城下町 防衛戦
城下町は今、誰かさんのお陰でモンスターからの侵攻を受けている。リサさん達や戦闘系ギルドの面々はモンスターが湧き出る原因を突き止め、有志を募って城へ向かった。
「2号ちゃん」
「道具屋のおじさん、どうしたの?」
「あんたに、この刀を渡したくて」
道具屋のおじさんは、たまに武器や防具の修理をお願いしている。
「え?なんで私に?」
道具屋のおじさんは目が細くて、いつも気が弱そうな顔をしている。冗談を言う人ではないと思うけど。
「この刀は少々特殊で、扱える者がいなかったんだ。でも、あんたなら使えると思って」
ここは城下町の南側に位置する戦闘系ギルド内のギルドホール。今は城下町の住民が逃げ込む避難所になっている。
「嫌だなあ、私は裁縫屋さんだし。まあ、たまに素材の調達で戦闘はするけど」
私は戦闘はあまり得意ではないのだけれど。
「俺はこれまで色々な武器や防具のメンテナンスをやってきた。だからわかる本当の強さが。どんな風に武器と防具を使ってどうやって戦ったか分かるんだ」
道具屋のおじさんの細い目が少し開いた。そういえば博士もロビー区画でセンスがあるとか言ってたっけ?
2号は、道具屋のおじさん渡す剣を引き抜いてみた。
「軽凪」
「その剣は伝説の刀鍛冶ワッズが若い頃に作った業物だ」
刀部分が硝子のように軽く薄くて、透き通っている。片側に刃があり、まっすぐに伸びて長さは片手剣より少し長めになっている。
道具屋のおじさんが続けて説明する。
「その刀は極端に耐久度が低い。盾や剣で受けられると、すぐに使い物にならなくなる。鞘に戻す事により幾分は回復するが、大幅に減少するとかなりの時間を要することになるんだ」
「それで、扱いが難しいのですね。なるほど、切ったら直ぐ鞘に戻す感じかな」
「大変だ!モンスターの侵入を許したぞ!」
戦闘系のギルドの人が大きな声を張り上げている。
ドカンとギルドホールのドアを蹴破り、トカゲの頭をしたモンスター1体が入ってきた。
「この剣、借ります!」
この部屋に私以外ではヒーラーの方が1名、後方に2名のアーチャーがいる。ヒーラーの方は杖を投げ出して、うずくまっているし、アーチャーの2人も弓の扱いに慣れていないみたいだ。
本当の意味でこの世界で暮らす人々の事をNPCと言うらしい。彼らは私たちプレイヤーと違い、死んでしまうと復活できない。
この部屋には、道具屋のおじさんや、職人ギルドのみんな、街の木々の手入れをしているおばあさん、遊びまわる子供達、みんな避難している。
「私がやらなければ」
「シャアアアアアア」
トカゲ頭のモンスターがうずくまっているヒーラーへ、曲刀を振り上げる。
2号は刀を振り抜き、鞘に戻す。
曲刀を振り上げたモンスターがそのままの体勢で倒れ、トカゲの頭は体から離れて地面に転がる。
「ふわあああああ」
うずくまっていたヒーラーは、転がったトカゲの頭を見て真っ青になり、慌ててギルドホールの奥へ避難していく。
「こんなに素早く、的確に弱点へ」
道具屋のおじさんは、2号が描いた斬影に言葉を失った。
「1回切っただけで、耐久度が半分になっちゃった。たしかに鞘に入れると回復するけど、数十秒かかりそうですね」
「あ、ああ。地面や壁に打ち付けても減るから気を付けてくれ」
「はーい」
アドバイスに2号が明るく返事をするが、道具屋のおじさんはクスッと笑ってしまった。
「刀のお金はすぐに払えないですが、必ずお支払いします」
「気にしなくていい。みんなを守ってくれ」
子供たちや、職人ギルドの面々、おばちゃんたちが集まってくる。
「おねーちゃん、がんばってー」
「無理するんじゃないよ」
「2号ちゃんなら大丈夫だ」
ギルドホールに避難しているみんなが応援してくれる。
「はい!ちょっと行ってきますね」
素直にみんなに頼られて嬉しかった。2号はギルドホールを出て戦闘が激化している戦闘ギルド前の広場に向かった。
ーーそれから数時間後、システムメッセージが鳴り響く。
「おめでとうございます。ブラックドラゴンの討伐に成功しました。ラストアタックは1号さんです。」
「また1号さん、本当にあの人は」
しかし、城下町防衛戦の貢献度トップの欄に表示されたのは2号の名前だった。
2015 2/12:誤字を修正した。




