深海と光
目を覚ますと暗いどこかにいた。
でも肌の感触から海の底だろうか。
海の底にいるのに息が出来る。それは多分夢だからなのだ。
とてもリアルな夢だ。
周りを見渡しても何も見えない。でも上を向くと薄っすら光が見えた。
その光は何故こんな深い場所まで届いたんだ。そんなに頑張る必要なんてないじゃなあか。ここには光を必要とする物は何一つないではないか。
俺だってもう光なんて必要ない。絶望した人なのだから。人々は言う。
結果よりまず頑張る事が大切。
苦労はきっと報われる。
嘘ばかり言いやがって。
社会は結果主義ではないか。苦労したって骨折り損だ。そう決めつけるのは誰だ? と言われるかもしれないが。
だったら誰が苦労は報われると、結果より頑張りが大切だとっ‼︎ 肯定してくれるんだ‼︎
俺だって頑張ってきたさ。良いこともしてきたさ。なのにそれは全て無意味だった。
俺の負の感情が爆発する度に海は深くなってゆく。さすがは俺の夢だ。わかってる。
あ、あれ?
なんでだよ。
なんでまだあんたはついてくるんだよ。光さんよ。もう諦めろよ。ここを照らす必要はないのに。
誰もあんたを見たくないんだ‼︎
あんたを見る度に変な気持ちになるんだ!
俺は光に向かって叫ぶ。負の感情を吐き出す。
もう、俺は死にたいんだ……よ。
……ああ、そうか。俺は死んだのか。思い出した。俺は自分に絶望して、何もかも嫌になって……だから崖を飛び降りて自殺したのか。
はは……もう楽だな。
考えなくてもいいんだから。
もう、いいだろ?俺はよくやったさ。
そう自暴自棄になってまた水深が深くなるのに、光はそこにあった。
一つ疑問に思った。何故こんな性格の俺が頑張ろうとしたんだ?
記憶を掘り下げる。過去十八年間の記憶を。
そして、見つけた。
「お父さん! 読んでみて‼︎」
「おー、どれどれ。……ふむふむ。おっ……うぁっ! 失礼、ちょっとびっくりしてな。……ぬぁ! あははは
…………………………………………………………………お前、凄いな!面白いぞ!よく頑張ったなぁ〜父ちゃんは嬉しいぞ」
俺がまだ小さかった時に書いた、クソみたいな小説。でも頑張って、柄にでもなく考えて書いた小説。
それを読んでくれた親父は頑張ったな! 凄いな! と。その大きな、触るだけで安心感をもたらす手で撫でてくれたっけか。
ありゃぁ、嬉しかったな。
また、わしゃわしゃと撫でてくれねぇかな。
俺の上にある光は心なしか大きくなっていた。
突然、頭に様々な記憶が蘇る。
それはとても些細な記憶。お使い偉いねとか。ありがとうとか。
とりあえず、みんなが笑顔。
まだ俺の中には負の感情以外の正の感情が残っていたのか。
なあ、光さんよ。あんたはこうなるって分かってたから、諦めずに俺の上を照らしていたのかい?
だったらあんたは預言者にでもなればいい。
俺でもまだやれるって事が分かったのなら。
俺のやってきた行動に意味が、意義があるってのが分かったのなら、まだ上がろう。
っても自殺してしまったもんな。
はあ、後悔先に立たずってか。
でもよ。
夢の中だけでも光を浴びさせてくれよ。
そう言って俺は上を目指して泳ぐ。
ゴールはきっと果てしないだろうけど。
諦めずに泳いでやる。どうせ夢の中なんだスタミナは無限だ。
待ってろ‼︎ 光さんよ‼︎絶対、お前を全身に浴びてやるからな‼︎
気がつくと俺は天井が白いどっかの部屋にいた。
首を僅かに動かすとここは病院のベッド上だということが分かった。
どうやら、俺は死ねなかったらしい。
足の辺りに重みを感じたのでそこを見やると幼馴染のバカ女がいた。
ベッドの隣の椅子には親父もいた。
俺が少し声を出すと二人は目覚める。
「お、お前‼︎」
「り、流人⁉︎」
そして俺は一言言ってやるんだ。アホみたいに口を開けたり閉めたりしている二人に。
俺が今までどんな言動をしていたか知っている二人に。
「……俺さ……また、頑張ってみるよ」
と。