いつもの俺たち2
「ごめ~ん、ちょっと遅れちゃった。」
15時30分頃に現れたのは如月歩美である。見た目は幼く身長は160㎝弱。特徴は何と言っても黒く艶やかで腰まで伸びる髪と、幼い見た目からは想像できないふくよかすぎる胸である。いつもマイペースでのほほんとしている人物であり、なぜ真面目そうなコイツが俺たちのようなグレた人間とつるんでいるのかはよくわからない。歩美は料理の専門学校に通っており、今日は入学式のはずだが寝坊して行かなかったとか・・・。相変わらずコイツのマイペースさは底が知れない。それ以前に歩美の親がどんな教育をしているのかが知りたい。俺の言える対場ではないが。
「お前が遅れて来ない事は無いだろ。今度から歩美には30分前の集合時間を伝えようぜ。」
こう言っているのは一宮隆二。俺らの中で一番エネルギーが有り余っているやつと言えば万全一致迷わずコイツが指を差されるであろう。スペックは、身長は俺と同じくらいだが体重は60キロあるかないかの細身である。見た目は男の俺ですら惚れてしまいそうなイケメンである。先に言っとくが俺の恋愛対象は女だ。髪は茶髪で金色のメッシュが入っている。
「ひど~い、もし私がその時間に来たらどうするの?」
「その時は大地震が起こりそうだから俺はいち早く安全な場所へ避難する」
「うう・・・そんな殺生な・・・」
だいたい毎回集合するとこんなやり取りがオープニングのように行われる。
「俺と有紗は今夜仕事があるんだぜ、だからお前らと今日一緒に居られる時間もそんなに長くないの。時間は貴重だぜ?無駄に使ってたら、あっという間に死んじまうよ。」
その言葉が俺には少し重い言葉だった。
「はい、すいません・・・。」歩美にはそれほど響く言葉でもないのだろう。
隆二も仕事をしている。持ち前のイケメンフェイスを武器に16歳にして世の女性を虜にしている。未成年なのでお酒は飲めないと言っているがお酒なしでは回らない世界なので真相は未だに不明である。中2で煙草吸ってたくせに、というと、それはプライベートだ、などとうまいのかうまくないのかよくわからない返しをされた事がある。
つまりこの中でニートの生活を送っているのは俺だけでる。焦りはあるがそんな壁を感じさせない、そんな現実を忘れさせてくれる唯一無二の仲間がコイツらだ。俺のつまらない人生のなかの唯一の生きがいと言っても過言ではない。中学のころに起こした愚行もコイツら(主に隆二)としてきたことであり、数か月前の事であれいい思い出である。
「諸君、集まってくれてありがとう」。
俺は意味もなく偉そうな言葉づかいをする。
「とは言ったものの、いつも通り特にする事は無い。」
他の三人も当たり前のように頷く。
「そういえば・・・」
隆二が口を開いた。
「蓮、お前まだ仕事みつけてねえのか?」
隆二は意地悪で言っているのではない。本気で俺の為に言ってくれていることを俺は分かっている。
「あぁ、どうもこれと言ってやりたいことが見つけられなくて。」
本当は探してもいないが・・・。
「俺んとこの店こねぇか?お前の見た目ならすぐに№3くらいにはなれるぜ?」
隆二は店の№2と聞いていたのでコイツは自分の次と言いたいのだろう。もちろん隆二の事だ、悪気など一切ない。
「そうだな・・・ちょっと考えとくよ。」
隆二が善意で言ってくれた言葉を俺は軽く流してしまった。
数十秒間の沈黙が続いた。
ここはコンビニではあるが車どころか人通りもほとんどない。利用者もほとんど見たことがなく俺たちしか使ってないのでは、と疑ってしまうこともある。店自体もとても古く、奥に見える山と見事に同化し風景の一部になってしまっているような店である。ひび割れたアスファルトからまだ咲いていない菜の花が無造作に生えており、毎年このコンビニでこれを見ると春が来たなと感じるのである。
春は好きだ。なにもかもが新鮮に感じられる。だが今年は違う。やることもなくただひたすら退屈な毎日を送る日々・・・俺は春が嫌いになりかけた。
ちょっと落ち込みかけていた時、有紗が俺の両頬を引っ張って鼻が当たるのではないかという距離まで顔を近づけてきた。
「れーんー、今落ち込んでたでしょ?落ち込んでても何もかわらないぞー。皆で一緒に居るんだから落ち込まずに話しなよー。でないと一人で抱え込んで、悩んで悩んではげちゃうよー?」
コイツは本当に俺の事が良くわかっている。最高の友達だ。
「蓮、すまんな、変なこと考えさて。」
なぜか隆二が謝る。俺の為に言ってくれたことなのに。
「今のは蓮君らしくなかったよー。でなおしてこーい。」
歩美なりに俺の事を元気づけてくれる。
俺は本当に良い友人を持った。自分のためだけでなく早く皆を安心させるために何とかしないと。と俺は考えた。
「おっともうこんな時間だ。ほら歩美時間はあっという間だ。もう遅刻はするなよ。」
と隆二が言う。時計を見てみるともう17時半だ。
「あらら、ほんとうだ。今度から気を付けます・・・。」
「お前それ何百回言ったんだよ」
「何百回でも言います。」
「いや、それじゃ一生遅刻なおらねえじゃん・・・。」
なんて隆二と歩美のやり取りを見ていると落ち込んでいた自分が馬鹿らしくなる。
「それじゃ、俺は今から仕事に行く。今日は稼ぐぜえ~。」
「あたしも向かおうかな。今お金ないから頑張らないと。」
隆二と有紗がそう言って仕事に向かっていった。
「はぁ・・・俺もそろそろ仕事しねぇとな・・・。」
無意識にため息をついてしまった。
「ため息をつくと幸せがにげちゃうよ~」
歩美はそういっているが、俺には逃げる幸せもない。
「そうだな、歩美。今日は家までおくるよ。」
「ええ、悪いよ~。家の方向真逆だよ~?」
とは言いながらもうれしそうな顔をする歩美は本当に可愛い。
「いいのいいの、今日はそういう気分だから。」
「わ~ありがとう~。蓮君きっといいお嫁さんになるよ~。」
「いやいや、嫁にはならないだろ・・・。」
「あれ?ああそっか~。ん~なんだっけ?まあいいや~。」
「相変わらず歩美はマイペースだな・・・。」
会話はめちゃくちゃだが歩美と話してると飽きることがない。見た目も可愛く、スタイルも抜群なのにどこか抜けてる歩美。放っとけないタイプだ。今まで彼氏という存在を持ったことがなく、それについて尋ねてみたところ
「あたしなんかと付き合ったら男の人に申し訳ないからいつも断ってる。」
だそうで。自分がどれだけ男の心を揺さぶる存在なのかを理解していない。まあそれが歩美のいいところである。
20分ほど歩いたところでやや高級そうな住宅街が現れた。
「家このへんだよな?」
「うん、おくってくれてありがとう。今日も本当に楽しかったよ!」
無垢、純粋、歩美ほどこの言葉が当てはまる人間はこの世にいないだろう。歩美はそんな人だ。唯一の欠点を述べるなら俺たちみたいな所謂不良のような人間と仲良くしているところだろう。ただ歩美は俺たちのような不良を大切な仲間と思ってくれている。世の中ではクズ扱いされるような俺の事を大切な友達だといってくれる。こんないい子だ、そんじょそこらの男になんかに渡してたまるか、と時々親の気持ちにさえなってしまう。
「また皆が集まれる時は集まろうな。連続遅刻記録更新中だ、期待してるぜ?」
「も~あたしもしたくて遅刻してる訳じゃないよ~!。今度は皆よりも早く現れるからね~!。」
ちょっとふてくされてる歩美が一番かわいい。
「まあ、また遊ぼうぜ。今日はいきなり呼び出してごめんな。」
「いやいや~蓮君の誘いは24時間受け付けてますよ~。今日はありがとう。あとおくってくれてありがとう。気を付けてかえってね~!。」
「おう、それじゃまた。」
歩美は駆け足でいえの方向に向かっていった。俺は歩美が見えなくなるまで後姿を見守っていた。
「さて、帰るか・・・。」
独り言を呟きながら今来た道を歩いた。
「はぁ・・・。」
一人で歩くと道が長く感じられる。
「これからどーすっかなー・・・。」
またもや独り言を呟きながら歩き、誰もいない家についた頃には眠気もあり、そのまま自分のベッドにダイブして眠りについた。