「ヤマビコ」
「ヤマビコ」・・・それは山に向かって言葉を放つと返ってくるアレのことだ。
何故返ってくるんだろう?
誰も気持ち悪がらないのだろうか?
誰も不思議がらないのだろうか?
こんなこと思うのはこの世でオレだけなのだろうか?
オレの頭の中を疑問が飛び交う…。
オレは山で最愛の人を失った。
オレとのハイキングの最中にオレの目の前で滑落したのだ。
その彼女の放った「助けて…!!」という言葉…それは「ヤマビコ」となって谷間に何度も反復してオレの耳に届いたのだ。
今でもあの時のことは忘れられない。
あの時以来、オレにとって「ヤマビコ」は苦痛となっている。
返ってこなければいいのに…。
そう思う…。
心の底からそう思う…。
その反面、オレが呼べば彼女の返事が返ってくるんじゃないだろうか?
まるで何かのドラマのように…。
時々こう思ったりもする。
オレの自分勝手な願いであることは自分でも重々承知している。
しかしそう信じたくないのだ。
そう考えたくないのだ。
そうなることを望んでいるのだ。
叶わない希望だと知りながら…。
そして最終的には自らの頭の中で自問自答を繰り返すのだ。
くしくもまるで「ヤマビコ」のように…。
今日も山麓の谷間に「ヤッホー!!」等とありきたりな言葉がこだまする。
彼等のように「ヤマビコ」を楽しんでいる人々もいるんだなと改めて実感する。
オレはそんな彼等の声を聞く度にあの時の「助けて…!!」という彼女の言葉が頭の中にテークバックしてまた苦悩することになるのだ…。