今日の運勢は
部屋はやや明るいがまだどちらかと言えば薄暗い。外からはチャボの鳴き声が聞こえる。
「あれ・・・。」
俺は今の状況を理解するのに数分かかった
「あのまま寝たのか・・・。」
昨日家につき服をきたままベッドにダイブし、そのまま寝てしまったことを思い出した。時計を見るとまだ午前5時。いつもなら熟睡している時間であろう。それでも寝る時間が
極端に早かったため眠気など一切なく、むしろ体調は抜群によい。
「こんなに早起きしたのは小学生のとき以来だな。」
6時半から始まるラジオ体操にむけてその一時間も前に起きていた小学生時代を思い出す。そんなことを考えながらリビングへ行くと母親が毛布を被って寝ていた。
「こんな所で寝てたら風邪ひくぞ・・。」
そんなことを言いながらも母親には本当に感謝している。女手一つで俺をここまで育ててくれ、今でも、働きもしない俺を何一つ文句を言わず養ってくれている。そもそも話をする機会はほとんどないが・・・。
「ごめんな、お袋・・。」
俺は心の底からそう思っていた。
朝ははやいがとりあえずシャワーを浴び、着替えを済ませた。
「今日も暇だ・・・。」
こんなんじゃダメだと思いつつもなかなか行動に移せない。テレビをつけてみると美人アナウンサーがこんな早朝にも関わらず昨日のニュースを眠そうな顔一つせず話している。ニュースがひと段落すると占いがはじまった。ちなみに俺は占いなどの類は一切信用していない。しかし暇なのでそのまま見続けることにした。
『ではまず11位から7位の発表だよ!』
俺はしし座だが、その中にはなかった。
『次は6位から2位の発表だよ!』
またしてもしし座はランクインしていなかった。
「おいおい12位だけは勘弁してくれよ・・・。」
いつのまにか占いに没頭していた。
『最後に1位と12位の発表だよ!』
俺はテレビ画面にくぎ付けになっていた。
『今日の1位は・・おめでとうございます!しし座のあなたです!』
「うしっ!」
たかが占いのはずが非常にうれしかった。
『1位のしし座のあなた、外食をすると吉です!もしかしたら運命的な出会いも・・・』
ほほう・・外食・・。俺は心でそう言った。
「たまには悪くないな。」
そう思言いながら朝ごはんはどこかで食べようと決めた。まったく信用していないはずの占いのはずであったが、いつのまにか完全にハマっていた。
「こんな朝っぱらから飯が食える店なんかあるのか・・。」
俺は今が早朝であることをすっかり忘れて家を飛び出したことを少しだけ公開した。
「まぁ、歩いてみるか。」
そう呟きながら俺は朝食の食べれそうな店を探した。ただでさえ田舎であるこの地域でこんな早朝から朝食の食べられる店を探すのは至難の業であった。
「何が『外食をすると吉です!』だよ。食える店すらないじゃねぇか。」
そんな愚痴をこぼしながらいつもは通らないような道を歩いて行った。するとこんな時間にも関わらず開いている店を発見した。よく見るとイートインスペース有で尚且つ朝の7時からオープンしている。今はちょうど午前7時を過ぎたところ。
「でかした!」
俺は何の店かも確認をせず一直線にそのお店に向かった。店の名前は『クロワッサン』。間違いなくパン屋である。
「ほほう、パン屋か、朝っぱらからご苦労様だ。」
などとニートが偉そうな口調で店内へと入っていった。
「いらっしゃいませ、おはようございます。」
早朝から元気な店員の声が店内に響き渡った。そういえばおはようなんて長い間言われた事なかったな。
「さて、何をたべようか。」
焼きたてのパンの香りが食欲を刺激する。俺は迷いながらもカレーパンと、ベーコンとチーズがのったパンを選択し、レジへと向かった。
「いらっしゃいませ、こちらは店内でお召し上がりですか?」
その時俺は初めて店員の顔を見た。
「あ・・・。」
時間が止まった・・ようにも感じた。この衝撃をとう他人に伝えようか。いや形容のしようがない。人生16年弱生きてきたがこんな衝撃を受けたのは初めてである。声が出ない。息が詰まる。0コンマ数秒の間に今までに感じたことのないような衝撃をいくつも感じた。こうみえて俺は同世代の人間よりも多くの人とかかわってきたことがある。ただこんな感情は初めてである。
「て・・・天使・・。」
俺は店員の顔をみてそう呟いてしまった。真っ黒で艶やかな髪、ガラス細工のように触ったら壊れてしまいそうな繊細な指。紫外線の存在を根源から否定してしまいそうな真っ白い肌。そして何よりあまりにも可愛すぎる顔立ち。水晶玉のような目と、黄金比ではないのかと疑いたくなるような二重瞼。主張のない整った口と鼻。決め手は守りたくなるような華奢で小柄な身体つきである。かわいい。かわいすぎる・・・。
「えっと・・・お客様?」
天使の一言で我に返った。
「あ、すいません、はい食べます!食べていきます!。」
声も可愛い。天使の遣いではないのか・・・俺は本気で思った。
「お飲物はどうなさいますか?」
俺は財布を見た、500円玉が一個ポツンと入っている。そこでなぜか現実に引き戻されたような気がした。
「あ、いえ、けっこうです。」
パンが2個買えるほどの値段のドリンクをいただく余裕は俺にはない。というか、この手の店はなぜこうもドリンクが高いのだろう。など自分では一生解決できない疑問を抱きながら店内の席に着いた。
「はぁ・・・」
パンの味がしない。食欲もあまりない。さっきの店員の事を考えるとなにも手がつかない。彼氏はいるのかな?何歳だろう?そんなことばかりを考えてしまう。
「あっ・・・」
俺はふと今朝の占いを思い出した。
「これか・・・。」
運命的な出会い、という単語を思い出し思わずにやけた。ときどき働いている姿が目に入るがあまりに可愛すぎて直視できない。
食べ終えたらすぐに帰宅をしたがその日中、その女の子のことが頭から離れることはなかった。