お人好しの盗賊
今日もマルコさんと盗賊ギルドクエストのキノコ狩りに来ている。雪山の麓に現れるキノコ型のモンスターから、ドロップするアイテムを取りに行くクエストである。1人10個集めるとクリアとなる。マルコさんは世話焼きで、新人のノルマも手伝ってくれる。
盗賊ギルドに入ると、アイテムを盗む技の「盗む」が習得出来る。この盗むを使ってキノコを狩るわけだ。
「でかい」
「ありゃー、親だな」
二人が出会ったのは、通常よりも3倍くらいでかいキノコのモンスターだ。
「こいつは、ちょっと手強い。気をつけろ1号」
「了解です」
マルコさんの手解きのお陰で、盗むはもちろん戦闘方法やシステムメニューの出し方も覚えた。
システムメニューでは相手の名前などの情報を見たり、NPCやプレイヤーへのアイテム譲渡などが出来る。
「もらったー」
「まって1号!」
1号が安易に近ずくと、親キノコが大きく息を吸ってお腹が膨らんだ。
「ズフィー」
親キノコから大量の毒胞子が周辺にばら撒かれた。マルコさんは察知してすぐに離れたが、直撃してしまった。
1号はステータス異常となり、毒、混乱、昏睡、魅惑が付与された。
「くそ、コレでどうだ」
ズガンと親キノコの脳天にマルコのハンマーが降り落とされる。親キノコは沈黙して大量のドロップアイテムに変わった。
「やっと治った。お酒飲んだ時以上にクラクラしますね」
「悪かった、きちんと説明してから戦うべきだったな。下がっちまっただろ?」
マルコさんが謝り、回復アイテムを譲ろうとしている。
「手持ちあるんで大丈夫です。それより、下がるって何ですか?」
「あれ?下がってないのか、レベル」
「レベルですか?3のままですけど」
1号はブラックドラゴンを撃破してレベル1からレベル3に上がった。
「運の良いやつだな。実は俺も見たのは初めてなんだが。あの親キノコは、ごく稀に毒霧攻撃をして、そして浴びるとレベルダウンするって話さ」
なんて恐ろしい技なんだ。このゲームのレベルは滅多に上がらない。マルコさんから聞いた話では、この世界における貢献度が英雄値となって取得できるらしい。
そして、その英雄値を積み上げるとレベルが上がる。ポップする無抵抗なモンスターをひたすら狩ってもこの英雄値は取得できず、逆に減ることもあるそうだ。
大変だったブラックドラゴンの討伐クエストで、やっとの思いでレベル3まで上がったのに。あんな毒霧でレベルを下げられたら、コントローラー投げつけて二度とやらないレベルだ。(もちろん昔の家庭用ゲームの話である)
「もしかして、このドロップアイテムやばいアイテムなんじゃないですか?」
「錬金ギルドが買ってるらしいぜ」
また錬金ギルド、これは調べてみる他ないかもしれない。
「まさかと思うが、調べる気か?」
「本当の事を言うと、それが目的でして」
こんなに人の良いマルコさんが黒幕って事はないだろう。
「なるほど、それで盗賊ギルドに入ったのか」
「すみません」
マルコさんは少し残念そうに見える。
「正直、変だなとは思った。盗賊ギルドは他のギルドに比べてレベルが上がり難い。日陰で暗躍することがメインで、人気も低い。生産系に比べればお金を稼げるわけでもない」
「マルコさんは何で入ったんですか?」
「もちろん好きだからだ!」
「ふふ、ははっ」
「はははっ」
スキンヘッドが急に真面目な事を言ったので、二人して笑ってしまった。
「しゃーない、俺も着いていく。ロイドの奴が噛んでる気もするからな」
二人で錬金ギルドへ向かう事になった。