錬金ギルド
ここは北のサイハテの街。数軒の漁師の家と錬金ギルドがあるだけの小さな街だ。
「よう、サラ」
「あら、また来たの?懲りない男ね」
盗賊ギルドの ギルドマスターであるジンが女性に声を掛ける。ジンは街道を通る情報を得て、錬金ギルドの女ギルドマスターを待っていた。
「悪いと思ったが、お前さんの周囲を調べさせてもらった」
「なに、お説教?」
サラは黒い一枚の布を織り交ぜたような衣装を身につけている。頭と口を同じような黒い布で隠しているが、腹と手足は肌を隠していない。見た目では踊り子のような雰囲気が出ている。周囲の雪深い情景からは不釣り合いに見える。
「ちょっとやり過ぎだろう?うちの辞めたメンバーも囲っているらしいじゃないか」
「あら、キノコ代は多めに払ってるし、問題ないでしょう?」
「そういう事じゃない」
サラの開き直って悪びる態度に、ジンが更に凄みを増して問い詰める。
「あら?やる気?」
サラは腰のポーチから煙管を取り出して、吸いだした。
「うちのメンバーを自由にしろ」
ジンが大勢を低くして、腰の短刀に手を掛ける。
「野蛮な男は好みではないわ」
サラは煙を地面に吹き付ける。煙は紫色に周囲を染め上げ、幻惑となってジンを取り囲む。ジンは意表を突かれてしまった。
「なっ」
ジンは紫色の煙により、状態異常の麻痺が付与され、うつ伏せに倒れて意識が遠のく。
「殺すと面倒だわ、牢屋に入れといて」
「はっ」
黒い覆面の男数名がサラの後ろに現れ、ジンを手際よく運んで行く。
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「まずは情報を整理しよう」
盗賊ギルドの先輩マルコさんと錬金ギルドのあるサイハテの街で情報を集め、今は街外れで二人で落ち合っていた。
「この街の漁師に聞き込みしようと思ったのですが、既に薬の毒に侵されていました」
「やはりNPCでも中毒症状になるのか」
1号は数軒ある漁師の家を訪れたが、どの男達に話し掛けても応答がなく、目は虚ろで時折独り言を呟いていた。
タレコミ情報を整理すると、錬金ギルドは盗賊ギルドから大量のスークのキノコを買い、そのキノコで薬を製造しているらしい。
漁師達は実験台にされたか、口封じされたと推測される。
薬には酒よりも強い快楽が発生し、その快楽に溺れ中毒症状になってしまう。中毒症状が末期になると自我を形成できなくなって、漁師のような置き物になる。
プレイヤーでも同様に混乱、昏睡魅力、麻痺の状態異常が絶え間なく続く。
ただプレイヤーの場合は次の日、ログインし直すと状態異常が解除される為、ログイン後はスークの薬を求めてゾンビのように彷徨い続けるらしい。※1
「あれ、見てください!」
「ん?」
盗賊ギルドのメンバー数人が荷車で何かを運んでいる。運んでいるのは間違いなく、スークのキノコだろう。
「やはりこの場所で当たりだったな」
二人は盗賊ギルドメンバーから、薬の製造工場の場所を掴んでいた。
荷車は街外れにある大きな倉庫のような建物の中へ入っていった。
※1:プレイヤーがログインできる時間は、1日あたり最長で6時間に設定されている。
2015/2/17:誤字を修正した。
2015/2/19:錬金ギルドのマスターの名前を修正した。メイヤ->サラ