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事実の仮定

快斗が目を覚ますと、自分のベッドに横たわっていた。


どういう経緯でここにいるのか分からず、とりあえず起き上がってリビングに出ると、そこはハリケーンでも起こったかのようにあらゆる物が散乱して破壊されていた。


「お。起きたか。気分はどうだ?」

キッチンでコーヒーを入れていた雄真が快斗に気づいて声をかけた。

「うん……」

雄真の声になんとなく返事をしてリビングを見渡しながらふと窓を見ると、外はまだ暗いままだった。

「僕、どれくらい気を失ってた?」

「丸一日だ。今回はすぐ起きたな。舐めた血が少なかったからか?」

「でも、やっぱり暴れたね……。」

「あ、すまん。まだ片付けきれてない。」

「いいよ、僕がやっとく。」

快斗はとりあえず側にあった一人がけのソファを起こそうとしたが、力が入らず持ち上げられなかった。

「大丈夫か?血飲むか?」

「大丈夫。すぐ治るよ。」

そう言ってまた同じソファに手を置くと、今度は力を入れる様子もなく軽々と起こした。

二つあるソファは両方ともズタズタになっていたがもう一つも起こし、二人はそれぞれに座って雄真はコーヒーを飲み始めた。

そのとき快斗が雄真の首に貼ってある大きな絆創膏に気が付いて声を上げた。

「雄真、首の!まさか僕……!?」

「大丈夫だ。俺の血を飲むことで拒否反応を打ち消そうとしたんだろ。前ほど大量に吸われたわけじゃないから心配するな。」

「他にも怪我してるよね?身体の動きで分かる。」

バレないように気を付けていたのに、やはり快斗には通用しなかった。

血のパートナーとして、快斗は雄真の体調の変化を本人以上に敏感に感じとる。

「お前、目敏いな。俺も普通の人間より回復が早いの知ってるだろ。」

「でも僕みたいにすぐに治るわけじゃないでしょ。」

「気合いでなんとかなる。」

「気合いって。」


快斗は力が暴走したとき、その間の記憶はない。

以前知らずに輸血用の血液を飲んだとき、どうなったかは後から雄真に聞いたけれど、今回も同じ行動をとったということは図らずも雄真が言っていた「本能」の行動ということになるのだろうか。

“人間"としてではなく、“ヴァンパイア"としての。


「で、何が見えた?」

心配してくる快斗の気を逸らすため、雄真が本題を切り出した。

「ああ、本人が出てきたよ。でもなぜかかなり追い詰められてた。」

快斗は記憶をなくす前に見えたものを、詳しく雄真に伝えた。

だが、それを聞く雄真の表情は冴えなかった。

事件の真相に早く辿り着こうとこんな危険なことをしているというのに、むしろ複雑になっている気がする。

「そうか……。検視報告によると、右胸にペン状の物で刺した傷があったらしいが、自分で刺したものだったんだな。」


快斗は雄真以外の人間の血を飲んだ場合、その人間の記憶や精神状態、トラウマなど、その人間の中で強烈に存在しているものが総合的な形になって見えてしまう。

それが死人の血だった場合、命を落とす直前が一番強烈な印象ということになるので、彼女の血を飲めば犯人に対する何かが分かるかもしれないと快斗は考えていた。

だが、彼女は犯人を指し示す何かを口にするどころか、殺される直前の状況にいるわけでもなさそうだった。


「誰かに命を狙われてたのかな?ひどく怯えてたし。」

自分が命を落とす直前の状況よりも強烈に印象に残っている恐怖。

一体何に怯えていたのだろう。

「いや……」

しばし考え込んでいた雄真が口を開いた。

「もしかしたら、ヴァンパイアが死ぬとパートナーも死ぬんじゃないのか?」

「え!?」

「お前が見た彼女の様子からして、そう考えるとシックリくるだろ。」

確かにそうかもしれない。

ヴァンパイアの彼が殺されていることを知らないようだったのに、あそこまで必死に帰ってくるよう懇願していたのはおかしい。

「じゃあ、ペンで自分を刺してたのは?」

「自分で噛み痕を作って、彼が側にいると思い込もうとした、とか。」

人は追い詰められると突発的に意味のない行動もしてしまうものだ。

まして生死が関わっていれば尚更。

「でも、彼女はヴァンパイアが殺されても生きてたよ?」

「同時に死ぬとは限らないだろ?」

「時間差で死ぬとも限らないよっ。死期がズレることに何の意味があるのさ!?」

「そうだけど、それは確認しようがないだろ。」

「そもそもヴァンパイアが死んだあとにパートナーも死ぬ理由はない!」

話しているうちに徐々に熱くなってきた快斗がついに叫んだ。

雄真の“ヴァンパイアが死ぬとパートナーも死ぬ”という説を必死に否定しようとしているのだ。

それを認めてしまうと、もし万が一、このヴァンパイアと同じように自分が誰かに殺されるようなことがあれば、必然的に雄真も道連れにしてしまうことになる。

だが、雄真は今までその事を全く考えなかった訳でもなかった。


自分の勝手な判断で快斗をヴァンパイアにしてしまったとき、声をかけてきたあのヴァンパイアは「人の命を無理矢理呼び戻すには、それなりの代償が必要になる。」と言っていた。

快斗が背負ったリスクは大きい。

パートナーの血液しか口に出来ないのに、食欲のサイクルは変わらないため、自分が死ねば快斗は餓死することになる。

しかも、ヴァンパイアになった5年前の26歳の時と全く容姿が変わっていないから、おそらく寿命は人間より遥かに長いか永遠かだろう。

通常より何倍も生きていけるというのに、どれくらい生きられるかはパートナーである自分次第なのだ。

一方、自分が背負ったリスクとは何だろう。

快斗の生命維持のため常に近くにいなければならない、だけなのか?

それなら、快斗がもし先に死ぬことがあれば、その束縛から解放されることになる。

あまりに不平等なリスクではないか?

ヴァンパイアがパートナーに命を預けているのなら、その逆もないと釣り合わないのでは?

だとしたらその条件は、“ヴァンパイアが死ぬとパートナーも死ぬ”しかない。

雄真はなんとなくそう考えていた。


「とにかく、言い争ってても仕方ない。彼女が何に怯えていたかよりも、今は早いこと犯人を捕まえるしかないな。」

結局、根本的な話に行き着いてしまった。

快斗は納得していない表情だったが、雄真は仕事に戻ることにした。

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