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発覚

それからの数日間は、雄真はもちろん、警察にとって地獄のような日々が続いた。



「こりゃ、ある意味見事な殺し方だよ。」

多田が血まみれで横たわる被害者の死体を見て皮肉たっぷりに言った。

20代半ばと思われる男性。

腹部には数ヵ所の刺し傷があり、頸動脈は深く綺麗に切られている。

殺そうとして殺した意思を感じるので、偶発的にやってしまったとは考えにくい。

だが隠蔽工作をしようとした形跡が全くないため、よほど捕まらない自信があるというのだろうか。

だが計画性は感じられない。

「ヴァンパイア事件に、今回の事件。こんな短期間で立て続けに殺人事件って、どうなってんだよ。」

雄真は捜査メモを取りながらため息をついた。


被害者の名前は田渕将之、29歳。

現場検証の結果、犯人のものと思われる有力な指紋が見つかった。

その人物は佐伯亮太、25歳。

未成年のときに何度も補導された経歴があったため、すぐに特定出来たらしい。

警察は彼を重要参考人として、すぐさま捜索を開始した。



雄真は、ヴァンパイア事件や今回の事件の司法解剖を担当した内場千絋に会いに来ていた。

犯人を特定するものや犯罪の証拠以外で、なにか不審なものがないか聞くためだ。

彼女とは何度も会っているので顔なじみなのだが、雄真は彼女が少し苦手だったりする。


「おかしいトコ?なになに?何か心当たりでもあるの??」

雄真より10歳は歳上の彼女が、好奇心旺盛な子供のような目で詰め寄ってきた。

「いや、この事件自体がおかしいですし、こんなに連続していくつも殺人が起こってるので、ヴァンパイア事件と関連があったりするのかなぁと………。」

「なーんだ、つまんないの。」

千絋は口を尖らせて、机の上にある資料を手に取った。

「事件とは直接関係無いんだろうけど、はっきり言っちゃえばおかしいとこだらけだよ?」

「例えば?」

「まず、虹彩の色かなぁ。」

「虹彩って、目の色ですか?」

「そう。こんな色、見たことない。公的な記録ではこの被害者の身体的特徴でそんなこと書いてないんだけどなぁ。」

「どんな色なんですか?」

「言い表すのはちょっと難しいかなぁ。グレーでもないし、ごく薄いブルーってわけでもないし……透き通るような白……違うな。ちょっとイエローっぽい感じも入ってるし……。あ。白っぽいシルバーに少しゴールドを足して透明感を出した感じ??」

「それって……!?」

快斗と同じ色だ。

「他には!?他におかしな所って何がありました!?」

雄真は思わず千絋に詰め寄った。

「お。ぐいぐい来るねぇ。えーっと。あと、犬歯が通常より尖ってたな。人工的に整形した感じでもないのに、これも記録に書かれてないんだよねぇ。」

快斗の牙は肉食獣のように突出して長く鋭いものではなく、数ミリほど長くて先が尖っている程度のものだ。

大きく口を開けない限り激しく目立つことはないから、細工したか人工歯を付けていると思われるくらいのものでもある。

「あとは!?」

「あとは、出血箇所が少ないなぁ。現場検証では着衣に切りつけられた跡がいくつもあったし、そこに本人の血液も多く付着してるのに、身体には傷が無かったんだよねぇ。致命傷になったのは頸動脈と腹部の刺し傷だけど、その腹部の数ヶ所の刺し傷も、場所によってはナイフより傷口が狭いものもあったりしてさぁ。」

恐らく、切りつけられたり抵抗した時に出来た傷は、犯人と対峙している間に治癒したのだろう。

腹部の刺し傷も、いくつも刺されている間に少しずつ塞がっていったのかもしれない。

でも、治る前に頸動脈を切られ、腹部の傷とともに出血多量で死んでしまったのだろう。

ヴァンパイアでも血を流しすぎると命を落とすということだ。

「写真………写真見せてください!」

「おー。ぐいぐい来るねぇ。」

千絋は楽しそうな顔をしながら雄真に資料を渡した。

………同じだ。

目の色も牙の形状も、快斗と同じだった。

雄真は確信した。

間違いない、この被害者はヴァンパイアだ。

でも、ヴァンパイア事件の被害者から出た指紋やDNAは彼のものとは一致しない。

それに血のパートナーの謎もあるから、彼が犯人だとは言いきれないが、もしかしたら何か事件と関係がある人物かもしれない。

さらに言うと、快斗をヴァンパイアにしたあのヴァンパイアということもあり得る。

「ありがとうございました!」

雄真は勢いよく千絋にお礼を言った。

「なになに?もしかして彼が君の理想のタイプだった?」

千絋は悪戯っ子のような表情を雄真の顔に近づけて言った。

「な、何言ってるんですか!」

「あ。そっか、君にはもう恋人いるんだよね。」

「は?」

「年下でハーフの、色白イケメンな彼氏がいるんでしょ?同棲もしてるって。有名だよ?」

「ちょっ……なんなんですか、それは!?止めてください!」

「しかも、彼の手料理を食べるために、どんなに忙しくても絶対家に帰るんでしょ?らぶらぶだねぇ。」

正しくは、快斗の料理を食べに帰っているわけではなく、“快斗の食事”のために帰っているのだが。

「勿体ないよねぇ。君自身もモテるのに。彼氏がいるならって、署内のかなりの女子が君のこと諦めてるよぉ。」

「誤解です!あいつは幼馴染みで、ただ同居してるだけで……。」

「色白イケメンと一緒には暮らしてるんだ。ふーん。」

千絋の悪戯っぽい顔は続く。

「と、とにかく。千絋さん、ありがとうございました。」

雄真はそそくさと部屋から出た。

やはり彼女は苦手だ。


そして雄真は快斗に電話をかけた。

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