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手掛かり

快斗は高層ビルの屋上から街を見下ろしていた。


以前は恋人の梓とこのビルでよく星を眺めたりしていたが、今は彼女を殺害した犯人の手がかりを探すためにここにいる。

ヴァンパイアになって視覚も聴覚も嗅覚も鋭くなっているのにも関わらず、未だにはっきりとした手掛かりは掴めていない。

彼女が殺されたのは自分がヴァンパイアになる前のことなので、いろんなことが曖昧だ。

さすがに物的証拠に関しては雄真の捜査に頼るしかない。

と同時に、自分をヴァンパイアにした人物の手掛かりも探しているが、こちらは遅々として進んでいない。

こうやって感覚を研ぎ澄まして街を見渡しても、ヴァンパイアの匂いや気配を感じられないからだ。

雄真が担当している事件についてもそうだ。

三日前に雄真から、殺人事件の被害者が自分と同じヴァンパイアの可能性があると言われたけれど、ほぼ毎日ここで街の様子を探っているのに、その事件を察知することが出来なかった。

これは快斗がヴァンパイアの匂いを知らないからなのか、それとも感知出来ないものなのか……。

血の匂いはすぐに感じる取れるというのに、なぜだろうか。

むしろ世の中は血の匂いで溢れてる。

転んで擦りむいて血をにじませる者から、殴りあいをして傷つけあう者、何かの事故に巻き込まれて重傷を負う者………。


ふと、5キロほど離れた場所に雄真がいるのが見えた。

血のパートナーという関係だからだろう、雄真の居場所はすぐに分かる。

その近辺から血の匂いも強く感じられた。

殺人現場の捜査中のようだった。




雄真は被害者の死体を前にして、佇んでいた。

これは明らかにおかしい。


所持品から被害者の身元はすぐに判明した。

峰村梨絵、28歳。

全身に野犬にでも襲われたかのような咬み傷がいくつもあり、血液が抜かれていた。

ヴァンパイア事件の新たな被害者の可能性が高いが、模倣犯の可能性もある。

「鑑識や解剖の結果にもよりますが、おそらくヴァンパイア事件の続きですね。それにしても、なぜ急に複数人でのグループ的な犯行になったんでしょうか?」

上原が言った。

それも謎だが、雄真が気になっているのは、もしこの犯人がヴァンパイアだった場合、田渕将之の他にも複数のヴァンパイアが存在していることになってしまう。

もしかしたら、自分が思っているよりもずっと多くのヴァンパイアが世の中にいるんじゃないだろうか?

“田渕将之がヴァンパイア=ヴァンパイア事件に関わっている"と思い込んでいたけれど、もしかしたら彼は数多くいるヴァンパイアの中の一人に過ぎず、事件とは全く無関係なのだろうか?


ふと、現場に集まっている野次馬に目を向けた。

「快斗?」

人混みから少し離れたところにサングラスをした快斗が立っているのが見えた。

「どう?捜査は?」

雄真が近づくと、快斗が世間話をするように話しかけてきた。

「また殺人事件?」

「あぁ。ヴァンパイア事件だ。でも今回は複数犯っぽいんだよなぁ。」

「この前殺されたヴァンパイアは犯人じゃなかったってこと?それとも共犯者がいて、そいつが殺人を始めたってこと?」

「まだ何とも。」

快斗は雄真と会話をしながら現場周辺を見渡すと、被害者が横たわっている場所から少し離れた茂みの所で視線を止め、指差した。

「あそこから茂みの奥に向かって血痕があるから調べてみて。」

「ほんとか!?さすが。」

さすがヴァンパイア。

血には敏感だ。

「でもなんで血痕があるんだろ?わざわざここに運んだってことだよね?」

「前の事件まではそんな形跡は無かったぞ。それに体内に血が残されることも無かったけどな。」

「犯人違うのかな?それとも誰かに邪魔されて、途中で血を飲むのを止めざるを得なかったとか。」

「でもパートナー以外の血は飲めないだろ。」

「ヴァンパイアの仕業じゃないかもしれないし、もしくは僕だけ特殊なのかもしれないでしょ?」

「あ~。ヴァンパイア事件もこの前の殺人も、手がかりはあるのになかなか犯人に辿り着けねんだよなぁ。目撃情報もないし。」

「じゃあ、本人が何を見たか聞けばいいじゃん。」

「は?」

「まだ血の匂いもするし、そこに死体があるなら、少しくらい彼女の血液は採れるでしょ?」

「お前、まさか……。」

「おい。そろそろ捜査に戻れよ。」

立ち話をしている雄真を見つけた多田が、声をかけてきた。

「すみません。」

二人のもとに来た多田は、謝る雄真よりも隣にいる快斗に目を向けた。

「初めまして。いつも雄真がお世話になってます。」

サングラスを外しながら快斗が挨拶をした。

ちゃんと瞳の色は変わっている。

多田は快斗の綺麗な顔に一瞬驚いた様子だったが、すぐに人懐っこい表情になり、

「おーおー。君がコイツと同棲しているっていう、彼氏の快斗君かぁ!」

と言いながら、雄真の肩をバシバシと叩いた。

多田の声は元々大きいうえに、快斗にお目にかかれたという喜びでさらにボリュームが大きくなっていたため、回りの野次馬が一斉に三人の方を振り向いた。

「ちょっ!?止めてくださいよ!!っていうか、その噂広めてるのもしかして多田さんですか!?」

「なんだ、違うのか??」

多田は本心なのか冗談で言っているのか分かりにくい、大げさなリアクションで返してきた。

「違います!」

「いやいやいや。こんな美青年と一緒に暮らしてたら、間違いが起こってもおかしくないだろ。」

「間違いなんて無いですからっ!」

そんな二人のやり取りに特に何か反応するわけでもなく、快斗はサングラスをかけ直した。

「じゃあ、そろそろ行くね。二人とも捜査頑張ってください。一刻も早い犯人逮捕を願っています。」

二人、特に多田に向かって丁寧に挨拶をしてから、雄真に向かって

「じゃあ、さっきの話、よろしく。」

と言ってさっさと行ってしまった。

「何だ?夕飯の買い出しでも頼まれたか?」

「まさか。」

多田にはその程度のことに聞こえたみたいだが、雄真には快斗が言わんとしていることは分かっていた。


正直、気が進まない。

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