はじめての海
「これが海・・・」
2号は、いつものように裁縫ギルドのギルドクエストに取り組んでいる。今回は、特殊な素材が必要になり、城より南側に位置する海水浴ができそうな浜辺エリアに到着した。
2号はバーチャルな世界で初めてみた海に心を奪われていた。
数十分、足の装備を外して波と浜辺を楽しんでいると、ここに来た理由を思い出した。
「あ、素材探さなきゃ!」
素材見つけた後で、泳いでみよう。できるかなぁ。
浜辺で素材の捜索をしていたら、寝ているお姉さんに出会った。
「こんにちは」
「ふぁ、やあ、冒険者くん。何か用かい?」
お姉さんは布を部分的にちょっと巻いた大胆な衣装を着ている。
「ごめんなさい。モンスターもいるので、寝てたら危ないかなと思って」
「かっかっか、心配は無用だ。私は羽の生えたモンスターが苦手だが、それ以外は無敵だ」
大胆なお姉さんは、胸を張って話しているけど、布がはだけそうでハラハラする。
「羽ですか?」
「昔、白い竜に掴まれて、延々空を飛び回られた悪い思い出があってね。それから羽の生えたモンスターが苦手なのだ」
大胆なお姉さんは顔を青ざめながら思い出話をした。
「おお、冒険者くんレベル5ではないか!」
「は、はい」
2号は城下町防衛戦でレベル5に到達していた。
「申し遅れたな、私はネバという」
「2号です」
「どっかで聞いた名前だな」
2号は「あはは」と苦笑いする。
「よし、君にクエストを与えよう」※1
「はい?」
ネバはバンバンと2号の体を叩いて、何かを確かめている。
「ふむふむ、やはり人間は脂肪の付き方がイマイチだな」
「ぎゃああ」
「なあに、女性同士だ。気にする事はない、ふふふ」
ネバさんの顔が明らかにおかしい。2号は刀に手を掛けた。
「じょ、冗談だ。まて、やめろ、私は今、無手なのだ」
「次は斬ります」
「君、怖いな」
ネバは即座に両手を挙げて降参を示す。
「実は先ほど話したと思うが、白い竜に空を連れまわされたとき、愛刀を落としてしまってな。それを探しているのだ」
「その刀を探すクエストですか?」
「そうだ、刀は鞘も柄も燃えるように真っ赤だから、見たらすぐにわかるはずだ。名を紅一天、この一帯で目撃情報を得たのだが」
ぴょんぴょんと羽の生えたウサギが赤い刀を背中に下げて、二人の横を通り過ぎて行く。
「もしかして、アレですか?」
「うぎゃあああ、羽があああああ」
ネバさんは重度の「羽」恐怖症みたいだ。
「2号ちゃん、たのむ倒してくれ!」
ネバが2号の腕にしがみつく、この人本当に強いのだろうか。
「おうおう、小さい方の姉ちゃんやる気かい」
刀を背負ったウサギがしゃべった。オマケに眼帯をしている。
「あのう。その刀この人のみたいで、返してもらえますか?」
2号は喋るモンスターが初めてだったが、そういう事もあるんだなと簡単に受け入れていた。
ネバさんは2号の後ろで震えている。
「刀は俺っちの魂だ!欲しいなら倒して持って行きな」
ウサギのモンスターは器用に背中の刀に手を掛けて、2号を威嚇している。
「仕方ありませんね」
かわいいモンスターを手にかけるのは忍びない。2号は落ちていたヤシの実風の硬い果実を、頭上に放り投げた。そしてその実を一閃する。
2号は真っ二つに割れたヤシの実の片割れをウサギに手渡す。
「これと交換じゃダメですか?」
「ひええええええ、申し訳ありませんでぇ、ございましたあああ。お、お納めください」
ウサギは素直に2号へ刀を渡し、猛ダッシュで逃げて行った。
「ほう、若いクガの実を綺麗に両断するとは」
ネバは二人から安全な距離を取って、様子を見ていた。
「はいコレ、ネバさん。もう落とさないで下さいね」
2号は刀をネバに手渡す。
「野心のない奴だなぁー、その刀は最高ランクだぞ!持ち逃げしようとか考えないのか?」
「え?ネバさんの刀でしょ?」
2号はネバの言葉の意味が良く分からない。
「あはははは、気に入った。お前を弟子にしてやる」
※1:レベルが上がると冒険者のランクがあがり、一部のNPCからクエストを受注できるようになる。
2015/2/17:誤字を修正した。
2015/3/6:語尾の「やんす」追加した。




