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08 最初の村

空がオレンジ色に染まる頃、一行は村に到着した。

王都と北部最初の大きな街ザカードの中間にある村で、二つの街を行き来する者がよく利用する村だ。

レストランや宿屋も多く、夕刻の時間でもまだ人の往来が多い。

セン達は大きな宿屋に部屋をとり、そのまま宿屋の一階にあるレストランに入ると、奥の席に腰を掛けた。


沢山のランプに照らされた明るい店内には、商人、護衛、旅行者など、ソーカサスの首都を目指す、あるいは首都から帰る者で賑わっていた。

王の試練を受けているセンに気づく者はいなかったが、見た目の派手なザガンは周りの人の注目を集めていた。


「なあ、ザガンさんよ」

注文した料理を待ちながら、クートがザガンに話しかけた。

「呼び捨てでいいよ、オレもあんたをクートと呼ぶから」

「ああ、ザガン、大剣もそうだが、その衣装もちょっと大げさじゃないか?」

クートがそう言うと、センとカラルがザガンの全身を見てうなずいた。

浅黒い肌に、目元にはザザの民を示す黒い羽の様な3本線の紋様。

2mはあろうかという細身の長身だけでも目立つのに、その全身は黒い革鎧で固めている。

ドラゴンの爪のように指先まである手甲も黒く、おまけに身長と同じくらい大きな剣を持っている。


「あんたほどの腕があるなら、そこまで派手な格好をしなくてもいいだろ?」

「そうでもないさ。祖国を持たないザザの民はあまり信用がないから、いい仕事にはつけないからな」

「はは、なるほど」

「それに、このほうが格好いいだろ?」

「えっ、そのような理由で、全身を黒鎧にしておられるのですか?」

カラルは赤い瞳を丸くしてザガンに訊いた。

「かあああ、これだから女はなー、なぁ? セン王子」

「え? うん、そうだよ、見た目は大事だよ」

「セン様まで……」

「さすが男の子、セン王子はわかってるねー」

ザガンは嬉しそうにセンに笑いかける。

センも笑顔で応えた。

「はぁ……」

カラルは手でこめかみを押さえ、ため息をつく。


いくつかの肉料理と、ソーカサス伝統の煮野菜が運ばれ、クートはワインを、ザガンはエールを片手に飲み食いする。

初めての旅、初めての戦闘で体力を使ったからか、センもおいしそうに料理を頬張る。

カラルだけは、野菜料理を少し食べただけだった。


「色々と聞きたいんだが、いいか?」

一通り食事が終わると、ザガンはカラルに顔を向けて訊いた。

「はい」

少し眠そうなセンを気にしながら、カラルはうなずく。

「そうだな、まずは王の試練について教えて欲しい。

お供が3人までって事は、他にもやっちゃいけない事とかあるんだろ?」

「そうですね……そこまで厳密なルールは無いようですが……

3人の仲間と神獣の元へと向かう、それさえちゃんとしていれば、あとは明かな不正でなければ問題ないと思いますよ」

「不正? 例えば?」

「例えば私がセン様の為に、人を使ってこの先のモンスターを退治しておくとか、

そういうレベルでなければ大丈夫と思います」

「国民からの協力は?」

「それは法律で禁止しています。試練の間は、神獣の影響でモンスターに襲われやすくなっています。

だから、下手に私達に係わると、モンスターに襲われる可能性が高くなるので、必要以上に手を貸すことは禁止されています」

「モンスターまで襲ってくるのか……そうだ、例えば伝説レベルの魔法アイテムを持ったりしているのはいいのか?」

「え?」

意味がわからず、カラルは訊き返した。

「いや、あんたら王族だし、そういうのを持っているのかなと思って」

「いえ……私とセン様が最初から持ち出さなければ、それは大丈夫です」

「オレやクートが持っている分にはいいのか?」

「はい、それはセン様の宿運の範囲です」

「なるほどな」

矢継ぎ早に質問したザガンは、腕を組んで何かを考えている。


「クートはエンジェの騎士だから、伝説の武器と同じレベルだよね!」

眠そうな目を擦りながらも、センは明るくクートに言った。

ソーカサス国最強のエンジェの騎士を、それほど信頼しているのだ。

「はっはっは、そうだな、セン王子は運がいいぜ」

クートはウィンクして答えた。

無精髭はあるものの、端正に整った顔はさまになっている。

「エンジェの騎士はそこまで信頼されているのか」

ザガンは腕を組んだままカラルに訊いた。

「はい……戦闘能力だけなら格が違いますから。あくまで戦闘能力だけですが」

「はは、そこまで戦闘能力だけって強調しなくてもいいじゃねーか」

棘のあるカラルの言葉に、クートは苦笑いする。

「ん? なんかあったのか?」

「いや、ちょっと人妻に手を出して、謹慎中なんだよ、俺は」

「はは、なるほど」

ザガンもクートが仲間になった理由を察して、苦笑いをした。

「ただ、セン様が受けられた王の試練……北方に向かう北の試練は、エンジェの騎士を3人連れた候補者も全滅した事があります。

私達の受けている試練は、それほど難しいものなのです」

苦笑いする2人とは違い、カラルは真面目な顔でそう言う。

「おいおい、マジかよ」

一騎当千、エンジェの騎士の実力はザガンも知っている。

それが3人もいて全滅した事に、驚きの声を上げた。


「だから、エンジェの騎士だけでなく、大魔法使いに謎の傭兵剣士、この組み合わせは悪く無いと思うぜ」

クートは不敵な笑みを浮かべて言った。

「え? どうして」

センはますます眠そうにしながらも、興味があるのか、クートに訊いた。

「俺達エンジェの騎士は、戦闘に特化しすぎている。

だから、カラルの魔法やザガンの傭兵としての経験の方が、旅には役に立つものさ」

「なるほど……」

「しっかし、こんな幼いうちに、そんな危険な試練を受けないといけないのか」

「いえ……それは……」

ザガンの言葉に、心配そうにセンを見るカラル。

「いいよ、カラル、言って」

「はい……セン様の父君、前王ハル様が何者かに暗殺されました」

センの許可を得たものの、カラルは気まずい顔で話した。

「暗殺って、神獣が守ってくれるんじゃないのか?」

「いえ、神獣はあくまで他国の侵略に対してのみ、それも大規模なものに限られます。

国内の問題、例えば内戦や、個人レベルの暗殺などには、例え殺されたのが王族の者でも神獣の力は及びません」

「そういう事か……」

「大きくて硬いが隙間の大きな柵。エンジェの騎士は神獣に対してそう認識しているよ」

クートが説明を付け加えた。


「なるほどね。で、それでなんでこんな子供の頃から、そんな厳しい試練を受けなきゃいけないんだ?」

「現在、この国で王の試練を受けた人物が、現国王のカサ様しかおられないのです」

「カサ王か……」

ザガンは僅かに眉をしかめる。

「カサ王はセン様の祖父で、ご高齢の為、仕方なく……」

「ああ、なるほど、もし現国王が亡くなれば、神獣の保護が受けられなくなるのか」

「はい、本当はセン様が成人なされるまで待ちたかったと思いますが……」

「ん? 暗殺の犯人がまだ捕まっていないのか?」

「え? は、はい」

カラルは驚いてザガンを見た。


カサ王はセンに跡継ぎを望んでいた。だから、少なくともあと5年は試練の開始を遅らせたかった。

だが、まだ前王の暗殺犯が捕まっていない。

つまり、暗殺がどういう意図で行われたものなのかもわかっていないのだ。

もし暗殺者が他国からの刺客だった場合、次の王の資格を持つ者がいない状態でカサ王まで暗殺されると、神獣の保護が受けれない状態で他国の侵攻を防がないといけない。

その状況を防ぐために、カサ王は祖父の望みより王の義務を果たした。

それは王族やそれに係わる者ならわかる事情だが、その事情を傭兵のザガンが簡単に見抜いた事に驚いたのだ。


「ファアアアアア、ねえ、そろそろ寝ようよ」

「そうですね」

最初の宿泊という事もあり、部屋は3つとった。

カラルとセン、そして、クートとザガンには一つずつ部屋が与えられた。

部屋に入りベッドに潜り込むと、センは間もなく寝息を立てる。

そんなセンに肩まで布団を被せ、優しい瞳で見つめるカラル。

考える事は沢山ある。

襲撃してきた刺客は誰が送り込んだのか? 都合良く仲間になったクートとザガンという強力な戦士。

これからの旅程。激しさを増すであろうモンスターの対策。


コンコン。

扉を叩く音が、思考を中断させた。

カラルは魔法で手元に光を灯し、扉の前に行く。

コンコン。

また扉を叩く音。

「誰ですか?」

「俺だ」

「クート様?」

「ああ」

カラルは警戒しながら扉を半分開ける。

「何か用ですか?」

「中に入っていいか?」

カラルはあからさまに警戒の目をした。

「いや、別にあんたを襲うつもりはねーよ、ザガンの事だ」

「ザガン様の?」

カラルはクートを招き入れた。

眠っているセンを気にして、2人は小声で話す。

「戦闘に特化した者として言わせてもらう。あいつは怪しい」

珍しくクートは真剣は表情をしていた。

「それはどういった理由ですか?」

「あの大剣だ」

「大剣……ザガン様の特徴ですね」

「ああ、あれは戦闘に不向きだ。モンスター退治ならともかく、ほとんどが人間相手の傭兵が、あんなでかい武器を持つ理由がない」

「それは私にも分かります。でも傭兵としてのインパクトとおっしゃっていましたが?」

「まあチンピラ傭兵が派手な格好をするのはよくある事だ。でもな、ザガンの腕であんな武器を持つ必要はない。

大剣を持つにしても、もう少し常識的な武器なら今の倍は強くなるだろう」

「それでは、どういった理由であのような武器を?」

「それはわからねえ。話した感じ、悪い奴では無さそうだが、警戒はしておいた方がいいだろうな」

「……わかりました」

「じゃあ……一緒に寝るか?」

「……」

カラルは無言でキッと睨みつける。

「じょ、冗談だよ、じゃあな」

悪い人ではない、それは何となく感じた。

傭兵と言いながら、ちょっとしたたたずまいや、食事の取り方も綺麗だったから、もしかしたら、どこかの貴族出身?

しかし、ザザ国はもう100年も前に滅びているのだから……。

カラルの夜遅くまで頭を悩ませるのだった。


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