私とたまご 6
地使視点です。
第三級地使であるワタシは、魔族に誑かされ、ヘドロに染まった地上の生き者たちの、魂回収、すなわち、ヘドロ狩りの任務についている。
地上には、邪神を崇める魔王がいて、その下に、魔王に付き従う上級魔族がいる。
魔族は手っ取り早く、手下を集めるために、地上に生きる者の魂に目を付けた。
初めの頃は、手当たり次第に手を出していたのだが、余りにも効率が悪く、まれに中級の魔族、あとのほとんどが、頭が弱くて低のうな、下級魔族ばかり生まれてくる。
その事実に、ウンザリした魔族は、たまご持ちに、ターゲットを変える事にした。
三年も前の事になる。
少年の中にある、使い魔のたまごがまだ、かえらない。
その隙を狙って、少年の前に、ヒッソリと魔族が近づいていく。
故意に、たまごの持ち主を死ぬほど辛い絶望へと叩き落とした後、魔族は、何食わぬ顔で現れ、耳元で誰よりも、優しく囁くのだ。
「ねえ、バカな人間なんてさ、絶望に苦しんむ君が、一番助けてほしかった時に、誰ひとり君を、助けてなんかくれなかったよね」
魔族は、幼子相手に言い聞かせるように、安心させるための、偽物の笑顔を浮かべながら、魅惑の香水を部屋全体に、ゆっくりと、くゆらせていく。
「可哀想だよね君。誰もが君を見くだして、影で笑いながら家族でさえ、君の死を今か今かと望んでいる」
魅惑の香水の効果が現れ、魔族に魅了されていく少年。
「ああそうだな」
次第に感情が抜け落ちて、表情を少年は無くしていく。
「全部、お前の言うとおりだな」
魔族はその言葉を聞いて満足そうにほくそ笑む。
そんな、ふたりだけしかいないハズのこの部屋に、唐突にふたりの人物が現れた。
共に第三位であり、天使と地使のヘドロ狩りである。
しかも、地使のヘドロ狩りの方は、ワタシが、誰よりも愛する婚約者。
ふたりのヘドロ狩りは、魔族の手から、少年を救い出すために、命をがけの死闘を繰りひろげる。
それは、何時間も続き、最後には、魔族と地使のヘドロ狩りの相討ちで、幕を閉じた。
彼が、命を散らしたその瞬間、ワタシは酷いめまいを感じ、ベッドの上に倒れこんだ。
ワタシの胸の谷間から、大事な婚約印が砕け散ったあと、愛する彼の名を、どうしても思い出す事が出来なくなっていた。
その時、ワタシは彼が死んだ事を知ったのだ。
いま、ワタシはあの頃の彼と同じ、ヘドロ狩りの仕事についている。
命を伴う危険な仕事であるため、女の身で、この職業に付くものはめったにいないのだが、ワタシはあえてこの仕事を選んだ。
魔族にたいする、復讐を胸に誓いながら。
かつて、ワタシには婚約者がいた、彼を尊敬し、愛し、いつか彼と結婚式を交わしたあと、彼の妻とになり、彼の子どもを生み、彼と共にそだてる。
もう、絶対にかなわない、何よりも叶えたかった、ただひとつのワタシの夢。