04 旅の始まり
休暇中のエンジェの騎士、クートが仲間になった翌朝、3人は試練の旅に出る前に、ダム教のアブド司祭の所に行った。
豪奢に彩られた教会で、赤い幾何学的な刺繍を施された正装のアブド司教が3人を迎え入れる。
センはアブドにクートを紹介するが、二人は軽く挨拶を交わしただけだった。
「まだ仲間は一人足りないけど、3人で北の試練にむかいます」
「セン王子、あなたのことは我らダム教の神が見守っております。残り一人も、必ず良き仲間が見つかり試練を乗り越えることが出来るでしょう」
アブド司祭はそう言って微笑むと、センを抱きしめた。
「ありがとう、絶対に試練を終えて戻ってきます」
センはアブドに感謝の言葉を述べると、教会をあとにした。
「二人とも、ダム教なんか胡散臭いの信じているのかい?」
教会を離れて間もなく、クートはセンとカラルに軽口を言った。
「ダム教は元国教ですよ?」
センは少しムッとしてクートに答えた。
大好きだった母親が信仰しており、最も信頼する従者カラルの魔法の師匠が司祭を務めるダム教を馬鹿にされた気がしたのだ。
「でも、国教を外されちゃったんだろ?」
「それは父上の考えです」
センの父ハル王は、信仰の自由と名目に、ダム教を国教から外したのだ。
元々ソーカサスは信仰のあつい国ではなかったが、それでも国教から外れた影響は大きく、ダム教は国からの補助や多くの信者を失った。
大国ソーカサスの国教でなくなったことは、アルメディア大陸全土に支部を持つダム教にとって大きな痛手で、センが次期国王になることで、再びダム教が国教に指定されることを、現司祭であるアブドも期待し、応援もしていた。
「そんなに怒るなよ。エンジェで働いていた時、ダム教は色々と噂を聞いていたからさー」
睨むセンとカラルにクートは苦笑いしながら謝った。
国教だった頃は信者もお布施も多かったので、そのぶんトラブルも多かったのだ。
「以前は色々あったことを否定しませんが、先生……アブド司祭様は本当に素晴らしい方ですよ?」
カラルにもそう言われて、クートは気まずそうに頭を掻いた。
その気まずい空気を吹き飛ばす、可愛い声が響いた。
「センにいちゃま~」
止まっていた馬車の扉を開けて、異母兄弟のヒムがセンに駆け寄ってきたのだ。
「ヒム! どうしたの?」
可愛い弟が突然現れ、思わずセンも笑顔が漏れる。
「センにいちゃまのおみおくり~」
相変わらず女の子のような顔のヒムは、センに抱きついてニコッと笑った。
「ありがとうヒム。しばらく会えなくなるけど、ちゃんとお留守番しているんだよ」
「さみしいけど、センにいちゃまが帰ってくるのを待ってるね!」
「うん」
センが北の試練を受けることを決めたのは、このヒムを守るためだった。
権力欲の強い母親のせいで、まだ7歳のヒムが無謀な試練の旅を受けなくてすむように、センは最難関の北の試練を受けたのだ。
ヒムがどれだけそのことを理解しているのかはわからなかったけど、センはこの可愛い弟のために、絶対に試練を乗り越えてみせると心に誓うのだった。
ヒムとの別れを済ませ、ついに3人は王都の出口にまでやってきた。
「いよいよ旅の始まりだな」
どこまでも続く大地を見ながらクートは言った。
まだ行き交う人々は多いが、街とは違う雰囲気は、旅の始まりを感じさせる。
「セン様ならきっと試練を超えられます」
「うん!」
カラルの言葉に頷いて、センは、旅の一歩を踏み出した。




