったらしい。
「ハカセに頼んだの?」
「うん、本来はその惑星、地球の事なんだけど。その惑星の文化に影響を与える事をしてはならない決まりがあるらしい。けど……ロリ博士と取引をした」
2号のどら焼きを食べる速度が止まった。
「取引?」
「いや、また別の物を奪われるとかそう言う事じゃないから、安心してほしい」
ーー14歳の女の子とは思えない威圧感を感じたような。さすが、高レベルプレイヤーは違うな。
「そもそも、彼女達が地球へ来た目的は、ゲームの利用人数を増やす為だったんだ」
「こんなに凄いゲームなのに人気が無いの?」
「ウズキから聞いた話しだと、彼女達の惑星では人口が少ないそうだ。科学が物凄く発展して、人間の欲そのものを簡単に補えるようになった。そうして、次第に人口を増やすっていう本能的な性みたいな物が無くなったらしい……」
ロリ博士達の惑星では、科学の発展に伴い、病気や怪我で死ぬ事がない。また、食料生産の完全自動化により、飢えによる餓死もない。
人間の全ての欲求が簡単にコマンドひとつで体現できる為、犯罪が減少する一方、欲求そのものが薄れ、繁殖を繰り返す意味を持たなくなっていった。
このままでは絶滅を迎えると危惧した惑星の主導者達は、打開策にバーチャルな世界を利用しようと考え、そしてこのゲームが生まれた。
「つまり、取引の条件とは、このゲームの参加者を集めることなんだ」




