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09 大剣の舞

旅を始めて2日目の朝も、昨日と同じく快晴だった。

セン達が泊まった村は王都から半日ほどにあるので、人の往来が多く、朝から賑やかだ。

宿屋の1階にあるレストランで、センは焼きたてパンで朝食をとっていた。

もちろんカラルも一緒だ。


「セン王子、カラル、おはよう」

2人に少しだけ遅れてザガンがやってきた。

「おはようございます」

「おはよう、ザガン!」

丁寧なカラルと元気なセン。

「お、セン王子、疲れはなさそうだな?」

「うん、全然疲れてないよ!」

「ははは、そりゃあ良かった」

ザガンは笑いながら席に座った。

3人が朝食を終えたころに、クートが下りてきた。

「ふぁあああああ」

「エンジェの騎士ともあろうかたが、のんきなものですね」

大あくびをするクートに、カラルはチクリと嫌味を言った。

「カラルちゃん、怒ってばかりだと折角の美人が台無しだぞ?」

クートの軽口に、カラルは無言で睨むだけだった。


クートが朝食を終えると、早速一行は北への旅を始める。

「セン様、足は大丈夫ですか? 疲れは残っていませんか?」

まだ幼いセンを気づかってカラルが声をかける。

「うん、全然大丈夫だよ。それよりカラルこそ肩のケガ、大丈夫?」

「はい、もう痛みもありません」

不安そうなセンに、カラルは微笑みで答えた。


「なーんか、姉ちゃんと弟みたいだな」

長身で黒ずくめのザガンは見た目こそ禍々しいが、その声質は明るく温かい。

「うん、ボクとカラルは小さい頃からずっと一緒だったから」

「ふーん」

天気も良く歩く速度もゆるやかだったので、旅というよりハイキングのようにノンビリとしている。

「そろそろ少し休みませんか?」

それでもカラルは、お昼までにはまだまだ時間はあったが、休息を提案した。

「おいおい、ちょっと過保護すぎないか?」

「いえ、無理をして何かあっては大変です」

苦笑いのザガンに、カラルは真面目に答える。

「試練の旅って、無期限ってわけでもないんだろ?」

「はい。でもこのペースなら、十分に間に合う計算です」

「それこそ何かあった時の為に、稼げる時は距離を稼いでいた方がいいんじゃないか?」

「そうだよ、ボクまだ大丈夫だよ」

「……わかりました、セン様がそう仰るのなら」

センに諭され、カラルは少しシュンとした顔で従った。


穏やかな旅路。

北部最初の都市ザカードへ続く道は、よく整備されて人の往来も多い。

昨日のことがあるので暗殺は注意しなければいけないが、モンスターに対してはほとんど警戒していなかった。

「キャアアアッ!」

まるでその緩んでいた気持ちを叱責するように、突然あがる悲鳴。

カラルは素早く結界魔法で自身とセンと守り、悲鳴の方を見た。

人の大きさほどあるコウモリのようなモンスターが5匹、上空から往来の人々に襲いかかっている。

「なんだよ、こんな場所にモンスターがいるのかよ」

ザガンは大剣を抜いて毒づく。

「王の試練中は、神獣に操られたモンスターが旅を邪魔してきます。きっとこれも試練の影響かと」

「なるほど、こういう事か」

ザガンとカラルが話している間に、クートが呪文を唱えて魔法の矢を数本放った。

だが、大コウモリはそれを避けてセン達に襲いかかってくる。


センとカラルは結界に守られており、クートは素早く攻撃を避けた。

自然とザガンが大コウモリと戦う事になる。

大剣を持つ黒い剣士と5匹の大コウモリ。

大コウモリが1匹、上空から襲いかかってくる。

だが……ザシュッ! 大剣が一閃、大コウモリを真っ二つに引き裂いた。

警戒しながら上空を旋回する残り4匹の大コウモリ。

今度は左右から同時に襲いかかってきた。

しかしザガンは慌てもせずにグルリと大剣を回す。

一周回し終えると、2匹の大コウモリは地面に落ちていた。

残り2匹は時間差で襲いかかってくる。

ザガンは正面からの突撃を避けつつ半回転しながら切り裂き、遅れて後方から襲いかかってきた最後の一匹を、正面から真っ二つに切り裂いた。


「あのスピードをその大剣で斬るか」

ザガンの戦いをずっと観察していたクートは、使う事のなかった剣を鞘に収めながら感嘆の声をあげた。

「タイミングさえ合えば、スピードなんて何とでもなるさ」

「そういえるのは、相当訓練した剣士だけだろーけどな。ザガンさんよ、あんたどこかで正式な訓練を受けたのか?」

「子供の頃、知り合いから多少な」

「ふーん」

クートはまだ何か訊きたそうな顔をしていたが、センが2人の会話に割って入った。

「ザガン、すごいねっ!」

目をキラキラと輝かせてザガンに駆け寄ってくる。

「あんなに早いモンスターを、そんな大きな剣でバッサリとやるなんて、すごいよ!」

「はは、まあな」

「ねえねえ、どうやってあんなに早く剣を振れるの?」

「剣の重さを利用するんだ。もちろんそれなりに筋力はいるけどな」

「そっかぁ……ボクも大人になったら出来るようになるかなー?」

「ははは、王様はこんな大剣を持つ必要はないだろ?」

「だって、格好良いもん」

「いいだろ?」

「うん!」

楽しそうに会話する2人を、カラルは少し嫉妬混じりの目で見ていた。

「カラルちゃん、男の子はああいうのに憧れるもんだから、気にしなさんな」

「気になんてしていません!」

声を荒げるカラルに、クートはやれやれという顔をした。


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