芸術と守者と牢獄と
「うわ~っ、すごい!」
ルミアンを見た凛の第一の感想がそれだった。それもそうだろう。家や道、すべてのものが空中に浮いているのだから。
魔法の町だけあって、いたる所に不可思議なものがあった。
ここの町の中央にも噴水があり、そこに大きな看板が出ていた。
『草花表展はここです!→』
大きく赤文字で書かれ、背景に様々な草花が描かれていた。
矢印に示された木造の部屋のドアを開く。
すると、そこは外に繋がっていて、草原のような広い場所になっていた。
どうやら、魔法で場所だけをここに呼び寄せたようだ。かなり魔力を必要とする魔法を扱うだけあって、さすが魔法の町という感じだ。
「これはフレンチーノですわね」
フレンチーノ。太陽を描いたような花で、綺麗なオレンジ色が特徴だ。太陽に向かっていくかのように、太陽の方角へと花が傾くのも大きな特徴だ。
「あ、これはルーナイトだね」
ルーナイトはフレンチーノと対照的に、三日月のような形をしている。さらに、新月の夜は蛍のように光りだし、新月の日をイベントにしている町もあるとか。
それ以外にも珍しい花がたくさんあり、二人は久しぶりに娯楽を堪能した。
「知らない花もあって面白かったね!」
凛は笑顔で、そう語る。空姫も微笑み返し、相槌を打つ。凛が子供のようにさっきみた花の感想を次々と言い、宿泊するホテルまではあっという間だった。
そして気がつくといつのまにか日がくれ、大分夜になっている。
ホテル内に入ると、木の香りが漂っていた。心を落ち着かせるようなそんな香りだ。
「すいません、宿泊の手続きをしたいんですけど……」
空姫がそう言うと、宿主は引きつったような顔をしてあわてて宿泊用紙を取り出した。
「こ、こ、こちらにお名前と宿泊期間を記入してくだっ……ください」
とても焦っている様子だった。二人はこの時、有名だから焦っていると思っていた。二人は名前を記入して、一日だけ泊まることにした。
用紙を宿主のほうに少し押し、終わりましたという合図をした。宿主はその紙を丁寧に取り、それをパソコンに記入して
いた。
「こ、こちらが鍵となります。部屋番号は3-1です」
差し出す手は震えていた。空姫は鍵を取り、その3-1号室へと向かう。
「ここですわね」
中に入ると、まず目についたのがその景色。魔法で景色を作っているのか、そこには草原が広がっていた。
空姫はポーチを外し、机に置くと、白いソファに身をゆだねた。さわり心地はふわふわと気持よく、もって帰りたいぐらいだ。
「先お風呂はいるねー」
凛はそう言い、お風呂場へと向かっていく。
「あがったら起こしてくださいな~」
空姫がそういったその時、部屋の扉がいきなり破壊された。
「な……!」
ドアに一番近い凛は急いでその場から離れた。凛は机に置いた刀を、空姫はポーチを腰につけた。
「貴様らを大量殺人容疑の疑いで拘束させてもらう!」
リーダーらしき人がそう言うと、部下と思われる人が部屋にどんどんと入ってきた。
「なによ、くんじゃな――」
凛が刀を抜こうとしたその時、自分の頭の横を何かが横切った。
それは氷のナイフで、牽制でもするかのように先頭の部下の足の近くに刺さった。
それを放ったのは、空姫だった。
「他人の部屋にズカズカと上がりこんで一体何ですの? 消し炭になります?」
せっかくの娯楽が台なしだとでも言っているかのようだった。言葉からは怒りが感じられる。
「構うな! 捕らえろ!」
リーダーが再び命令を下すと、部下たちは再び突っ込んできた。
(部屋が狭くてまともに戦えませんわ!)
そう思いながら空姫は詠唱を始めるが、部屋の狭さ故にあっという間に二人は拘束された。