第二話 思い出したら
この世界が乙女ゲームの世界であるということに気づいたのは、前世の記憶を思い出してから、一年後、つまり今から一年前になる。
毎日病院で、退屈していた私に親友が貸してくれたもの。それが『トキメキ☆ズッキュン学園〜俺の心を君に〜』であった。
「なるべく普通のモノからプレイしてみなさい。慣れて来たら、ヴァンパイアモノや、和風モノや、ファンタジーも貸してあげるわ。」
なんて、親友は言っていたけど、私はそれ以降彼女に乙女ゲームを借りることはなかった。
だってなんだかムズムズするのだ。(今思えば、ドキドキだったかも)ただでさえ学校に行ってなくて、家族以外の男性に免疫がないのに、乙女ゲームの攻略対象者たちと言ったら....
「俺はお前のためなら、死んでもかまわない」
「ダメって言わないの?続きしちゃうよ....?」
「君を愛してる。こんなに人を愛するのは最初で最後だ」
世の中の高校生の恋愛って皆こんな感じなのか!となんだか絶望していたあの頃の私。
プレイ後に親友に聞けば
「何言ってるの。あれは世の中の女子の妄想を詰め込んだ夢のゲームなのよ。」
と言っていた。
次はどれにする?と言われたけど、もちろん私は丁寧にお断りしておいた。
そして、私のゲームに関しての記憶を蘇らせたのは目の前にいる、笑顔の金髪美少年、九条 啓吾である。
一年前に、隣の家に引っ越してきた同い年の男の子だ。
引っ越しの挨拶に彼が来た時に何処かで見た顔だな、とは思ったのだ。
ママ達が話している間に、名前を聞いてみると、
「僕?九条 啓吾です。よろしく」
と返ってきた。
『谷口 穂花』『母子家庭』の二つのキーワードだけでは思い出せなかった。
そこに、『金髪』、『九条 啓吾』、『隣の家』という情報が入ることで、ひらめく私の脳みそ。
ここは乙女ゲームの世界で、彼は攻略対象者の一人、そしてヒロインは私である、と。
そして、次にひらめいたのは今の状況がゲームの中では結構重要シーンと言うことだった。ここでものすごく可愛い笑顔(笑)で九条に笑いかけると、確か私は気になる存在になるんだとか。
さあ、どうする?私。
「よろしくね。私は谷口 穂花。同い年だし、仲良くしよう(無表情)」
答えは簡単だった。普通に接するのだ。
九条 啓吾、また攻略対象者を落とそうとは思わない。でも、私がヒロインである以上、今後も攻略対象者と接しない、ということは無理に等しい。
だから、普通に接する。確かあのヒロインはどんどん他人の事情に干渉するタイプだ。...だから、私は首をつっこまない事にしよう。
フラグを回収もしない。フラグを折ることもしない。
一瞬の間に思いだして、一瞬で決めた自分の生き方
自分でも冷静に対処したと思っているが、九条親子が帰った後は、ものすごく頭痛がした。自分がゲームの中の人間だと言うことは、やっぱりショックだったのだ。
あの日から、約一年。私と九条の関係は良好である。公園で会えば遊ぶし、今日、まさに今のように土曜日ママが家にいない日は、九条ママにお昼ご飯をごちそうになっている。そこに恋愛はない。まあ、正直恋愛がどういうものか、体験したことはないのだが。
「啓吾、準備出来てるよ、行こう」
「嘘だ。トイレの電気がついてます。後、扇風機も消してきてください。」
トイレの電気は、玄関から見えるとして.....何故扇風機⁈見えないよね⁉︎ってついてるし!怖!本気で怖い!
「ほら。僕の言うとおりついてたでしょう。さあ、行きますよ。靴はいて、バックもって。さあ、鍵しめて」
九条ってこんなキャラだっけ...?まだ出会って一年だけどまったくゲームとキャラが違うんですが。こんなエスパーオカンではなかった気がするんですが.......。